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【大】魔導師様、目覚める!  作者: そういち
 第2章 大魔導師様、馴染む
11/39

マックス、依頼される

2:40 26/11/2020 すみません。古い内容が投稿されていましたので修正しました。リンの工夫の部分です。

この先のストーリーには特に関わらない部分なので、読み直しは不要です。

「出頭だ?」

「はい。本部のホテルに出頭するよう、バリアント団長から連絡が来ています」


 マックスは突然の出頭命令に首を傾げながらも、ひげを剃って着替えると、サージに連れられて本部のあるホテルへと向かった。


 ホテルの入り口を入ると、ご機嫌とは言えない声がロビーから聞こえ、そちらを向くと、実に不機嫌そうな顔でカエル顔の少尉殿が立っていた。


 この間のミッションまでは、他のバイアムとの裏折衝で多少の信頼を得ていた彼だったが、それに失敗した挙句、我先にと逃げ出してしまったせいで、その信頼を失墜させていた。

 最後まで最前線に残って殿を務め、その上ありえないような大戦果を挙げて撤退を支えたマックスと同じ隊に居たばかりに、彼と比較されて、さらなる面目を失っていた。


「よう、リード軍曹」

「どうしました、少尉殿?」

「お前、クレリアで何かやらかしたのか?」


 それは奇妙な質問だった。

 彼が墜としたフリゲートが、聖地の上に落下したことはすでに万人が知るところだが、どうもそれとは違う意図で語られたようだった。


「どういう意味です?」

「いや、心当たりがないならいいんだ」


 そうしてケロゴールは別れ際に、暗い笑みを浮かべながら「せいぜい頑張るんだな」と捨て台詞を吐いてホテルを出て行った。


「なんだ、今の?」

「さあ? というか、本当に何もやらかしてないんでしょうね?」

「おまえ、戻って来てからずっと俺にくっついてたじゃん」

「それはそうですが……」


 実はマックスには、心当たりが一つだけあった。例の資材庫を漁った件だ。

 あれがバレていて問題になっていたとしたら少々まずいが、ここは最後までしらばっくれようと、彼は心に誓いながら、エレベーターのボタンを押した。


「何? お前もついてくるの?」

「出頭命令は、一応小隊レベルで発行されてるんですよ。だから小隊の副官たる俺も道連れってことなんですが……逃げてもいいんですか?」

「ダメに決まってるだろ。ダイムの前に一人で立ったらブルっちまうよ」


 団長の名前をファーストネームで呼び捨てにできるメンバーは少ない。

 マックスはその数少ない男の一人だったが、団長とどのような関係なのかサージは知らなかった。


「失礼します」


 本部の扉をノックした後、マックスとサージは連れ立ってその部屋へと入って行った。

 

「マクシミリアン・リード。お呼びに従い参上いたしました」


 いつものいい加減な様子を全く見せず、隙のない敬礼をしたマックスは、そのまま直立不動の姿勢をとった。

 それを見たダイムは、思わず噴き出して、「なにをしゃっちょこばってやがんだ」と混ぜっ返した。


「団長。せっかく決めてるんだから、混ぜっ返さないでくださいよ」


「それで今日はいったい何なんです? フリゲートの件だったら、あれは不可抗力ですよ」

「いや、それはもう終わった話だ。今日はな、なんというか――」


 ダイムが複雑な顔をして言いよどんだ。

 これはもしかしてヤバいやつだろうかと、マックスは気を引き締めた。だが、ダイムの口から出て来たのは、想像していたのとは違う内容だった。


「お前に指名依頼が来ていてな」

「は? 指名依頼? 心当たりがないんですが、一体誰からです?」

「教皇だ」

「はい?」

 

 マックスは、一瞬面食らった後、自分の耳がおかしくなったのかと、思わず聞き返していた。


「おそれおおくもクレリアの聖座を纏められる、いと高きお方だよ。この国のトップで、俺たちの最終的な雇用主の」


 そう言って彼が目くばせすると、ソリッドがマックスに1枚の書類を手渡した。

 その書類に目を向けたマックスは、その内容を見て、思わずおかしな声を上げた。


「なんだこりゃ?」

「そう。俺達もその依頼を受け取った時、まさにそう思った。だが、わざわざお前を指名してきたんだ。何か意味があるのかと思ってご足労願ったと言うわけだ」


 そこに書かれていた仕事内容は護衛だった。だが、ただの護衛ではない――


「ローズ星系のクリムゾンまで、教皇を送り届けろ? って、団長。俺達は陸戦のエキスパートですが、VIPの護衛となるとほとんど素人ですよ? 定期航路を使うなら、そっちの専門家がいるでしょう」

