キャメルハイライト
薄暗闇の中、僕は目を覚ます。カーテンから覗いた空はまだ明るいとは言えない。
窓を開けると初夏の冷たい空気が僕の頬を撫でた。
キャメルから一本抜き取り口に加え火を点ける。ライターはジッポーライターを使っている。オイルの匂い、カチッとなる爽快な音。
薄暗みの中に紫煙を吐く。空気に溶けていく煙を見ていると、まるで自分のようだなと思う。自分もいつかこうやって消えていくのだと漠然と考える。
後ろからガタガタと音がした。同居人が起きてきたのだろう。古いワンルームアパートだ。些細な音も大きくなる。
「おはよう、早いね〜」そう言いながら、同居人が側に寄ってくる。
「お前もそうだろうが、春」同居人の名前は春という。
「爽君には劣ると思うけどね〜」そんな軽口を叩きながら、春もまた煙草を取り出す。銘柄はハイライトグリーン。女性とは縁遠い銘柄な気がするが、春はこれを愛用している。
「それにしても、どうにかならんかねぇ、身嗜み」
「爽君に言われる筋合いないと思うけどな、髪ボッサボサだし」
そう言われて、鏡に目を向ける。確かに長いしボサボサだ。
「いいんだよ、どうせどこにも出掛けないんだし」
「はいはい、学生ニートはいいですねぇ」と春が言う。
確かに俺は学生ニートかもしれない。でも、奨学金を借りて、学校に行っているし、たまには単発のアルバイトもしている。悪く言われる謂れはどこにもない。筈だ。
「でも爽君、学校行ってないじゃん。ちゃんと行かなきゃダメだよ」
そんなことは言われずとも重々承知している。でも、何故か行く気がしないんだ。
「そういう春こそ、いつまで家にいる気だよ。そろそろ帰ったらどうだ」
春とは家族ぐるみの付き合いがある。所謂、幼馴染みというやつだ。春は実家に住んでいて、嫌な事があると、いつも家にやってくる。
「うーん、まだいいかな。なんかめんどいし」
面倒ときたか。でも結局俺が学校に行かない理由も突き詰めてみれば、そこに行き着くのかもしれない。
二本目の煙草に火をつけたところで、春が立ち上がった。
「飲み物買ってくる。何がいい?」
「コーラ」
玄関がガチャリと閉まる。薄暗闇だった空にはいつの間にか、青が混ざっていた。
青空に向けて、紫煙を吐く。机を見ると、学校からのプリントや課題が山積みになっている。
今日も今日とて面倒な一日が始まる。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。