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41.大家さんと冬支度の計画

 秋が深まる季節、少し前まで赤く色付いていた木々の葉も徐々に散り始め、景色は一気に冬へ移り変わろうとしていた。そしてこの朝っぱらから俺の部屋でお茶を飲んでいる大家さんもその変化に対応するように早くも冬服に身を包んでいた。セーター大家さんである。


「……ところでナッキー」

「はい、何ですか? 大家さん」

「当たり前のことすぎて逆に聞くのが申し訳ないのだけれど、貴方明日とか暇だったりしないかしら?」

「なんかその聞き方、微妙に悪意ありません?」

「ごめんなさい、不快にさせるつもりはなかったのよ。今度から隠すようにするわ」


 隠すって本当に悪意あったんかい。まぁこういうのも含めて大家さんだ。今までのことでそれは十分に理解している。


「俺が暇だったらどうするんです?」

「少し手伝って欲しいことがあるのよ」

「また雑用ですか?」

「貴方そういうの好きでしょう?」

「いえ、全く」

「照れなくても良いのよ。貴方が雑用好きのパシり体質だということは既に調べが付いているの」

「いや、勝手に変な体質に仕立てあげないで下さいよ。パシり体質じゃないですから」


 そう、ないはず。いつも結局大家さんの雑用を引き受けているが、あれは俺が善意でやっていることなのだ。決してパシり体質だからとかいう体質的な理由ではない……と思う多分。


「そう、貴方は困っている私を見捨てると言うのね」

「やらないとも言ってないです。早く用件をお願いします」

「素直じゃないのね。でも貴方のそういうところ私は好きよ」

「そうですか、ありがとうございます。それで用件は何ですか?」

「用件、そうね……。それを話すにはまず私の子供時代から話さなければいけないわね。あれは私がまだ小学生の頃だったかしら……」


 なんか長くなりそうな回想始まったよ。一体いつまで話す気なのだろう。本当に用件を伝えるのにいるかな? この話。


「あの、話の途中で申し訳ないんですが結論だけにしてもらえないですか?」


 俺の問い掛けに大家さんは一度話を止めると、俺の方を見て不満げに答えた。


「結論だけ? そうね、端的に言えばアパートの冬支度を貴方にも手伝って欲しいのよ」


 あれ、小学生の頃の話は? てっきり話と何か関係してくることが用件なのだと思っていたが、全く関係なさそうで驚いた。


「だったら最初からそう言ってくださいよ。絶対昔話とか要らなかったじゃないですか」

「それは過去の私に存在意義はないということかしら?」

「いや、そこまでは言ってないですから」


 ただ用件を伝えるだけなのに何で彼女の話はいつもおかしな方向にいってしまうのだろう。本当に思考回路が読めない。


「いつもそんな感じですけど大家さんは今まで困ったこととかないんですか?」

「そんな感じ?」

「はい、そんなクレイジーサイコ感出してたら話が通じなくて苦労してそうだなって」


 主に相手が。


「クレイジーサイコがどういう意味か分からないのだけれど、話が通じなくて苦労したことは今まで多々あったわね。みんな始めは笑顔で近づいてくるのに段々と頭を抱え始めて、私を見た途端に叫びながら逃げ出していくのよ」


 『失礼よね?』と笑う彼女はマジで悪魔だった。そりゃあ大家さんのクレイジーな言動に毎日晒されてたら発狂もしたくなるでしょうよ。もしかして俺が来たときにアパートの住人が全くいなかったのはみんな発狂して出ていったとかそういう理由なのかもしれない。もしそうだったら怖い。


「そう考えるといつまで経っても発狂しない貴方っておかしいのよね。もしかして変人なの?」


 まるで俺を発狂させようと企んでいるような言い草。あと世の中の変人筆頭と言っても過言ではない大家さんにだけは変人とか言われたくないですから。


「俺は変人じゃないですよ。大家さんと違って」

「あら、本当にそうかしらね?」

「そうですよ。それに大家さんの言葉を借りるならここのアパートに今住んでいる他の人達もおかしいってことになりますけど」

「そうね、確かにおかしいかもしれないわね。だって私のことを見ても誰も逃げ出したりしないんだもの。本当におかしいわ」


 大家さんはそこで珍しく嬉しそうな表情をする。何だ、この人にも結構可愛いところがあるじゃないか。もう少しそういうところを表に出してくれればきっと誰も逃げ出さないだろうに。この不器用め。


「でも私は今の生活が結構気に入っているのよ。どうしてかしらね?」

「どうしてって普通に楽しいからなんじゃないですか?」


 主に俺で遊ぶのが。


「楽しい……言われてみればそうかもしれないわね。ナッキーもそうなのかしら?」

「俺ですか? 俺はまぁそれなりですよ」

「それなりねぇ……」


 何ですか、そのニヤニヤとした顔は。俺、今何か揚げ足を取られるようなこと言いましたかね? なんだかこれ以上この話をするとボロが出るような気がして俺は咄嗟に話を本題へと戻した。


「……それでアパートの冬支度って具体的に何をするんです?」

「それは色々よ。正直このアパートってかなり年季が入っているでしょう? だから何もせず冬を迎えるとすきま風とか色々辛いのよ」

「すきま風ですか……」

「ええ、もうほとんど外と変わらないわ。だから毎年本格的に寒くなる前にこうして準備をしておくの」

「本当に冬支度ですね」

「だからそうだと言っているじゃない。もちろん他の住人からも了解は取っているわ。それでまずは買い出しからしなければいけないのだけれど……」

「手伝いますよ」

「じゃあ午後にでも一緒に買い出しに行きましょうか。貴方が優秀なパシりで本当に助かったわ」


 大家さんはいつものように余計な一言を最後に付け加えた後、優雅な動作でお茶を一口飲む。俺もそれにならって優雅に飲もうとしたのだが……。


「……熱っ!?」

「名は体を表すとは正にこの事ね」


 猫舌のため優雅に飲むことが出来なかった。猫宮家は代々猫舌なのである。猫宮だけに。


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屋上に呼び出されたので告白されると思ったら、弱みを握られていてピンチな件
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