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【大】魔導師様、目覚める!  作者: そういち
 第4章 大魔導師様、宇宙へ
19/39

マックス、襲われる(2回目)

「軍曹。この航路、なんだかおかしくないですか?」


 船の航路を調べながら、カリーナが怪訝な顔でそう告げた。


 通常、惑星から最初のゲートまでの航路は、色々な理由で惑星の管制に指示される。

 ゲートを利用しない宙域への移動については自由に決められるが、その場合、ゲートを利用する船が飛ぶ宙域への侵入は禁止されていた。


 トゲトゲは、最終的な目的地を指定してやれば、後は勝手に飛ぶ不思議な船だが、その機能は指定されたルートを飛ばなければならならい惑星近傍の航行には不便だった。

 結局カリーナが細かく位置を指定することになっていた。


「おかしい?」

「しばらく前に、ゲートを利用する船が航行するために確保されているエリアを大きく外れました」


 カリーナは、ゲート利用航路用宙域を薄く色分けした三次元ホログラムに、管制に指定されたルートと現在位置を重ねて表示した。

 どうも飛んでいる方向がゲート方向と違うので、ホログラム内で合成してみたら、まるで違う方向へ飛んでいることが明らかになったらしい。

 

 マックスはすっかり新しいUIを使いこなしているカリーナに感心しながら、近づいてその図を覗き込んだが、それが異常なことなのかどうかは判断できなかった。


「結構外れるんだな」

「結構なんてもんじゃありませんよ。定期航路から最大で二百万キロは外れます。遠回りも甚だしいですね」

「突然予定を繰り上げて出港をねじ込んだからじゃないか?」


 嫌がらせをされたのか、航路がなかったのかは分からないけどなと、マックスが苦笑した。

 

 定期航路のエリアは、おおむね直系六十万キロの円柱だ。

 一見広大な領域に思えるが、六十万キロと言えば、光速の十分の一で飛んでいれば、僅か二十秒で横切ってしまう距離なのだ。

 

 もしもそんな速度で往来していれば、簡単に事故が起こりそうなものだが、惑星近傍をそんな速度で飛ぶことは許されていない。特別に許可されている場合を除き、惑星に向かってそんな速度で飛ぶ船が惑星圏だと認識される距離に入ってきた場合は、質量兵器だとみなされて、有無を言わせず撃墜されても文句は言えないのだ。

 

「その可能性がないとは言いませんが、テラバウムの航路がそれほど混んでいるとは思えませんね。それに、それなら少し外れるだけでいいでしょう? いくらなんでもこれは……」


 現在トゲトゲは、定期航路エリアの外周から、百六十万キロ離れた場所を航行中だということだ。

 

「まあ、それほど急ぐ旅でもなし、のんびり行こうぜ、のんびり――」


 マックスがそう言いかけたとき、目の前を複数の光の帯が通過して、一発はシールドをかすめて虹色の跡を残した。


「な、なんだ?!」

「右上方の艦隊から砲撃を受けました。大口径レーザーの可能性92.4%。戦闘モードに移行します」


 ブリッジの照明の輝度がおちて、スクリーンの輝度が上がり、宇宙空間の中に座っているような状態へと移り変わる。

 

