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威瀬華位天誠愚連隊  作者: 若気野至利
1/7

プロローグ 快くお金をくれる友達がたくさんいる人生だった

異世界転生書きたいなーとか思ってたらゲテモノができていた……。

まあ楽しんでいってください。

 


 青い。空が。

 屋上(ここ)に寝そべって見る空は俺が見る空の中で一番デカい気がする。

 街ン中で見る空はビルに囲まれてる。

 山のちょっと登ったとこに展望台はあるが行くのが怠い。

 部屋の窓なんてのは四角にしか映らねえ。

 でも、屋上は違う。全部が青だ。デカくて広くて、上にあるのに落ちていきそうな感じ。

 ずっと見てると、そんなデケェ空と一対一(タイマン)張って睨み合ってるような気がして気分がいい。俺は(テメェ)と同格だぞと張れるような気がして。


「あ、いたいた。やっぱりここだった」


 空との喧嘩に水を差す奴が登場。


「んだよ紗雪(さゆき)。今真剣勝負の最中なんだ。邪魔すんな」


「真剣勝負って、また空とにらめっこしてるだけでしょうが!いい加減授業出ないと進級できなくなるわよ!」


「……るせぇなあ。俺は別に進級も卒業にも興味ねえんだよ。親が入っとけってうるせえから入ったが、別に出とけとはまだ言われてねえからな」


 そう言って背中を逸らして跳ね起きる。両手は(ダチ)とメンチ切り合う為にポケットに突っ込んだままだった。


「屁理屈ばっか言って!おば様も私もアンタの為に言ってやってんのよ!?」


「あーはいはいありがとよっと。俺今日はもうフケるわ」


「あ、ちょっと待ちなさい!」


「やなこった。じゃまた明日な」


 俺の為に、か。

 分かってる。

 じゃなきゃこんな俺に毎日毎日飽きもせず小言を言いに来ねえわな。

 分かってんだ。分かってんだよ。周りは俺の為に動いてくれてるのに、俺は……。


「チッ!ゲーセンでも行くか……」


 駅前以外ど田舎のこの辺じゃ憂さ晴らしできる場所なんてオンボロのゲーセンしかない。

 高校から近いってのがせめてもの救いだ。

 …………明日はちっとくれえ授業に顔出してやるか。




 ☆




「お、雨か」


 ゲーセンでオトモダチからお金を()()()適当に気分転換した後店を出ると、鼻先に温い雫が落ちてきた。初夏特有の生温い雨。そういや午後から雨がどうとか言ってたな。さっさと帰るに限るぜ。


「ん?あのガキ……」


 横断歩道の向かいからランドセルを傘にして1人の子供が駆けてくる。どうやら俺と同じ腹づもりらしい。

 お互い大変だな、なんて思いながら横断歩道に足を踏み入れた時、目と耳が違和感を告げる。

 右から来るトラックの様子がおかしい。一車線しかねえこんな狭い道で70km/hは出してやがる。そして横断歩道と歩行者が見えているだろうにスピードを落とす様子が……!寝てやがる!


「居眠りかよ!おい坊主!危ねえぞ!」


「?」


「立ち止まるんじゃねえ!一気にこっちまで……ああクソッ!」


 立ち止まってこっちを見た小学生に駆け寄り、手を伸ばす。

 届いた!

 しかし希望を踏み潰すかのように視界の殆どが突っ込んで来るトラックに埋め尽くされる。


「オラァッ!」


 右手に握った小学生を乱暴に放り投げる。歩道まで飛んで落ちた。


 俺が脱出に思考を回せたのはそこが最後だった。

 直後、経験したことのない衝撃を全身に受け、視界がシェイクされる。アスファルトに叩きつけられ、じんわりした痛みがやがて針のように全身を鋭く駆け巡る。


「ッ!〜〜ッ!!」


 声は出ない。肺を押し潰されたか。もしくは喉を。血管に沸騰した湯を流し込まれたかのような衝撃が駆け巡る。なんかの漫画で痛みと熱さ冷たさを感じる神経は隣にあって脳が勘違いしやすいとか書いてあったな。

 ヘッ。こんな時だってのに妙に呑気なこと考えてら。

 悟っちまったか。死期って奴。

 なんかだんだん意識も薄れてきた。いつもは気にも留めない心臓の音がいつにも増して聞こえねえ。

 ……死ぬのか、俺は。

 あっけないもんだな。人ってのはもっとちゃんと死ぬモンだと思ってた。誰かに看取られて人生を振り返って笑って死ねると勝手に思ってた。

 できるわけなかったんだ。俺みたいなはぐれ者が。そんな真っ当な死に方。


「あー……青くねえな」


 薄れゆく意識の中で見た最期の光景は、埃みてえに灰色く薄汚れた空だった。

 俺にはこれで上等ってか。そう思って目を閉じた。




 ☆





 こうして俺の17年の人生は幕を閉じた。考えてみりゃ親には迷惑かけっぱなしだったな。


「…………い」


 ちっちゃな頃から悪ガキで……って訳じゃなかったな。どこでこうなっちまったんだろう。


「……ーい」


 多分中学くらいからか。恩の一つも返せずに死んじまうなんてとんだドラ息子だったな。


「おーい」


 まあいいや。次生まれ変わる時はちったぁまともに生きられることを願うか。


「おーいってば!」


「あ?……んだようるせえな」


 体を起こし、声の主を探す。

 目の前に現れた光景に、一瞬目を疑った。

 俺は確かトラックに轢かれて死んだ筈。

 目を覚ますなら道路か病院のベッドの上だと思っていた。

 しかし目の前には巨大な机と山積みの書類。そして机の奥で変な格好をしたパンの耳みたいな肌の色の少女が不機嫌そうに俺を見下していた。両脇には従者のように直立不動の男が2人。


「やーっと目を覚ましたわね!全く!閻魔大王様の目の前で何時間も爆睡する死者は初めてだわ!」


 閻魔大王……?ってことはここは地獄か。

 まあ日頃の行い考えりゃ天国より地獄が似合いだわな。柔らかい絨毯の上に胡座をかき、少女の正面に向き直る。


「で、閻魔大王ってのはどこにいるんだ?」


「アンタの目の前にいるでしょうが!私よ私!」


 ……は?このチビが閻魔大王?


