1話 転生失敗
世界最強と言われた私は今転生の間にいる。
魔王を倒し、世界は平和になって私はやることが無くなった。
そして老婆となった私は記憶を保ったまま転生して、今度は学園生活や青春を堪能して楽しい日々を妄想しながら転生の間で呪文を唱える。
ふっふっふ、今世は頑張ったし来世は平和に暮らしたいしさっさと終わらせて輝かしい人生を送るのだ!。
そして呪文を唱え終え私の視界はブラックに染まる。
目が覚める。
生前の記憶もあるしどうやら無事に転生は出来たみたいだね。
………前言撤回。
産まれたのはよしとして…何で周りを見たらウサギ達ホーンラビットが「きゅぅ〜」と鳴いているんだろうか。ちらりと両手を見たら手じゃなくて前足だし、結論…転生は出来たみたいだけどどうやら"人間"としては転生出来なかったみたい…。
しかも私だけ何故か水色だし、今母ウサギからぺろぺろされてる真っ最中。
何故だ?どこで呪文間違えた?確かに妄想しながら唱えたけど、多分その影響で歯車が狂ったのかも知れない。
やっちまったてへぺろ!
うん冗談は抜きにしてこれからどうしていこうか…。
バサッバサッバサッ
何か羽ばたく音が聞こえてきた。チラリと羽ばたく音の方向を見たらそこにはワイバーンがこちらに向かって飛んできたんだけど。
えっまじですか。幾ら前世が最強だったからといって産まれた直後のこれはないんじゃないかい?
確かワイバーンの強さのランクはギルドでBランク上位だった気がする。
んで私達は成体で下から2番目のFランク下位くらいでベイビーはGランクでも狩れる。
て事はもう既に詰んでるんだけど。やばいんですけど!
頭の中であたふたしていたところで母ウサギが覚悟を決めた瞳でワイバーンに挑む。
頑張って!私達の未来はお母さんにかかっているのよ!
母ウサギの攻撃!ワイバーンに自慢の角で突進攻撃!
ワイバーンはその攻撃を嘲笑い脚の爪で引っ掻く!
母ウサギはオーバークリティカルヒットを受けて真っ二つになった!
…と思っていた時期が私にもありました。
えっどういう事?なんと死んだと思われた母ウサギが生きておられました!
しかもその突進によって爪を砕かれながらバランスを崩すワイバーンへ頭にも突進をして砕いてしまった。
お母さん凄い…。
母ウサギが勝利の余韻でキラキラオーラを出しているのはいいとして、それよりも何で母ウサギがワイバーンに勝てたのかに疑問が湧いた。
確かに私達が危なかったからといって無敵になれるとは到底思えないんだよね。
お母さんには失礼だけど普通ならあの時点で死んでいたはずだし、ワイバーンの脚力には敵わないと思うんだよ。
でも実際には勝ったというより勝ってしまった。
そう、これは異常事態だ。
多分だけど私の勘が言っている。お母さんは前世で倒した魔王よりも強い!
あまりにも隙だらけに見えるのに勝てるビジョンが全く見つからないのよ。
何故かって?それは私にも分からない…。
正直、前世の私が魔法で創り上げた虚無を放ってもそこでケロッとしている想像しかできないし、何よりも頭に攻撃して粉砕しているんだから私が負ける事は多分無いにしても勝ちは確実に見えないんだよ。
何かの作用なのかな?もしそれが私でも知らないモノだとしたら…。
まぁあれこれ考えたって仕方ないよね!今を生きている事に感謝をせねば。
そして亡骸となったワイバーンを放置して私達は歩き出す。
俺はギルドでワイバーンが目撃されたという場所へ向かっていた。
空から襲ってきて勢いに乗り鋭い爪で引っ掻いたりと、ギルドではBランク指定で3〜4人推奨とされている。
だが俺はワイバーンぐらいには負けない俊敏さと気と魔法の扱いに慣れているからそこまで苦にはならない。
目撃された場所は街から若干遠く、そこは既に生態系が荒れ始めていて村にも少ないながら被害が出ているとの事だ。
確か山の頂上辺りの開けた場所で巣食っていると言っていたがこの辺りか?
「うーん、今は餌探しに飛び立っているのか?」
近くにはワイバーンの卵が転がっていて、ここが巣であることが分かる。
「ならここで待ち伏せするのが良さそうだな」
そうして俺はここで1日ワイバーンが来るのを待つことにした。
そのワイバーンが既に死んでいる事も知らずに。
ここ地下研究室に2人の魔族がいた。1人は魔王となったデスタと研究院所長のジンだ。
「どうだ順調か?」
「ええ魔王様。まだ研究途中ですが試作品としては完成したというところですな」
2人はその試作品を眺めている。それは魔物の体内でできる結晶である。だがそれは純粋な結晶とは違い、暗い闇の濁った色をしていた。
「ほうぅ、これが例の結晶だな?」
「はい、これを体内に取り込めば素晴らしい力を手に入れる事ができますな。現段階ではランクを1つ上げる事が出来、最新では2ランク上げることが可能ですな。ですが今の段階では理性を失いただの肉塊の化物になってしまいます」
「そうか…、ならば仕方ないな。進展を期待していようではないか」
2人はマジマジと結晶を見つめてため息をつく。
「クソッ!あの"終焉の魔女"め!我らの世界征服どころか大切な僕のお父さんまで殺しやがって!絶対に復讐してやるからな!」
テーブルを殴りつけるデスタ。
「まぁまぁ落ち着いてくださいな。折角ですからこの魔結晶を使って、人族の大陸にいるオーガに取り込ませて暴れさせようではないですか」
「それはいい提案だな」
「ふふふふふ」
「ならばうさ晴らしにそれを投入させよう。クハハハハ!」
2人は邪悪な笑みを浮かべ嗤い合うのであった。