ヒロインは突然全裸になる
二話です
クリックして小説一覧を見る。一作品あった。タイトルは『突然異世界に連れてこられたらハーレムを築き上げてしまいました』という長いタイトルだった。
スマホに書いたidを確認する。合っている。間違いなく光紗の書いた小説なのだ。
深く深呼吸する。本当に光紗が書いたのだろうか?性格は真面目で、整った容姿でそれでいて、家の中でさえもきちんとして、どこにも隙が見当たらないあの光紗が?
俺は、疑問を持ったが一旦切り離すことにした。取り敢えず読んでみよう。そう思い作品をクリックする。
確かこのジャンルはいわゆるライトノベルという奴だ。俺は、このジャンルを読んだことが無い。俺は基本推理小説を読む。この際だ。新しいジャンルに触れてもいいかもしれない。
作品ページに飛び、早速プロローグを見る。
プロローグ
よろしくお願いします。
俺の名前は川上仁。いたって普通の高校生だ。
今日も学校が終わって家に直ぐ帰る。これが俺の日常だ。帰ってゲームして寝る。そんな当たり前の日常。俺は、とても充実している。
俺は、よくオタクだとか、ブサイクだとか言われているがそんなのは気にしない。俺には最高の二次元の嫁であるアサちゃんがいるからだ。今日もアサちゃんを愛でてあげないとなぁ。
急いで家に帰り、玄関を開ける。するとそこには全裸の美少女が立っていた。
「えっ!?」
俺は、驚きと同時におっぱいを直視してしまった。ふと目をそらす。
「お兄ちゃん!!」
「はぁ?」
訳が分からない。
「さぁ。一緒にいこう!お兄ちゃん!」
「えっ、うわぁぁぁぁ!」
そう言って腕を引っ張られ何か穴の様な物に吸い込まれる。
「・・・・・・きて、起きて!お兄ちゃん!」
「う・・・・・・うーん」
目を覚ますとそこには異世界があった。
「・・・・・・」
深く息を吸込み、吐く。この動作を三回行う。俺は、気持ちを整理する時はこうやって深呼吸を行う。
なんだこれは。たった300文字程度なのにいろいろと追いつかない。
一番目に行くのがヒロインであろう少女が全裸だということだ。全裸になる必要性があるというのだろうか?あと主人公が胸を直視する描写には何の意味がある?
そんな疑問が湧き出る。だがそんな疑問よりもあの光紗が作者だということに一番驚きだ。
次の話を読んでみる。次の話を読もうとした時、階段を上ってくる音がした。
ドアを開ける。
「きゃっ!」
光紗はノートパソコンを両手でがっしりと掴み、びくりと驚き声をあげる。
「ああ、悪い。ただいまって言ってなかったからな」
「・・・・・・ちゃんと言ってください。それにしても今日帰りが早いですね」
「ああ、今日は早く家に帰ってたのか。俺が帰った時いなかったからどうしたのかと思ったよ」
光紗は黙り、冷徹な視線を向ける。
「少し、コンビニに行ってたんですよ。あの・・・・・・リビングに入りましたか?」
「いや、入ってないよ。すぐに部屋に戻ったから。何かあった?」
「いえ、何もありません。そうですか、じゃあこれで」
そう言って光紗は自室に戻る。
危なかった。もし知られたらと思うとぞっとする。取り敢えず部屋に戻り、続きを読もう。
取り敢えず、掲載された四話まで読んでみる。それと同時にあらすじを読んでなかったのであらすじも読む。
一話から四話までざっくりまとめると。
剣と魔法のファンタジー。
主人公は異世界では勇者としてのポジションに付いている。
魔王を倒すべく連れてこられたらしい。
異世界での主人公は魔力が無限にあり、全ての属性が使える。
おまけに勇者スキルのおかげで全ての武器が使える。
こんなところだろうか。
個人的な感想としては、面白くないだった。
まず、最初に世界観が分からない。文の表記に主人公の強さを示す部分がある。勇者スキルlv20。固有スキル自動回復などのゲームのメッセージが流れているのだ。ファンタジーなのかゲームなのか分からない。
そこはいいとして、面白くないのは主人公が強すぎることだろう。
四話の内容で魔王の手下が王国を攻め込むのだが、主人公が勇者にしか使えないホーリーという魔法で1000体の魔物を消滅させるという話だ。
このホーリーは邪悪な者を滅する魔法らしい。だから広範囲に放っても魔物だけ倒せる。このホーリーさえあればもう魔王を倒せるのではないか?しかも魔力が無限に存在するのだ。乱発すれば確実に勝てる。
あと主人公に腹が立つことだ。
ホーリーを使った後の主人公は使ってみたらなんか魔物倒してたという軽いやり取りなのだ。
異世界の人々は必死に命をかけている。魔物が兵士を殺す描写も書かれていた。主人公は、なんとなくだが命のやり取りが軽い気がする。そのせいか、ほのぼのとしたものに変わったり。急にグロテスクになったりしている。
「ふぅ・・・・・・」
どっと疲れてしまった。読んで疲れるというのは、なかなか無い経験だ。
パソコンで時刻を見ると六時になっていた。そろそろ夕食を作らないと。
ちゃっちゃと夕食を作り、光紗を呼ぶ。
「光紗、ご飯だぞ」
返事が無かった。仕方ないので部屋まで行くことにした。
「光紗」
ノックしても返事が無いので、部屋を開ける。
すると必死になってパソコンをじっと見つめ、カタカタとキーボードを打ち込む光紗の姿があった。恐らく小説を書いているのだろう。その光紗の表情はどこか楽しそうでいて、それでいてとても真剣だった。
俺は、光紗の部屋を閉めて。料理をラップで包み、冷蔵庫に保存した後、スマートフォンでもウェブサイトに行けることに気付き、アカウントを作って感想を書くことにした。
「情熱を感じます。よーるっと」
確かに面白くは無かった。でも、応援したいと思った。