「はいはい。で、ホンモノの閻魔大王様はどこだよ?」


「だから私が本物の閻魔大王だって!」


「はぁ……いい加減にしろよチビ助。お前みたいなちんちくりんが閻魔大王なんつー大層な肩書きなわけねーだろーが!」


「ムッカー!今チビって言ったわね!私にそんな口利いていいのかしら?」


「何?どういうことだ?」


 聞き返すと、閻魔を名乗る少女は余裕を取り戻したように椅子に深く座り直す。


「さっきも言ったけど私は閻魔大王。確かに父から受け継いで日も浅いけれど、魂の審判はしっかりと受け継いでいるわ。私がその気になればアナタを地獄に叩き落とすことだって造作もないのよ。分かった?」


 どうやらコイツは本当に閻魔らしい。

 というか、俺には判断材料が何一つとしてないしコイツを信じるしかない。

 なら、俺が言うことは一つだ。


「そうか。なら俺をとっとと地獄に落として終わりだろ。さっさとしてくれ」


「……随分とアッサリしてるわね。ならそうするわと言いたいところだけど、それがそうも行かないのよね」


 少女……閻魔子とでも呼ぶか。閻魔子は難しい顔をして机に置いてあった紙に目を落とす。


「なんだよ?最後にガキ助けたから一発逆転で天国行きですってか?悪いがンなお情けは……」


「お情けじゃないわ。問題というのは、アンタの死のタイミングが『時期』から大きく外れてることなのよ」


「時期?人間いつ死ぬか分からんモンだろうが。そんなことこれまで何度もあったんじゃねーの?」


 死ぬ時期がコイツに分かるってのはなんか嫌だが、本物の閻魔なら仕方ない。多分そんなもんなんだろう。


「人間にとってはそうなんだけどね。私たち死を司る者はある程度、具体的には千年単位で死ぬ生命の記録が予め知らされているのよ」


 ……………………は?


「ドユコト?」


「頭の足りないアンタに説明するだけ無駄でしょうけど……例えば1人の人間が50歳で急病で死んだとするでしょ?人間はそれを予測できないけど、私は既にそれを知っている状態で死者をここに召喚するの」


「???よく分からんが、要するに誰がいつどこでどんだけ死ぬかお前には分かるのか」


「ええ。意外と頭の回転がいいのね。だからアンタ、速水 龍一(はやみ りゅういち)がいつ死ぬかも分かってた……はずだったの」


「はず?」


「ええ。ところが今回の死はその予定から大幅にズレたものだった。つまり、アンタが今ここにいるのは誰にも予想だにされなかった事態なのよ」


「…………」


「だから当局でもどうしたらいいか検討中でね。最有力候補が……」


「いいよ」


「え?」


 閻魔子が俺の呟きに反応する。


「どうでもいいよ。こちとらいつ死ぬか分からずに今日まで生きてきたんだ。そっちの事情なんかどうでもいい。さっさと俺を地獄に落として終わりでいいだろうが」


 天国にはあまり行きたくない。行って、紗雪やお袋に後で合わせる顔もない。


「ダメよ!こういう時でもしっかり規範通りに審判を下さないと!死を司る者の名が泣くわ!」


「知るかボケ!そっちの都合に俺を巻き込むんじゃねえよ褐色チビ!つべこべ言わずに俺を地獄に落とせ!」


「ぐぬぬ……そうだ!こういう時の緊急措置をお父様が書き置きしてくれたはず……」


 閻魔子はそう言って机の引き出しを漁り始めた。ややあって、一枚の汚い字で書かれたメモを発見する。


「ええと何々……へぇ……なるほど。確かにそうすればはっきりするわね」


 閻魔子がメモを黙読しながら納得したようにしきりに頷く。


「おい閻魔子!それにゃ何が書いてあったんだ?」


「誰が閻魔子よ無礼者!全く……それじゃ順を追って説明するわね」


 閻魔子が咳払いをして座り直す。


「今回の場合、魂の審判によってアンタを天国や地獄に行かせることはできないわ」


「はあ!?じゃあ俺に永遠にここにいろってのか!?冗談キツいぜ」


「早とちりしない。その理由は、アンタの現在の死と予定されていた死までの期間が完全な不確定要素になっているからなの。その間の言動を鑑みない限りは命の在り様を見定めることは不可能。よって!」


 閻魔子は立ち上がり、俺に向かってビシッと人差し指を突き出した。


「アンタにはもう一度別の人生を歩んでもらい、その上で再び魂の審判を行うことにします!」


「ふーん。もっかい生きられんのか」


 紗雪元気かな?俺が死んで泣いてたらブッサイクな顔だなって笑ってやろう。


「随分と落ち着いているわね。まさかまた元の世界に生き返れると思ってないわよね?」


「違うのか?だったらどこで生まれ変わりゃいいんだ?」


「それはズバリ……異世界よ!」


 閻魔子のドヤ度MAXな声がだだっ広い室内に響き渡った。

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