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威瀬華位天誠愚連隊  作者: 若気野至利
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第三話 転生特典


 風呂に入ってすぐ親父が入ってきた。物凄く怪訝な顔をしてやったが全く気にする素振りを見せず普通に入ってきた。うぜぇ。しかしまあ、さっきのこともあるので今日は大目に見てやることにする。風呂自体は広いから別段邪魔でもねえし。


「こうしてお前と風呂に入るのも久しぶりだな」


「ああ。赤ん坊の頃はお袋……母さんが過保護だったから父さんじゃ滑り落とすって言って触らせなかったんだっけ」


「そうそう!それが今じゃ俺に一端(いっぱし)の不意打ちをするようになるとはな。時間の流れは早いもんだな」


 ……俺がこの身体に転生してもう5年以上が過ぎた。精神年齢が加算されているというのなら俺はもう22。大学生なら4年生。働いてたとしたら後輩が何人もいるような状態か……。


「何やってんだろうな、俺」


 浴槽の縁に頭を預け、風呂の天井を見上げる。

 前世への想いは日に日に薄れていってる。産まれたばかりの頃は特にやることも無かったから紗雪は何してるかとか助けたガキは無事だろうかとか色々考えた。

 だが今はそんなことも昔のことのように思えて、頭の片隅に置いておく程度だ。


 今考えるべきは今後やるべきことを見つけることと、俺の体についてだ。

 城下町で会ったガキ共。ガキとは言え今の俺よりは確実に年上だろうな。そんな連中を相手に一方的にボコれたのはいい。問題はその後、両腕がまともに動かなくなったことだ。かなり無茶をしたから当然と言えば当然だな。

 しかし、1番の問題は腕が動かなくなるまで動かせたことだ。リミッターが外れているような状態なんだろう。

 リミッターという言葉が頭に浮かんだ時、閻魔子の言葉が脳裏に駆け巡った。


『アンタ絶対無茶すると思うから、今度は簡単に死なないよういくつか天恵を付けておくわね。とりあえずリミッターは要らないわよね?あとは……』


 天恵ってのは多分閻魔子の力で俺の身についた特殊能力なんだろう。リミッターを不要と言ったってことは本当にヤバくなるまで体が動かせてしまうってことか。それって逆に早死にするんじゃ?やっぱ閻魔子はポンコツだったか。

 なんにせよこの体質は閻魔子のせいなんだろう。気を付けてセーブしておかないといざって時に身体が動かなくて死んじまうな。


「……実は父さんも子どもの頃は今のお前くらいやんちゃだったんだ」


 沈黙に耐え切れなくなったのか親父が口を開いた。


「こことは違って小さな町の領主の子でな。よく町に繰り出しては女の子に悪戯したり他の子どもとつるんで大人を困らせたりしたもんだ」


「へえ。父さんってもっと礼儀正しくお坊っちゃんて感じに育ったと思ってた」


 騎士団長だし。


「よく言われるよ。親父も俺に真面目に生きろだの領主を継ぐ者に相応しい気品を持てだの言ってきてな。正直肩凝った。だからお前には俺の跡を継いで欲しいのと同じくらいノビノビと暮らして欲しいと思ってる。これ、母さんや他の人には内緒な」