「いるだろうな。だが、定期航路を使えるとは思えんな。付帯事項を見てみろ」

「付帯事項?」


 マックスは少し下に小さな文字で書かれているそれを読んだ。

 

「襲われる危険性が大きいため、船は単独で運用すること?」


 定期航路に一緒に乗って、教皇を守るのだと思っていたマックスは、それを読んで面食らった。

 襲われる危険性が大きい? しかもこれだと、船の外部から襲われるような書き方だ。

 

「団長、こりゃどういうことです? セブンスナイトは陸戦専門のバイアムですよ? 今から船を運用するスタッフをかき集めるってのは、いくらなんでも無理がありませんか?」

「しかしな、軍曹。教皇からの依頼だぞ。こいつを断るのは無理だろう?」

「いや、無理も何も不可能な契約は――」


 そう言いかけてマックスははたと思い立った。


「――つまり、聖地をぶち壊したペナルティだと?」


 そのセリフにダイムは可笑しそうに笑いながら、「さあな」とだけ答えた。


「ちょっと待ってください。そもそもこれは、航宙隊の仕事では? うちの小隊は航宙隊じゃありませんよ」


 サージが思わずそう割り込んだ。もしもマックスのチームに命じられることになるとすれば、彼も確実に巻き込まれるからだ。


「心配するな、他の小隊にもそんなものはない。ともあれ必要な装備については、装備部に書類を提出してくれ。可能な限りは用意しよう。とは言え、クルーのいない航宙艦を用意するのは少々どころではなく難しいな」

「クルーのいない航宙艦……」


 サージが何かを思いついたかのようにそう呟いた。

 もちろんマックスには、彼が何を考えているのかが分かったが、それはあまり現実的とは言えないアイデアだぞと、内心かぶりを振った。


「ともかく、返事は明日一杯だ。依頼書を熟読して小隊で話し合ってみてくれ」

「話し合ったところで、結論は同じだと思いますが――」

「まあ、よろしく頼むよ、マックス」


   ****


 ホテルを出たマックスとサージは、しばらく無言でタクシー乗り場の手前で佇んでいた。


「軍曹。一体どうするつもりなんです? プリックリーを使うにしたって、畑が違いすぎて分が悪いですよ」


 彼らが所属しているセブンスナイトは陸戦を中心としたバイアムだ。いくら装備部に申請したところで、航宙艦は用意してもらえないだろう。惑星周辺の遊びで使うヨットならともかく少なくとも自衛能力を備えた艦が必要なのだ、レンタルすることも難しい。

 必然的にマックス達に許された選択肢は、メルシー商会のプリックリーを使う事だろう。だがリンがいじくりまわしているあの船は、本当に飛ぶのだろうか?


「航宙戦が専門のバイアムに下受けしてもらいますか?」

「それも考えたが、俺達じゃ足元を見られるだけだろ」


 俺達のバイアムに航宙艦がないことはよく知られている。だからこんな依頼を専門のバイアムに持ち込むと足元を見られて毟られる羽目になるのだ。


「それはそうですが……」

「なあ、サージ」

「なんです?」

「この依頼書、妙に細かいと思わないか?」


 マックスは契約の穴を探そうと、何度も繰り返し、なめるようにそれを読んでいたが、口実にして上手く断れるような内容はどこにもなかった。

 そして、その依頼書には、異常とも思えるほど細かいところまで記述されていたが、それはおおむね引き受ける側に有利に思える内容だった。


「報酬の800万クレジットは、ただの護衛ならともかく、航宙艦まで手配させる仕事としてはあまり高額とは言えませんね」


 運賃だと考えれば破格だが、今回は船から用意しなければならないのだ。経費が掛かりすぎる。


「だが、襲ってきた賊の資材は全部押収して構わないことになってるぞ?」

「賊がため込んでりゃいいですけど、そいつはあくまでも不確定なボーナスにすぎません。捕らぬ狸のってやつですよ」

「それはまあそうだが……」


 教皇からの直接指名依頼と言い、妙に設定の細かい依頼書と言い、異例ずくめの内容に、どうにも嫌な予感がしたマックスはおもむろにタクシー乗り場へと歩き始めた。

 

