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44.大家さんと冬支度

 アイスメイズさん兄と勝負を始めてから早数時間、俺はようやく一息付いていた。隣には疲れた表情で地面の一点のみを見つめるアイスメイズさん兄。まぁ断熱シート貼りから始まって、各室内の壁と床の隙間を塞ぐ作業、アパートの敷地内の掃除に、駄目押しで大家さんの部屋の掃除。これだけこき使われれば誰でもそんな状態になる。というか最後の大家さんの部屋の掃除ってなんだよ。何でちゃっかり俺達にやらせてるんだよ。


「二人ともご苦労様、中々に良い働きっぷりだったわよ」

「それでこの勝負はどちらが勝ったんだ?」

「そうね、引き分けかしらね」

「そ、そんな……俺は一体何のためにこんな重労働を……」


 大家さんを喜ばせるための重労働ですね。でもこれが大家さんのやり方だ。極悪非道を地で行くのが彼女なのである。


「ところでナッキーに一つお願いがあるのだけれど」

「はい?」

「連絡先を教えてくれないかしら?」

「何が目的なんですか?」


 いきなりどうしたの? デレ期なの? それかまた新しい俺を使った遊びを思い付いてしまったのかもしれない。


「どうしてそう警戒するのかしら。普通私みたいな可憐な女性から連絡先を聞かれるなんてとても喜ばしいことだと思うのだけれど」


 そりゃ大家さんじゃなくてこれがもし須藤さんとかだったら俺だって飛んで喜んでましたよ。だがしかし今現実に連絡先を聞いているのは大家さんだ。教えたとして一体何をしてくるのか分からない。単純に怖い。あと怖い。


 それにだ、俺の連絡先というのは実質無いに等しい。俺は仕事を止めた時に携帯を解約しており、今の連絡先というのはパソコンのメールアドレスくらいしかないのだ。というわけで連絡先を教えたところでやり取りが出来るのは俺が部屋にいるときだけ、既に俺の部屋を自由に行き来できる大家さんにとっては何の意味もない。


「生憎ですが俺は携帯を持っていないのでそういう意味での連絡先の交換だったら無理ですね」

「そう、残念ね」

「はい、残念です」


 大家さんにしては素直に引き下がりすぎだが、携帯を持っていないのだ。流石の大家さんでもこれ以上は何も出来ないのだろう。良かった、携帯持ってなくて。


「ところで冬華ちゃんのお兄さんの方はどうかしら?」

「どうとはどういう意味だ」

「連絡先の話よ」

「……何が目的だ!」


 やっぱりそういう反応になりますよね。だって初対面の人でも関係なく勝負に託つけて働かせてくる人ですもん。普通に警戒もするだろう。


「どうして貴方達は揃って私に懐疑的なのかしら? 別に何もする気はないわよ、()()


 それそれ、そういう意味深な語尾が俺達を懐疑的にさせてるんですよ。


「す、すまないが俺も携帯は生憎持ち合わせていなくてな……」


 アイスメイズさん兄は基本大家さんから視線を逸らしながら、時折相手の様子を窺うようにチラリと大家さんの方を見る。かなり挙動不審な彼の姿は私は今嘘を付いていますと言わんばかりに怪しさ満点だった。


「嘘だ、奴は嘘を付いている!」


 とここで妹であるアイスメイズさんが兄を売る。妹に売られる兄。なんというかドンマイとしか言いようがない。


「ち、違う! 本当に持っていない!」

「そう、なら確かめさせてもらって良いかしら? まずは手を頭の後ろで組んで跪きなさい!」


 どこのFBIだよ。もうなんか流石に可哀想になってきた。というか何で教えてもらう側がこんなに強引なんだろう。連絡先の交換ってこんなに殺伐としたものだったっけ?


「何をする気だ!」

「別に何もしないわよ?」


 ニコリと笑う大家さん。怖っ、何その笑顔。絶対今から何かしようとしてる顔じゃん、それ。


「お、俺は……本当に携帯なんて持ってない。そう、持っていないぞ! だからその……さらばだ!」


 大家さんにあんな顔を向けられればアイスメイズさん兄が耐えられるはずもなかった。彼は表情に恐怖を浮かべるとこの場から逃げるように走り去っていく。やはり一般人に大家さんの相手は荷が重かったようだ。ん? じゃあいつも大家さんの相手をしている俺は何だって? 知らないし、こっちが聞きたい。


「あら意外と根性がないのね」

「いや根性がないとかそういう問題じゃないですから。あんなことされたら普通の人は逃げますって」

「でも貴方は平気じゃない?」

「俺はまぁあれですし……」


 あなたから毎日特殊な訓練を受けてますからね。本当に俺ってどうなってるの? 何で逃げないの?


「そうだったわね。貴方は少しおかしかったのよね。今度からは気を付けるようにするわ」

「それは良かったです」

「貴方以外にはね」


 俺も少しは気遣って欲しい。しかし結局あの人は一体何をしに来たんだろう。いきなり勝負を仕掛けてきて、勝負が終わった途端に帰っていったが。


「ククク……これで私の平穏は保たれたな」


 でもまぁアイスメイズさん達の会話を聞いていた限り、アイスメイズさん兄が一人暮らしを始めた妹の様子を見るために押し掛けてきたみたいな感じだろう。


「さぁ私達も帰りましょう。少し冷えてきたわ」


 そう言って当然のように大家さんが向かったのはアパートの二階へと続く階段だった。大家さんの帰る場所はそこじゃないんだよな。


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屋上に呼び出されたので告白されると思ったら、弱みを握られていてピンチな件
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