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19.隣人さんと病院

 とある病院の一室、そこで俺と小夏ちゃん、そしてベッドの上にいる須藤さんの三人が交互に顔を見合わせていた。


「その、私のせいでこんなことになってしまって申し訳ないです」

「いえ、こちらこそ早く気付くことが出来なくて、すみません」

「それを言うなら私こそ悪ノリして調子に乗って……」


 そんななんとも重々しい空気の中、須藤さんはゆっくり下を向くとそれから恥ずかしそうに口を開く。


「そ、それでナッキーさん。あの……さっきのことですけどあれは普段の私ではないというか、その……」

「大丈夫です、分かっていますよ。俺は気にしてないですから」


 全く気にしていないといったら嘘になるが、それでも彼女が倒れたことに比べたら些細なことだ。


「それより俺は須藤さんの容態の方が気になりますよ。もう大丈夫なんですか?」

「は、はい、それはもう。おかげ様でこの通りです」


 須藤さんはそう言うと自らの腕を軽く振ってもう大丈夫だとアピールをする。この様子だともうすっかり良くなったようだ。


「確かにそうかもしれないですね。でも油断は禁物ですよ。治りかけが肝心ってよく言いますからね」

「そ、そうですね。心配して下さってありがとうございます」


 須藤さんは一度笑顔を浮かべるが、すぐに視線を自分の足元へと落とした。どうやら先程の話に戻るらしい。


「……でも本当に気にしてないんですか? 私のこと軽蔑とかしてませんか?」

「本当に気にしてないですし、軽蔑もしてないですよ」

「でも私、ナッキーさんにあんなことをして……」


 思い出してしまったのか、両手で自分の顔を覆う須藤さん。指の隙間から見える彼女の肌は真っ赤に色付いている。


「大丈夫です、あれは私達だけしか見てませんから。私達が気にしなければ実質何もなかったみたいなものですよ」


 ようやく小夏ちゃんが口を開いたかと思えば、彼女は少々気まずそうな表情を顔に浮かべていた。恐らくこんなことになってしまったのは全て自分のせいだとでも思っているのだろう。

 まぁ実際須藤さんが倒れたことと小夏ちゃんがしたことはあまり関係ないのだが、反省しているというのなら無理にその事実を伝える必要もない。これで彼女の邪悪な部分が少しでもまともになってくれるならそれに越したことはないのだ。


「小夏ちゃんの言う通り、他に誰も見ていないので大丈夫ですよ」

「そ、そういう問題じゃないんです……」


 須藤さんはそれだけ言い残すと黙り込んでしまう。

 一体何が引っ掛かっているのだろうかと考えていたところで彼女の方から小さな呟き声が聞こえた。


「だって私、絶対重かったですよね……」


 うーん、そこですか。そんなセンチメンタルな感じで言われましても理由が最近体重を気にし始めた思春期の女子なんだよな。可愛いかよ。


「もしかしてさっきからずっとその事について言ってました?」

「逆にその事以外に何かありますか?」


 この人はもしかして天然なんだろうか。

 こういうときって普通『私、変な子って思われたかな?』とか『私、あんなことをしてしまって……』とかそういうことを気にするんじゃないか?

 それがまさか自分の体重のことを気にしていたなんて。なんというかある意味乙女過ぎますよ、須藤さん。


「そうですか……でも大丈夫ですよ。全然気にならないくらいの重さでしたから、普通ですよ、いや寧ろ軽かったくらいです」

「ほ、本当ですか! それなら良かったです!」


 さっきまでの重々しい空気は一体なんだったのか。でもそうか、須藤さんがあの件を気にしていないようで良かった。しかしそうなってくるとあの件についても聞いてみたくなる。


「それでその、須藤さん」

「はい?」

「逆に聞きますけど、俺のことを押し倒した件についてはどうお考えで?」


 俺は一体何を聞いているのだろう。新手のセクハラなの? 訴えられたら負ける自信がある。


 そんな馬鹿なことを考えつつ、須藤さんの反応を待っていると彼女からは至極あっさりとした答えが返ってきた。


「どうお考えってあれは訓練の一環で……。それと相手がナッキーさんだったからかそれほど緊張しないで済みました」


 まぁあのときは倒れる寸前だったし、きっと頭が正常に働いていなくて恥ずかしいとか、緊張とか、そういう思考に至らなかったのだろう。


「そういえば今は俺と普通に話せてますよね」

「言われてみればそうですね。やっぱり小夏ちゃんの言ってたことが正しかったんですかね」


 小夏ちゃんのあの助言が正しいと思えるなんて……。

 なんだか須藤さんが段々いけない方向に行ってる気がしなくもないが、さっきから俺と普通に話せているのも事実。

 だから小夏ちゃんの言っていたことが絶対に間違っているかと言われれば、残念ながらそうとも言いきれないのだろう。残念ながら。


「……もしかして私のことを許してくれるんですか?」


 俺がここでふっと一息吐けば、小夏ちゃんが恐る恐るといった感じで須藤さんにそう訪ねていた。

 対して須藤さんは笑顔で小夏ちゃんに応対する。


「許すもなにも、私は小夏ちゃんのおかげでこうしてナッキーさんとも普通に話せるようになったんです。だから小夏ちゃんには感謝しかないですよ。ありがとうございます」

「こんな私にそんな優しいことを言ってくれるなんて……」


 そして気付けば小夏ちゃんは須藤さんをどこか熱っぽい目で見つめていた。


 なんか小夏ちゃんの様子がちょっとおかしい気がする。具体的にどうとは言えないがどことなく須藤さんを見る目が他の人と違う気がするのだ。もしかして何かに目覚めてしまっ……いや、ここで俺が口を出すのは野暮だろう。


「じゃあ俺は外に出てるので、あとはお二人でどうぞごゆっくり……」


 とりあえず須藤さんが無事で良かった。


 そう思い一先ず胸を撫で下ろした俺はそれから静かに病室から出ていった。無論、これ以上先は何も見ていない。



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屋上に呼び出されたので告白されると思ったら、弱みを握られていてピンチな件
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