「軍曹?」

「ちょっと確かめたいことがある」

「確かめたいこと? あ、じゃあ俺も行きます」

「よし、来い」


 二人は連れ立って、無人のタクシーに乗り込むと、倉庫街を指定して車をスタートさせた。


   ****


 再びギリーの倉庫を訪れた二人は、そこでなにやらやっているリンを呼び出した。

 

「おお、ぐんそー。ぐんそーが来たってことは、早速ポッペウスから連絡があったのか?」

「ポッペウス?」

「現クレリア教皇ですよ」とサージが俺の耳元でささやいた。


 マックスはがっくりと肩を落とすと、おもむろにリンの頭をげんこつで挟んで、「やっぱりお前の仕業かー!」とこめかみをぐりぐりと攻撃した。

 リンは、しばらく我慢していたが、最後には天使のふりをしてポッペウスに依頼を出すよう枕元に立ったことを白状した。

 

 そのことは、今ではこいつが伝説の大魔導士だと確信しているマックスには理解できたが、サージにはまったく意味不明で、ただ目を白黒させているだけだった。


「ぎゃー!!」


 さらにパワフルなぐりぐりを受けて、涙目で手足をじたばたと動かしながら、リンは「だってだって、資材が足りんのだー!」とマックスに訴えた。

 サージとギリーは、こいつら何やってんのという冷めた目つきで二人の寸劇を見ていた。


「資材だと?」


 どうやら八千年前の魔法の触媒などは、自分の倉庫にたっぷりと保存してあるらしいが、現代の航宙艦を構成する物質に関してはそうはいかないようだった。


「ぐんそーが工夫しろと言ったのだ!」

「そりゃ確かに言ったが……」

「そ、それでな、思い出したのだ!」

「何をだよ……」

「盗賊を討伐すれば、その盗賊の持ち物は討伐したもののものになると!」

「……そういやそんな話をしてたな」

「実際は、雇い主がいる場合は、それとの契約次第ではありますけどね」


 マックスに視線で問われたサージが、連邦の法で決められている内容を繰り返した。


「それで依頼書がやたらと細かかったのか……」

「だから、航宙艦とやらを持った海賊どもを討伐すれば、労せずして航宙艦用の資材が――」

 

 その瞬間リンの頭にマックスのげんこつが落とされ、大きな音が倉庫に響いた。

 リンはうずくまって頭を押さえ、痛いのだーと転げ回った。


「お前、アホだろ」

「アホはぐんそーの専売特許だろ! 私は違う!」


 頭を押さえてうずくまっているリンが、涙目でそう訴えた。


「あのな、仮にその船が――」


 マックスは倉庫の奥に置かれているプリックリーを指差した。


「――物理的に飛べたとしても、一体誰が操船するんだよ」


「ん? ぐんそーでも飛ばせるようにしておいたぞ」

「おま、そんなことまで……いやいやまてまて。あのな、リン」

「なんだ?」

「航宙艦を飛ばすには免許(ライセンス)がいるんだよ」

「免許とな?」


「騎士の証みたいなもんだよ。誰でも騎士だと言えば、騎士になれるわけじゃなかっただろ?」


 彼女の正体を薄々感づいているギリーが、彼女に分かりやすく説明した。サージは、なんで騎士? と頭をひねっていたが。


「おお! では資格を取りに行けばいいではないか」

「そう簡単に行ける訳ないだろ!」


 そう言えば、騎士になろうと思えば、まずは見習い騎士から初めて、結構な時間が掛かっていたようだったなと思い出したリンは、口をとがらせて、後ろ手で、足元にあったなにかをポケッと蹴飛ばした。


「なんだ、御者くらい誰にでもできるのに。けちだな」

「科学の粋を馬車と一緒にするなよ……」


「いや、軍曹、待ってください。確か、カリーナが航宙士の資格を持っていたような――」


 カリーナはマックスのチームにいる、女性の一等兵だ。二等兵のフェリシアとペアで主に狙撃手をやっている。


「なにぃ? そういや、妙に工学に詳しかったな。しかし、もしもそれが本当なら、なんで陸戦で一等兵なんかやってんだ、あいつ? 航宙艦に乗ってりゃ給料だって今よりずっといいだろうが?」

