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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』
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決戦!春日井夜一郎忠文と云う漢 その1

 魔砲少女シイナの救出は無事に完了した。

 多くのヤクザ達は負傷し、拘束されてそのほとんどがワープゲート向こうの更生施設行き。頼みの綱であっただろう海外マフィアを乗せた船は、船底付近に大穴を空けて徐々に沈み始めている。

 残すは、諸悪の根源のみ。

 「貴方が、春日井夜一郎(かすがいよいちろう)忠文(ただふみ)ですね?」

 椅子に腰掛けたまま微動だにしない男へと、交渉役であるメジャー・スミスが声を掛ける。


 しかし、男は答えない。

 「同時作戦をもって、あなた方の本拠地の壊滅と、人質達の救出は完了しております。……残すのは、貴方ひとりのみです」

 ダークエルダーの組織力をフルに使い、あらゆる近しい組織も、人間関係も、末端の情報員に至るまで全てを掌握し粉砕する。

 個の武力ではヒーローに敵わないが、集団の暴力では、少なくとも日本の中で最強と位置づけされるのがこの悪の組織ダークエルダーなのだ。

 加えてヒーローのような一般人ではなく、スネに傷のある者が相手である。手加減の必要が無いのだ。


 「………よう、やってくれたなぁ……」

 ポツリと、腰掛けたままの男が呟く。

 「ワシが長いこと掛けてやってきた事を、こうも簡単に潰されるとは。……気ィ抜いてたのは、ワシの方か」

 春日井はゆっくりと立ち上がり、ようやく黒雷達を、見る。

 「────!!」

 一瞬で、誰しもに悪寒が走った。

 それは、圧倒的強者の放つ殺意。腹を空かせた恐竜の前に放り出されたかのような錯覚を、この場の誰しもが共有する。


 「……すまない、交渉にもなりはしないようだ」

 声を掛ける為に春日井へと近付いていたメジャーは、視線を受けた瞬間にバックステップを繰り返し黒雷達の後ろへと退避していた。戦闘力を持たない交渉役としては正しい生き残り方だとは思うが、すぐに人の陰に隠れるのは如何なものか。

 最も、この現場においては真っ先に動ける彼を賞賛こそすれ、情けなく思う者はひとりもいなかったが。

 それ程までに、目の前の漢、春日井夜一郎忠文が放つ威圧は凄まじいのである。

 「……どうした、後はワシひとりなのであろう?」

 春日井は羽織っていた上着を脱ぎ捨て、拳を握り歩を進める。

 この時、黒雷達には春日井の背中を伺い知る事はできなかったが、彼の背中は、確かに()()()()()

 血に塗れ、修羅へと堕ちた笑う赫鬼。

 それが、春日井夜一郎忠文を表す入墨。


 「ワシを止めて終わりと抜かすなら、止めてみせろ悪の組織」

 漢は構えない。その圧力で怯えた獲物を、ただ狩る為に歩を進めるのみ。

 「ただ、ワシを止める前に壊滅してもしらんがな」

 数の差など関係ない蹂躙が始まった。



 ◇



 「全員、スタン銃と麻酔銃を撃て! 奴が動きを止めるまで、距離を取りつつ散開しろ!」

 「遅いのじゃよ、それじゃあ」

 メジャーが言い放つと同時に、春日井は周囲の乗り手を失った黒塗りの自動車を引っ掴む。ヤクザ達の乗ってきたそれは春日井の手によって軽々と持ち上げられ、次の瞬間には黒タイツの集団の真ん中へと突き刺さっていた。

 「ぎゃあああああああああ!?」

 「くそ、撃て撃て!」

 残った黒タイツ達の一斉射撃にも、春日井は動じない。彼の全身を包むようにうねる気のオーラが、その全てを弾いてしまっているのだ。

 「ほれ、まだまだ残弾はあるぞ?」

 春日井は止まらない。自分の周囲に残る自動車を全て投げつけたら、今度は黒タイツ達の間に入り一人ずつ確実に殴打し昏倒させていく。

 それはもはや暴風雨。止めようのない暴力が、黒タイツを蹂躙していく。


 「どうやら彼もまた“気功”とやらの使い手の様子。拙者達も本気で挑まねばならぬで御座るな」

 黒タイツでは相手にもならないと判断した笑うんジャーの面々は、撤退の指示を出すメジャーを後目に時間稼ぎを行うべく前へと出る。これに黒雷も付いて出ようかとしたが、無茶をしたせいか上手く体が動かない。