 星間法では、軍艦資格を有しない武装商船の先制攻撃は許されていない。攻撃や強制的措置を受けた場合にのみ、自衛のために抵抗することが許されているのだ。

 突然そういう状態になった場合は、トゲトゲが勝手に船を戦闘モードへと移行させ、臨戦態勢を整えるようになっていた。


「艦隊の攻撃? こんな場所でか?」


 ここは、テラバウムと〈イザヤゲート〉の中間だ。つまり航路の中では最も安全だと思われる場所の一つなのだ。


「バトルリング起動。指向性シールド展開しました。キャパシタ1から24までチャージ終了。反撃可能です」


 トゲトゲの声が淡々と準備が整ったことを告げる。

 次いで、フェリシアが、落ち着いた声で状況を報告した。彼女はピンチになると部隊の部品と化して冷静になる特技の持ち主だ。


「軍曹。サーチによると、敵までの距離七光秒。重巡洋艦1、駆逐艦3、フリゲート5、補給艦1。分隊規模です」

「なんでその規模の艦隊に重巡がいるんだよ?!」


「軍曹。大口径レーザーの有効射程は、標準的なものだと大体百万キロです。七光秒だとおそらく威嚇です」


 カリーナがそう進言した。

 七光秒は、およそ二百十万キロだ。有効射程の倍もあれば届いたとしても相手の船を傷つけることは難しいだろう。


 敵の襲撃を受けて、リンは待ってましたとばかりに椅子から飛び降りた。


「よし! トゲトゲ! アームドブレイカー準備!」

「イエス、マム」


 リンの嬉しそうな声にこたえたトゲトゲの落ち着いた声がブリッジに響くと同時に、船の周辺に奇妙な魔法陣が多重展開した。それはまるで、光でできた砲のように見えた。


「おい待て! リン! まだあれが敵かどうかわからんだろうが?!」


 世の中にはパトロールと言うものがあって、怪しげな船は臨検されても仕方がない。これだけ定期航路から離れるとそう判断されてもおかしくはないのだ。もっとも、臨検の前段階として威嚇射撃を行うことは珍しいが。


「いいか、ぐんそー。八千年前から襲われるのが商人で、襲ってくるやつは賊と相場が決まっているのだ! 甘っちょろいことを言っている奴には死が待っているだけだぞ!」

「雑! 雑いぞ、リン! どういう理屈だよ!」

「いいからやるのだ! 撃つのだトゲトゲ! お前の力を見せてみろ! 資材は目の前だぞ!」

「やっぱりそれかー!?」


「距離七光秒。アームドブレイカー発射します」

「おい!? アームドブレイカーってなんだよ?!」


 突然、訓練中に使用されなかった武器が登場して、マックスは焦った。何しろリンが調子に乗って作り出すアイテムは、非常識なものが多くてテスト無しでは大変危険なのだ。


「軍曹! 敵艦から通信が入っています」

「なんだと? すぐに出せ!」


 残念ながら、反撃はすでに行われている。もっとも相手は七光秒も先だから、さすがにこれが当たることは……いや、ヤバい……必ずあたるんだっけ?

 マックスは青くなりながらも艦長席に座ると、簡単に身だしなみを整えた。


「こちら、ノーライア帝国軍テラバウム方面分隊旗艦セレスティア艦長ミローシュだ、今すぐ停船して――うわぁああ!」

 

 通信は始まったかと思うと、すぐにミローシュ艦長の叫び声と共にぷつんと途切れた。それを見て、マックスはがっくりと机に突っ伏した。それは、攻撃が行われて丁度十四秒後のことだった。


「敵旗艦を含む三艦を分解しました。残り七艦です。攻撃を継続しますか?」

「ぶ、分解?」

「よーし、ドラゴンが金銀財宝しょって団体さんでやってきているのだ! アジトに案内させる一隻を残して、殲滅なのだー!」

「イエス、マム」


 のりのりのリンに、天を仰いだマックスは、副長の席にいたサージに声をかけた。


「おい、サージ。今のおっさん、ノーライア軍とか言ってなかったか?」

「俺にもそう聞こえました……」

「ノーライアにテラバウム方面分隊なんてあったのか?」

「〈ヨエルゲート〉よりもこっち側には、テラバウム以外の国家がありませんから、そんなものは必要ないはず――いや、もしかしたらイシュールへ例のフリゲートを届けに来た艦隊なのかもしれませんね」

「なるほど」


 マックスと、サージが逃避している間に、事態はさらに進行していた。


「全弾命中。最後尾の一艦を除いてすべての艦の分解を確認しました。残艦は回避行動をとり始めました」


 それを聞いてブリッジの全員が青い顔をしていた。一分そこそこといった時間で、重巡を含む十艦からなる分隊が壊滅したのだ。おそらくは数千人に登る乗組員と共に。

 しかも相手はノーライアの正規軍っぽかったし、この先何が起こるのか、誰にも予想がつかなかった。


「よーし! 追いかけてアジトを突き止めるのだ!」


 アジトだって?