「なんだそりゃ?言ってることめちゃくちゃじゃんか。俺は父さんの跡を継げばいいのか自由に生きていいのか分かんねーよ」


「そうだな。お前にどう生きて欲しいのか、俺にもよく分からん。よく分からんが、これだけは言っておく。あんまり母さんに心配かけるなってこった」


 親父はそれだけ言って適当に体を洗うと風呂を出て行った。自分だけ言いたいこと言ってスッキリした顔しやがって。

 少し間を置いて俺も風呂を出る。すかさずリンが風呂上がりの楽しみである牛乳を持ってきてくれた。腰に手を当ててグイッと煽る。


「っぷは〜!これだきゃやめらんねえな!」


 近くでリンがくすくす笑うのも気にせず、俺はオッさんのような台詞を口にする。これを言うまでが楽しみのワンセットなのだ。


「リンも()ってみろよ。クセになるぜ」


「いえ、私は……坊ちゃんの豪快な飲みっぷりを見せていただくだけで満足でございます」


「そうか?ああ、そういやメイド達は住み込みだったな。雇い主の家でやるのは確かに気が引けるか」


「そういうことですので、坊ちゃんはお気になさらずお楽しみ下さい」


 リンとそんなやり取りを交わした後、夕飯を食べ、歯を磨いて床に就いた。色々あった一日だったが、これくらい刺激が無ければ退屈だ。

 明日はもっといい一日にしよう。そう思って俺はベッドの中で瞼を閉じた。

 翌日、自分のしたことの重大さを嫌って程痛感させられるとも知らずに。




 ☆




 目を覚ますと、目の前に閻魔子がいた。周りも俺の部屋から魂の審判を行うあの場所に変わっている。


「あれ?俺もう死んだ?」


「死んでないわよ。夢枕の原理で一時的に魂だけこっちに召喚したの」


 閻魔子が忙しそうに書類を捌きながらチラリとこちらに視線を遣る。


「ふーん。そんなことも出来るのか。で、何の用だよ?」


「ええ。アンタの天恵について念の為にもう一度説明しておこうと思ってね」


 閻魔子は手を止め、両手を組んで肘を机に突いた。手の甲に顎を乗せて淡々と言葉を紡ぐ。


「あー。リミッターがどうとか言う奴な。しかしなんで今更?」


「アンタ、なんか無茶したでしょ?魂の揺らぎ(・・・)が大きくなってたわよ。ここまで大きく揺らぐのはアンタが初めてね」


「揺らぎ?」


「魂を司る者である私には人の死ぬタイミングがある程度分かるって話は前にしたわよね?それには前後1年くらいの誤差があるのが普通なの。多くても5年前後。人間は稀に精神力で寿命を少し延ばしたり、逆に精神に強いダメージを負って縮めたりもする生き物だからね。んで、その揺らぎの振り幅が大きくなるって言うのはつまりその人の死のタイミングが既定よりも大幅に変更される可能性がある、つまり命に関わるような事態が起きたということになるの。ここまで分かる?」


「ん〜……なんとなく。自分から死にかけるようなことするとそっちにバレるってことだな。無茶って程じゃねえけど両腕が動かなくなるまで近所の悪ガキと喧嘩したぜ」


「アンタねえ……人間が両腕使えないって、いつ死んでも文句言えないわよ?全く。天恵を与えたのが間違いだったかしら」


 閻魔子は呆れたように肩を竦ませる。

 確かに天恵がなければ俺はあそこまで強くなかったしガキ共に返り討ちに会って終わりだっただろうな。


「前の身体と同じように扱ってたからな。でも平気だろ。リンって言う回復魔法が使えるメイドに治して貰ったし」


「腕が動かない程のダメージを受けたのに簡単な回復魔法で全快すると思う?それも私の天恵によるものよ」


 そうなのか、と応えると閻魔子はため息を吐いて説明を始めた。


「アンタに与えた天恵は3つ。ざっくり言うと脳のリミッターを外して肉体を通常以上に酷使できる能力。そしてそれらで傷付いた身体を補う為の自然治癒力もちょっと(・・・・)強化してあるわ。最後に、魔力を全て生命力に変換しておいたわ」


 …………は?


「おい、ちょっと待て」


「元々の器によりけりだったけど、アンタが転生した身体はかなり魔力容量の大きい個体だったみたいね」


「待てって」


「もし魔法が使えたらきっと歴史に名を残す偉業を成し遂げることができたでしょうに……こんなのを入れられて可哀想だわ」


「待てっつってんだろうが閻魔子!」


 怒りが沸点を超えた俺は吼えるように叫ぶ。


「閻魔子は辞めろって言ってんでしょうが!何よ?言っとくけど転生前に説明してこれでいいか確認したからね?」


「にしてもなんつーことしてくれたんだよテメェは!せっかく魔法が使える世界に来たのにそれじゃ意味ねえだろうが!」


「いや、アンタが魔法使えるようになったら絶対碌なことに使わないでしょ?」


 閻魔子がジト目で呟く。


「そんなことねーよ!ちょっと脅しに使ったり気に入らねえ奴の家を焼こうかなーくらいしか考えてねえ!」


「十分よこの全身極悪人間!良かったわ魔法使えないようにしておいて。とりあえずこっちからは以上だから。もう忘れないように記憶の楔に繋ぎ止めておくからね。それじゃあ御機嫌よう。せいぜい今の人生を楽しむことね」


 閻魔子は勝手に話を畳んで俺を追い出した。全身が後ろに引っ張られるような感覚と共に景色が遠のいていく。


「待ちやがれこのクソ閻魔!次に会った時はぜってー泣かす!覚えてやがれ!」


 何処にともなく叫び、俺は自分の声が木霊するのを聞きながら意識を闇に落としていった。

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