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威瀬華位天誠愚連隊  作者: 若気野至利
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第五話 凡刀-鋼重-

 


 街の散策を再会した俺は人の賑わう商店街を歩いていた。靴はちゃんと事前に玄関から持ち出してある。

 流石に俺を見慣れてきたのか、交わされる挨拶も気軽なものになっていた。助かったぜ。

 目的は2つ。まず、単なる気分転換。昨日と今日の午前で人通りの少ない道は殆ど見て回れた。後は敬遠していたこの大通り。いずれ金が手に入れば世話になる店も多いだろう。今の内に顔を売っておいて損はない。

 もう一つは、俺の所在をはっきりさせてお袋の心労を少しでも軽くするためだ。

 玄関から出ていくならともかく窓から出てったんだし不要な心配をかけることになる。なら少しでも負担は軽減してやらねば。

 ……帰ったら謝るか。


「お、武器屋」


 ファンタジーRPGの定番。むしろ前提ですらある武器屋。親父の剣術には興味ないが剣には興味がある。カッコイイ。前世じゃツッパリなんかやってた俺だが、中学校に上がる頃まではダチの家でこういう中世ヨーロッパみたいな世界観のRPGをやったりしたもんだ。


「いらっしゃい!お、ボウズ1人かい?」


 中に足を運ぶと如何にもなおっちゃんが出迎えた。坊主頭で筋肉隆々。右肩に剣、左肩に盾のタトゥーを入れているあたり心の底から武器を愛してるのだろう。


「まあな。ちょっと見てていいかおっちゃん?」


「おうよ!けどあんま触んなよ!腕がちょん切れても知らねえぞ!」


 おっちゃんが豪快に笑い飛ばす。武器屋のイメージにピッタリな性格の人だな。

 鞘に入った剣や盾が靴屋の見本のようにズラッと立てかけられているのを見ながら、ふとある点で目が止まる。

 剣の柄だけが地面から生えるような形で床に立っていた。


「おっちゃん。何だこれ?」


「ああ。そりゃ鋼重って銘の……まあ、凡刀だ」


「カネシゲ?刀ったって柄しかねえじゃんか」


 聞き返すと、おっちゃんは説明を始めた。


 鋼重は、とある王国の王侯貴族の戯れによって産み出された悲劇の剣。否、最早剣とも呼べぬ代物である。

 刀鍛冶の知識を齧っていたある高慢ちきな貴族がその知識をひけらかすように発した一言が悲劇の始まりであった。


『剣とはより強く鍛え、より多くの鋼を重ねる程に強靱な一振りとなるのだ』


 その話題に次々と食らいつく他の貴族達。酒宴の場であることも相俟って話は異様に盛り上がり、実際にどこまで強い剣を造り上げられるかというところまで発展した。

 そうして世界でも指折りの名工と希少な金属が取り寄せられ、酒の席で生まれた巫山戯た計画は実行された。



「……つー訳だ。こいつは最高の職人の手によって最高の素材から作られた凡刀(・・)なのさ。確かに耐久力、斬れ味共にこの世に二つとねえ。だが重い。とんでもなくな。この店はジジイのジジイのそのまたジジイの代から続く店だが、ここに運び込まれた時に間違って床に突き刺さってな。後はお決まりの流れよ。この剣を抜くことができた奴には褒美を取らせるだの何だのってお触れを出して世界中から力自慢を集めて抜かせたが、僅かに動かせたのが数人。刀身に使った上等な金属は余りに鍛え過ぎたせいで溶かして他の用途に使うこともできず、飾ろうにも飾っておく台座が保たねえ。終いにゃ呆れられてこの話はお終い。馬鹿みてえだろ?」


「そりゃくだらねえな。コイツも可哀想に」


 武器として使われることすらない武器か。

 素材も鍛え方も最高な超一級品だってのに。


「………………」


「ハハッ!そいつが気になるかボウズ?」


 おっちゃんに声をかけられてハッと我に返った。無意識のうちにずっと鋼重を見ていたらしい。


「なあおっちゃん。俺も挑戦してみていいか?」


 コイツがこのまま刀として使われないまま腐っていくのは、なんだか放っておけなかった。


「ガッハッハ!威勢のいい奴ァ嫌いじゃねえ。だが怪我しねえようにミトンでも貸してやるからちょっと待ってな」


 武器屋のおっちゃんはそう言うと店の奥に消え、しばらくすると鍋つかみのような厚い手袋を手に戻ってきた。これがミトンって奴か。


「ちぃと古いが滑り止めもしっかりしてるし丈夫な奴だ。あんま無理すんじゃねえぞ」


 おっちゃんに礼を言い、鋼重に向き直る。柄の部分に不自然なへこみが幾つかあるのを見るに、装飾の宝石は全部抜き取られているようだ。燻んだ金色の柄に手をかけ、真上に思い切り引いてみた。