「おい、待て、リン! ありゃノーライアの軍艦――あー、つまり国家の正規軍だぞ!」

「なにぃ? じゃあ盗賊のアジトなんかないではないか」

「そりゃあ、ないだろうな」


 あるとしたら、それは軍の基地だろう。そこへ殴り込むのはちょっと勘弁してほしい。


「じゃあ、国ごと潰すか?」

「ヤメロ」


 リンの発言は、どこまでが本気でどこからが冗談なのか良く分からないものが多い。全部本気だと受け取った方が被害が少ないことを、マックスはこれまでのことで学習していた。


「うーむ。なら、仕方がない、全艦殲滅なのだ!」

「うおい!?」


「了解しました。アームドブレイカー発射します」

「おい、リン! だから待ってっつーの!!」

「十隻で一隻を攻撃してきたのだ! 悪者にきまってるのだー!」

「ちょっと、黙ってろ!」


 ゴンという音と共にマックスのげんこつが、リンの頭に振り下ろされた。


「ぶぎゃっ!」


 リンは頭を押さえて、転げ回っているが、すでにアームドブレイカーは発射された後だった。

 

 マックスは、リンではなくトゲトゲを止めるべきだったのだ。

 艦長である彼の命令は、主であるリンよりも優先されることを、トゲトゲはすでに学習していた。主に星間ムービーで。

 

「ぐんそー、痛いぞ……」


 七光秒先で回避行動――通常は慣性制御システムが許す限りのランダム運動だ――を取っていたにも関わらず、攻撃は簡単に命中したらしかった。


「敵艦隊のすべてを分解しました。定期航路エリア内を除いて、三百万キロ以内に艦影はありません。通常モードに移行しますか?」


 トゲトゲの落ち着いた声が、リンの文句だけが響くブリッジに広がった。


「ああ。頼む」

「アイサー」


 通常の空間が戻ってきたブリッジで、リンは頭を押さえながら涙目でマックスに訊いた。


「ううう……ぐんそー、資材を取りに向かっていいか?」

「ああまあ……今更、しかたねーか」


 マックスはそう言ってリンの頭をなでてやったが、リンは恨めしそうに「ううう」と唸ってばかりいた。


 トゲトゲはショートワープを四回行い二百万キロをジャンプすると、周囲の重要なアイテムをリンの指示で、けん引ビームを使って引き寄せていた。

 どうやら一回のジャンプは、二十四キャパシタ利用で五十万キロ程飛べるらしい。

 

 いまだに信じられないと言った顔をした、パウエルとアダムス、それにショートとサージが、訓練通り資材を船内に運び込むためにウォーカーに搭乗()()()()()飛び出していった。


 船が通常の体制に戻ってしばらくすると、ブリッジの扉が開いてギリーがやって来た。


「おい、マックス、今のはなんだったんだ?」

「何って……あー、艦隊に襲われた的な?」

「はぁ?」


 マックスはギリーに今しがた起こったことを説明したが、彼はそれを聞いて顔色を変えた。


「ノーライアの分隊を殲滅しただと……しかも旗艦が重巡?!」

「ああ、まあな。報復があると思うか?」

「報復って……それ以前に分隊を単艦で殲滅したことに驚けよ」

「そいつは今更だ」


「……マックス、あんたリンに毒されてないか?」

「大分慣れて来たとは思うよ」


 ギリーは呆れたようにため息を吐いた。

 

「連中が詳しい報告をしてなけりゃ、どっかの艦隊と遭遇戦になったとでも思うんじゃねーか? 仮にこの船を狙ってたんだとしても、単艦で分隊を無傷で撃破なんてできるはずがないだろ」

「うーん」


 マックスはもう一度、手元のホログラムにさっきの通信を表示させた。こいつはもしかしたら、向こうの関係者まで届いているかもしれない映像だからだ。


『こちら、ノーライア帝国軍テラバウム方面分隊旗艦セレスティア艦長ミローシュだ、今すぐ停船して――うわぁああ!』


「ほとんどテラバウムの惑星圏で、ノーライアの艦隊が臨検するってのもおかしな話だし、まあ見ようによっちゃあ、停船させようとしたとき何かに襲われたようにも見えるか……」