「確か――空きがなかったとか」

「空き?」


 星間国家になって千二百年がたつとはいえ、同根の人類以外との接触はまだなかった。

 そのため馬鹿みたいにコストのかかる宇宙軍の艦艇数は頭打ちで、毎年輩出される人員に対して、その席の数は限られていた。一般兵ならともかく、操船するポジションともなると、交代を入れても1艦に数人しか必要ないわけで、余ってしまうのも仕方のないことだった。


「民間って道もあるだろうが?」

「まあ、そこは何か理由があるんだと思いますよ」

「そりゃ、理由はあるだろうさ」


 考えただけでおかしな話だ。もしも理由がなくて、なんとなくなんて話になったりしたら、カリーナは飛び切り変な奴ってことになる。


「じゃあ、そのカリーナとやらがいれば、飛ばしてもいいのか?」

「そりゃまあ、航宙士が必要とは書かれていても、航宙士以外が操船したらダメだとは書かれて――なかったよな?」

「書かれていてもバレやしませんよ。もっとも事故でも起こしたら登録航宙士の責任になりますけどね」

「まあそうだろうな」


「しかし、これで装備の問題は解決じゃありませんか?」


 嬉しそうに言うサージに向かて、マックスはくぎを刺した。


「待て。確かにうちのチームに来たミッションとは言え、こいつは、うちがこなすにはあまりにも畑違いだ。絶対に無理強いはするなよ」

「無理強い?」

「このミッションには希望者だけを連れて行く。最悪俺とリンの二人で行く」

「しかし、航宙士がいないのでは?」

「そこは、十日でなんとかするさ――」

「おお、さすがはぐんそーだ! 頼もしいぞ!」

「――こいつがな」


 マックスがリンの肩を抱きながら、にっこり笑ってそう言った。

 

「私か?!」

「仮にも大魔導士のリングア様だろ? 航宙士試験なんて軽い軽い」


 マックスがおだててやると、リンは「ま、まあな」とまんざらでもなさそうだった。


「あのー」


 それを聞いてサージが恐る恐る手を挙げた。


「なんだ?」

「軍曹。航宙士資格を取るためには、6ケ月の見習い実務期間が必要ですよ? そうでないと試験自体が受けられません」

「なんだと?! 間に合わんじゃないか!」

「むー、実力を見せるチャンスだったのに、残念だな!」


 全然残念そうに見えないリンがそう言って、小さな腕を組むと、全然悔しくなさそうに頭を振った。


「仕方がない。どこかであぶれた航宙士を一人だまくらかして――」

「軍曹。おとなしくカリーナに頭を下げた方がいいと思いますよ」

「だが無理強いは――」

「そこは大丈夫でしょう。うちのチームだけでこなすとしたら、一人頭ざっと100万クレジット近いんですよ? 断るやつはいませんって」


 航宙艦を個人で用意する以上、このミッションはバイアムとして引き受けると言うよりも個人で引き受けるミッションの色合いが強い。

 バイアムにはこういう状況のためにパーソナルコントラクトという制度が用意されていた。バイアム自身の手に余るミッションの場合、この制度を利用してメンバーがそれを引き受けると上納が不要になるのだ。

 サージはその取り決めを使うつもりなのだろう。だから一人頭が高額に計算されていたのだ。均等割りなのは小隊用ミッションボーナスの慣例だ。現場をはい回る連中の命の値段に階級は関係ないってことだ。


「だが、他の連中って、航宙戦に関しちゃ素人なんだろ?」

「兵装の扱いは、陸戦でも航宙戦でも大差ないでしょう」


 モニタに捉えてボタンを押すだけじゃないですか、とサージが力説したが、マックスには同じだとは思えなかった。


「そおかぁ?」

「それにまだ十日もあるんですから、訓練に充てる時間くらいありますって」

「いや、訓練って……十日って……マジかよ?」


 十日やそこいらで、航宙戦のエキスパートが育つなら苦労はしないだろうがと、マックスは非常に懐疑的だったが、それを聞いたリンが大丈夫だと太鼓判を押した。


「三日でも大丈夫だ!」

 

 結局マックスの小隊は全員がこのミッションに参加することに同意した。なにしろ地上で泥にまみれたりしなくてもいいのだ。非常に楽な仕事に思えたのかもしれなかった。

 宇宙じゃ泥にまみれる代わりに死ぬんだがなぁと、マックスは一人で悲観的になっていた。

 

 そうして翌日、教皇には依頼を引き受ける旨の連絡が行われ、出発は予定通り十日後ということに決まった。


明日から第3章「大魔導師様、楽しむ」です。

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