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part1「吾輩、死んじゃう」

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吾輩の年齢? 21歳で4回生の学生だよ。

なに勉強もせず遊んでるばっかいるんだって? 

就活で大手企業に受かったからこうやってネットをポチポチいじってる訳さ。


ま、全部嘘なんですけど。


本当は39歳無職で、誇れる事ではないけど魔法使い、またの名称は童貞と呼ばれている。

親の金がそこそこ残ってたけどもう底が尽きそうだ。

吾輩という一人称も現実で使うほど中二病ではない、

これはネットゲームでだけだ。

現にギルドメンバーの小学生は信じちゃってるし、

レベルも99とカンストしててやる事ないんだよね。

これが現実だったらどれだけいいことか、などという事は一切考えてない。


だって39だもん、

そんな事考えてる時点で39きっちーだよね、

頭が童貞だよね、

まあ本当に童貞なんだけど。


外に出る時は大抵コンビニに行くか、

18禁のお店に入室する時だ。

今回は前者の方だった、

月曜日には決まって真っ先に立ち読みコーナーでジャン〇を見なければならないのだ。


コンビニ入ると真っ先にジャン〇が並ぶ場所に立ち、

上から二番目のジャン〇を取り出す。

特に今週も面白いものがやっていた訳じゃないが、

長年のファンながらの生きがいでもあるのだ。


この20年間は一切購読して読んだことはないが、

代わりにカップ麺を買って行くから店長には許されているのである。

もうすっかり常連だ、なんだかんだで高校を卒業し、

ニート生活を始めてからもう20年が経つんだな~。


作者のコメント欄が載っている最後のページをすべて読むと、

カップ麺だけを買い店を出る。

長年生きてきた人生の中で特に刺激的な出来事があった訳ではないが、

今までの中でギルドのメンバーとも、死んだ母さんとも出会えた事には凄い感謝をしているのだ、

こんな無職で何の取り柄もない俺と長い間付き添ってくれた事に。


そういえば、この前テレビで生まれ変わったら何になりたいかというのを渋谷のjkが言っていた気がする。

俺ならそうだな、

親に苦労をかける事のないような立派な青年になりたいのだが、

あえていうならばだけど。


――Lv99のイケメンカンスト勇者に。


何といういつものように生産性の欠片もなく、

願望でしかない夢物語を頭に思い浮かべると、白い光で身体全体覆われているのが分かった。

もしかして神のご加護で本当に勇者になれるんじゃないだろうか。

そう思ったのは一瞬だった、正面を見ればそこに走っていたのは3tトラックで、

身体とトラックが衝突する頃にはもう意識が無くなっていた。



目を覚ました時そこは真っ暗闇の中で、

冷たいブツブツの何かが皮膚にくっついてるのが分かる。

とにかくこのままじゃ何も見えないので右手を障害物より上方へ押し上げ、

右手だけが外に出る。

このブツブツの正体が粗方分かった、土だ。

外に出た右手と地面に手のひらを重ね、頭部から次第に左手、

そして足と体全体が地面から外に出ると身体は太陽に照らされる。


何故地面の中に埋められていたのかは全く持ってわからないが、

身長体重共、そして身体の反応にも違和感がある。

身体のあちこちがとても軽いのだ、骨なんじゃないかと思う程に。

しかしそんな疑問は一瞬にして吹き飛んだ、

なぜなら手を見るとそこに映っていたのは遥かに人間とはかけ離れている薄汚れた緑。

更に口元を両手で触れてみても歯が尋常じゃなく脆く、

奥歯と人差し指が触れ合っただけでポロリと下に落ちてしまう。


髪もそうだがこれは明らかに自分のものではない、

短髪でアンテナのように跳ねていたその髪質はとてもハードだ。

一体これはなんなのか、誰か鏡を持ってきてくれ!