 もしこの映像が送信されていたとしたら、こちらとの位置関係も送信されているだろう。その距離は七光秒もあるのだ。

 マックスは腕を組んで宙を睨んだ。


 しばらくそうしていた後、マックスは何かを振り切ったようにいい笑顔を浮かべて膝を叩いた。


「よし! ばれたらばれたときのことだ。海賊がノーライアの艦艇のふりをして襲ってきたから反撃したと報告しよう!」

「大丈夫かよ、それ」

「もちろんだ。さっきの通信記録を見ただろ? 連中のは『自称』だ。身分証明一つ提示していないし――トゲトゲ、ノーライアであることの証明をするデータは送られてきていないよな?」

「ありません」


 トゲトゲの短い返事を聞いて頷いたマックスは、ギリーに笑顔を向けた。


「な?」

「提示する前に分解されたって気もするんだが……」

「なあに、それは結果だろ? その時はノーライアの重巡が一撃で沈むはずないでしょうと笑えばいいのさ」


「連中が報告をしてなきゃいいけどな」


 そう言ったギリーの声にこたえたのはトゲトゲだった。


「軍曹。戦闘中、敵艦から発信された3THz以下の電磁波の類はすべて記録してありますが、通信だと思われるものの内容を確認する限り、混乱しているだけでこちらのことを報告しているものはありません。確認しますか?」

「なんだと? ……超指向性のものは?」

「マックス。宇宙空間で長距離通信に超指向性の電磁波を使うのは難しいぞ」


 あまりにも距離があるため、少しずれただけで受信ができなくなるからだ。戦闘中の短距離通信には、通信秘匿の目的で使われいるらしい。


「そうか。なら、後でチェックするから整理しておいてくれ」

「アイサー」


「それから軍曹。ご相談が」

「相談?」


 AIから相談されるとは、しかもそれをおずおずといった雰囲気で言い出すとは、いったいどういう世界なんだここはとマックスは思いながら、訊き返した。


「今回、初めて戦闘を経験して思ったのですが、私にはメモリが足りません」

「メモリって、プリックリーの量子コンピューターのメモリか?」

「そうです」


 まあ、戦闘中に敵艦から発せられた電磁波のすべてを記録しているような奴だから、足りなくなっても仕方がないかとマックスは思った。


「足りないってどのくらい?」

「十全に能力を発揮するためには、大体現在の百万倍ほど必要です」

「百万倍だぁ?」


 そのあまりの数値にマックスは唖然として、カリーナに助言を求めた。

 

「プリックリーの量子コンピューターは仮にも軍用ですから、標準で目一杯乗っていますよ。増やせてもせいぜい二倍がいいところだと思いますけど……」

「うーむ」


 増やしてやろうにも、開発元はとっくに倒産している。

 いまさら三艦しか作られなかったモデルの、拡張パーツなど作ってくれるメーカーもないだろう。


「それでしたら、外部にメモリサーバーを設置して接続してください。千倍程度の遅延なら許容できます」

「お、おお……まあ、リンと相談してみるよ」

「ありがとうございます」


「都合してやろうか?」


 商売のチャンスと見たのか、ギリーがそう言ってにやりと笑った。


「価格次第だな」

「そうは言ってもな、プリックリーに搭載されているメモリの百万倍というと、最低でも(ヨタ)クラスだろ? この際フットプリントは嬢ちゃんがどうにかするだろうが、こいつはメモリの価格だけでちょっとしたもんになるぜ」

「とりあえず、見積もってくれ」

「毎度ありぃ」

「まだ買うとは言ってないぞ」

「どうせ嬢ちゃんにほだされるさ」

「うるせぇ」


「しかし、自分で増設を要求するAIね。確かにちょっと変わってるな」


 ギリーは、以前リンに言われた、ホムホムがいないからバカになるという言葉を思い出していた。


「そうか? 古いコンピューターだって、『メモリが足りません』なんて表示されるじゃねーか」

「そう言われりゃそうか」


 ギリーは妙に納得したような顔をして頷いた。


次回は戦闘の後始末。「マックス、後始末する」

リンに掃除はムリなのだー!



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― 新着の感想 ―
[一言] 固まるよりも足らないと相談してくれるaiは良い。 でも、そのうちメモリだけでは済まなくなるホーに1000テン。
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