「うお!こりゃ、確かに重いぜ」


 まず頭に浮かんだのは、地球の中心まで根を張った苗木。そして、地面と綱引きをしているような感覚。

 凄まじい重量が手を通して全身で感じられた。

 あまりに壮大なイメージに思わず手を離し、その勢いで尻餅を突いた。


「どうだ?そいつの凄さが分かっただろ?」


「ああ。凄い剣だ」


 だからこそ、武器として使われないことが悔しい。

 絶対に、抜いてやる。


「なあ、おっちゃん。もし俺が一人でコイツを抜いたらさ。俺に売ってくれよ。メチャ高いだろうけど、金はいつか必ず用意する」


「バカ言っちゃいけねえ!ボウズみてえなひよっ子にゃ抜くどころかちっとも引けやしねえよ!俺は威勢のいい奴ァ好きだが、下手な注文は受けねえ主義だ。特注してえならそれ相応の力を証明してくれねえとな」


「だから!コイツを抜けたら買うっつってんだろ!それで証明でいいじゃねえか!」


「それが無理だってんだよ分からず屋め!ベタベタ触られて柄が折れでもしたら見世物にもなりゃしねえ。そうだな……ボウズお前ぇ今何才(いくつ)だ?」


「……5才だ」


「そんなもんか。んじゃあ10になったらまた挑戦させてやる。そこでピクリとでも動かせたなら売るなんてケチなことは言わねえ。抜けた時はくれてやるよ!」


 おっちゃんはあまり本気では言ってないみたいだ。子供を適当にあやすような口調で言っている。

 そんな態度に俺もムカッ腹が立ってきた。俺は鋼重(コイツ)のことを真剣に考えているというのに。


「いいぜ!あと5年もありゃあ薩摩芋みてえにズボボッと引っこ抜いてやらあ!」


 だから言ってやった。口を突いて出た言葉だったが、確固たる決意として心に根を下ろしていくのを感じる。


「サツマ……?よく分からんが、よく言ったボウズ!んじゃあそれまでソイツに触るのは禁止だ!当面他の客にも触らせねえようにする!せいぜい頑張って鍛えるこったな。ま、10才のガキの手に収まるとは到底思えねえがな!」


「言ってろ!その口閉じねえようにしてやっからな!……今日は出直す!」


 それだけ言って武器屋をバタンと音を立てて出て行った。

 ずんずんとしばらく威勢よく大通りを歩いていたが、少しずつ落ち着いてきた思考は策を練る方向にシフトしていった。

 実際問題、あの途方も無い重さの剣を動かすのはかなり無茶だ。あと5年鍛えても魔力という超人パワーがゼロの俺では伸び代なんてほとんどないのかも知れない。

 考え出すと、その難易度を再認識させられる。

 街の真ん中にある広場の噴水に腰を下ろし、思案に耽った。

 前世では某不良漫画に影響されてレトロなヤンキー風の見た目や心構えをしていたが、我ながら頭はよく回る方だったと思っている。今みたく簡単に血が昇るが。


「考えてても拉致があかねえ!ともかく鍛えねえと!」


 こういう時は考えるより先に行動だ。とりあえず家にある重そうなモンを素振りして力を付けないと。


「うわっ!アイツ……」


「い、行こうぜ……」


 背後でコソコソと話す声。振り向くと、いつぞやのいじめっ子達が身を隠すようにコソコソと俺から遠ざかっていくのが見えた。

 ……別に体を鍛えるのは素振りだけじゃないよな?


「やあやあ。いつだかのドジャース君達じゃないか。いや奇遇だね」


「ヒッ」


 ドジャースが名前を覚えられていたことにビビったのか小さく悲鳴を上げる。


「その節はありがとう。お陰でアイツともダチになれたからな」


「友達……?お前、ハーフエルフなんかと友達になったのかよ!?へ、変な奴」


「ああ?もっぺん言ってみろやクソガキ!今度はお前らがいじめられる番だぜ!」


 割と強引に喧嘩を仕掛ける。問答無用でドジャースに拳を浴びせようとした。

 しかし、その拳は届くことなく何者かに受け止められた。


「な、なんだテメェ!?」


 見ると、ドジャースの前に以前は見なかった少年が立っていた。片手で俺の拳を止めている。


「へえ。中々いいパンチじゃん」


「ベーオウさん!やっちゃってくださいよ!」


 ドジャースは目の前の少年にヘコヘコと頭を下げる。あの日のリーダー的なオーラは見る影もない。


「ベーオウってのか。俺はリュウ。いっちょ喧嘩に付き合ってくれよ!」


「いいぜ。このザコ共よりは歯応えありそうだしな」


 ベーオウはクールな微笑を浮かべて応じる。

 こいつは俺の嫌いなスカシ系イケメンだな。

 つまり敵だ。

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