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49.大家さんと両親襲来

 色々ありながらも大家さんとの共同生活を順調にこなし、ついに大家さんの両親が訪問しに来る運命の日がやって来た。

 俺は珍しくスーツを着ていて、その隣には普段通りの格好をした大家さん。俺の部屋の前にて待機中である。


「あまり緊張しなくても良いわ。貴方は貴方の出来ることをしなさい。大丈夫、私の両親は私と同じように素晴らしい人間よ」

「それ聞いて逆に緊張してきました」


 大家さんと同じってそれ大丈夫なんですか。少し失礼かもしれないが大家さんと同じということは俺からしてみればそれつまり、まともではないということなのだ。緊張しないはずがない。


「それにしても遅いわね。もうすぐ着くと連絡を受けたのだけれど」

「もしかしたら道に迷ってるとかですかね」

「そうね、この辺りは少し入り組んでいて分かりづらいものね」


 大家さんは一言漏らすと続けて俺に念を押す。


「良い? 作戦通り間違っても私のことを『大家さん』と言わないこと。それだけは守って頂戴」

「小春さんですよね。分かってます。この一週間言われ続けたことですから」


 そうだ、俺はこの一週間大家さんとの共同生活で強固な絆を築いてきた。


──ナッキー、早くお茶を持ってきなさい。


 そう、強固な絆を築いてきたと思う。


──貴方の夕食は面倒だから麺で良い? 貴方好きよね?


 強固な絆を……。


──そんないやらしい目付きで私の三メートル以内に近づかないでくれるかしら? なんだか吐き気がしてきたわ……。


 この絆で本当に大丈夫かな。この一週間、大家さんと(ろく)な絆を築いてきてないんですけど……。


「そう、ならもう少しマシな顔をしなさい。今にも冥界に誘われそうな顔をしているわよ」


 それって俺が今にも死にそうってことですか。確かに気分が悪いし、鼓動も少し速い気がする。

 だがしかしここまで来たらやるしかないのだ。今の俺は大家さんの彼氏。しっかりしなければ。


「気を付けます……」


 俺の少し強ばった返事に大家さんはため息を吐くと、目の前に立ち、ゆっくりと俺の肩に両手を伸ばしてくる。それから彼女は俺の肩にそっと手を置くと優しく撫で始めた。


「肩の力を抜きなさい。リラックスよ。今の貴方は私の彼氏でしょう?」

「そうですね」

「だったらもう少し頼りになるところ私に見せて頂戴。なんならいつもみたいに私の体を舐め回すように見て、心を落ち着けても良いのよ?」

「いや、そんな目で見たことないですし見ないですから」

「そう? なら私の靴下を持っていくと良いわ。普通の成人男性は皆──」

「その偏った知識は以前聞きました」

「そう、それなら水でも飲む?」

「いきなり普通ですね。じゃあ折角なので貰っても良いですか?」

「ごめんなさい、言ってみただけで本当は持ってないわ」


 いや持ってないんですか! さっきから何なのこの人。俺のことなんかより自分の頭の心配をした方が良いんじゃないですかね。しかし今回は悔しくも彼女の奇行に助けられてしまったみたいである。


「なんかもう緊張してたのが馬鹿らしくなってきましたよ」

「それは良かったわね」


 それかもしかしたらこれは大家さんが狙ってやったことなのかもしれない。緊張している俺をリラックスさせるために大家さんが一つ芝居を打った。だとしたらなんと不器用で、なんと俺をからかう方向に特化した方法なのか。まぁ彼女らしいと言ったららしいのだが。


「ありがとうございます、小春さん」

「貴方は一体何に対してお礼を言っているのかしら? 毎日私の体を舐め回すように見ていることならお礼よりも寧ろ謝罪の方が欲しいのだけれど」

「さっきも言ったと思いますけどそんな目で見てないですから、他の人に聞かれたりしたら面倒なので誤解を生むような発言は止めてください。それより来たみたいですよ」


 呆れた俺がふと向けた視線の先では一組の壮年の男女が何かを話し合いながらこちらに歩いてきていた。恐らくあの仲の良さそうな二人が大家さんの両親なのだろう。


「確かにそうみたいね。さぁ気張っていくわよ!」

「何ですか、そのテンション……」


 それから俺は彼女の両親がこちらにやってくるまでの間、大家さんの横で彼女の謎にテンション高めな掛け声をずっと聞いていた。もしかしたら彼女もそれなりに緊張しているのかもしれない。



◆ ◆ ◆



 現在俺の部屋には俺と大家さん、そして丸テーブルを挟んで彼女の両親の四人がいた。四人が座るには少々狭い部屋、そのせいなのか心なしか部屋に漂っている空気も重々しい。そんな中、初めに口を開いたのはニコッと笑みを浮かべた大家さん母だった。


「改めましてこんにちは。私は小春の母の大家(おおや)春子(はるこ)。そしてこちらが父の夏夫(なつお)です」


 大家さん母──春子さんの紹介に合わせて大家さん父──夏夫さんが軽く会釈をする。


「これはご丁寧に。私は小春さんの彼氏をさせていただいています猫宮夏樹と申します」


 二人の第一印象は明るい女性と表情をあまり表に出さない寡黙な男性。簡単に言うならば小夏ちゃんのような母と大家さんのような父である。やはり親子は似るようだ。


「それで単刀直入に聞くけれど、小春とはどこまで済ませたのかしら? 恋愛のABCで言うCまではいった?」


 この人、いきなり物凄いこと聞いてくるな。突拍子もなさすぎて一瞬大家さんが言ったのかと思った。そういえば一応この人達も大家さんか。訂正、小春さんが言ったのかと思った。


「はは……どうですかね」


 大家さんの母親だけあって中々に個性的な人だな。俺は内心そう思って軽く微笑んだ。


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屋上に呼び出されたので告白されると思ったら、弱みを握られていてピンチな件
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