「おい……そこのあんた……頼むからそこをどいてくれ……」


どこからか人の声がした、

しかしキョロキョロと辺りを見回すと見えるのは、死体、死体、死体。

いや、微かに息があった、ほとんどの兵士が血に染まった身体で、

声を振り絞るように呻いている。全員しぶとく生きているようだ。


「下だ、下を見ろ」


彼に言われるがままに下を見ると、腹に一刀両断でもされたんじゃないかというくらいの、

深く斬られた跡が残るおっさんの上に俺は立っていた。

急いでその場から離れると、おっさんはごほっごほっと咳をし始める、

傷跡を踏んでいた事が余計におっさんを苦しめたのだろう。


「ん? あんた人間じゃないな……見たことねえ顔付きだが、どこかで見た事があるような」


人間じゃない? 何を言っているのか、俺は確かに無職で童貞として39歳生きたわけだが、

それだけで人間扱いされないのは我慢ならんぞ。


「なんだっけな……ゾンビ、ゾンビだったか? お前はひょっとするとゾンビなのか……」


俺がゾンビだと……確かに毎日不健康な暮らしは送っているが、

体系に関してはどう考えてもトロールに近い。

だが、さっき手を見たときには細かったし、

顔の形も明らかに自分の物とは違って全身が薄い皮膚に骨がひっついているくらいに肉はなかった。

ひょっとするとこのおっさんには俺の姿がゾンビにでも見えているというのか、

だとするならば乗ってやろうではないか、もしボケだったとしてもネトゲじゃ俺はノリの良い奴なのだ。


「そうだ、吾輩はゾンビだ、お前の読みはズバリ的中している」

「はっははっ……死に際に見ている幻覚なのかもな、だとしても嬉しいぞ俺は……」

「幻覚などではないわい、何が嬉しいのか聞かせてもらおうか」

「っふふ、聞いたことがあるぞ、ゾンビは人間を噛んで蘇生させる力を宿していると」


蘇生……確かに俺もにわかながら部屋に籠っている暇つぶしとしてゾンビ映画は何作か見た事がある。

このおっさんのいう通り大抵のゾンビは噛むか引っ掻くかで、

仲間を増やす、ただゾンビ化した人間に意思は無かったはずだ。

ただこのおっさんの状態を見る限り助かる手段はとてもじゃないが無いだろう、

死んだ後に噛んでやってもいいが、そうすると魂はあの世か、そのままゾンビに宿すのかが分からない。


「頼む……俺を噛んでくれ、そこに倒れているのは俺の仲間だ……そいつらも一緒に……」

「覚悟はできてるんだな?」

「ああ……何かあったとしてもどっち道助かりはしねえよ」


精一杯に頼み込むおっさんにゾンビながら少し同情したのか、助けたいという感情が芽生えだす。

寝ていた頭を膝に乗せ、歯を立てておっさんの首元を噛みつく。

しばらくするとおっさんの目が真っ白になり、心臓の鼓動が止まる。


おっさんは死んだ、しかししばらくすると手がピクッと動き始める。

おっさんの眼孔が次第元に戻り始め、意識が戻ったのか体を起こす。

果たしてこのおっさんは死ぬ前に俺と話したおっさんなのか、

それとも無差別に人を襲う洋画に出てくるようなゾンビなのか。


「戻ったか?」

「い、生きてる!? 俺は生きてるのか」


良かった、どうやらあの時のおっさんのようだ、

彼の仲間も生き返らせてあげたいがどうやら何人かは死んでいるらしい。

はて、死んでいる人間をゾンビ化させたとしても生前の魂は戻るのだろうか。


(あるじ)、我が主よ! お名前を聞かせて頂けませんか!」

「は?」

「この命、我が主に一生の忠誠を尽くします、どうか名前だけでも教えて下さい」

「ユウジだけど」

「ユウジ様! 私はあなたにこの魂を捧げます、どうか何なりと命令を与えて下さい!」

「う、うむ……じゃあ貴様の仲間だった奴ら全員をゾンビ化せよ」

「はあっ! かしこまりました!」


あいつの魂が戻ったがどうかは分からない、

だが何はともあれこれで良しとしよう……。

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