 出来ることといえば、周囲の者へ椎名を連れて逃げるようにと指示するくらい。

 そしてその間にも、春日井の暴風雨は続く。


 時計サムライが簡易ワープ装置で背後へと回り、得物である二刀を突き刺そうとしたが呆気なく躱され、たった一蹴りで彼方へと飛んだ。

 怪人キボクラは出し惜しみをせず、100枚ものキーボードを取り出し叩きつけたが、春日井はそれを意にも介さず歩みを進め、遂には怪人キボクラの首元を引っ掴み、背負い投げ一本で地面へとめり込ませた。

 「チャーパパ!」

 その隙をつくかのように、怪人コーチャッパが特大熱々ティーパックを叩きつけるも、その湯気が晴れた先に人影はなく。

 その背後から、コーチャッパの首へと手が伸びてきたところで、

 「チャパッ」

 それすらも予期していたコーチャッパが、怪人スーツの緊急脱出機構付き自爆装置を起動させ春日井をその爆風へと巻き込んだ。

 「デュ……ワワワワワワワン!!!」

 そこに追討ちとばかりに光線が突き刺さる。

 打ち合わせもしていない連携プレーではあるが、だからこそ不意を突けるというものだ。


 「……なるほど、悪くはねぇが。こんなんじゃワシは倒れねぇぞ?」

 その言葉と同時に無傷の春日井が土煙の中から現れ、謎の怪人スーツを殴り飛ばした。

 「デュワ……ワ……」

 いくら防御力に優れた怪人スーツも、ヒーロー級の火力を前にしては形無しである。腹を思いっきり殴打された形となった謎の怪人スーツは、その後僅かに痙攣した後に動きを止めた。

 あの笑うんジャーの面々が、黒雷を残し瞬殺されたのだ。

 「……化け物かよ、じいさん……」

 戦う前から満身創痍(ほぼ自爆ダメージ)である黒雷は、ただ力なく呟くのが精一杯。


 「もう、(しま)いか?」

 この場にいた、軍隊とも渡り合える戦力であった黒タイツ達が、齢80を超える老人の手でほぼ全滅したのだ。

 残るは、黒雷と僅かな黒タイツとライブ部隊、それと気を失った椎名にクノイチのみ。

 “気功”のチカラとは、これほどまでに戦力差となるものなのかと。

 霧崎に勝るとも劣らないその気のオーラに気圧されながら、黒雷はまた磁力スカイダイビングのをするべく腹を括るしかなかったのだが。


 「ここまで来たんだ。いい加減引退しろよじいさん」

 不意に、この場にいないはずの者の声がする。

 彼はこの前の戦闘で負傷し、病院預かりとなっていたはずだが。

 「ふん……バカ弟子が、わざわざ殺されに出てきたのか?」

 春日井が弟子と呼ぶ漢。そりゃ強いわけだと、半ば納得しながらも、黒雷は成り行きを見守るしかない。

 「残念ながら、アンタの野望を止めに来たんだ。そろそろ若いのに席を譲れよ、師匠。……それと、椎名をこんなにした報いを、素直に受けろ」

 漢は黒雷と並ぶように立ち、拳を構える。

 それは、背中に金獅子を入れた強者。

 「見てたぜ、ツカサ。お前も“気功”が使えるようになったなら、ちと手伝え」

 黒雷をツカサと呼ぶ、その漢の名は──。


 「ふん、この姿では黒雷と呼べ、霧崎」

 思わぬ助っ人が、参戦した。

決戦は一気に書きたいタイプなのですが、今回は切りがいいというか、気を持たせる感じでいいなと思ったのでここまで。

実は春日井夜一郎忠文がここまで強いじいさんになる予定はなかったのですが、キャラに任せたらこうなりました。極道のじいさんって強くて当たり前みたいなイメージありますよね(龍が〇くを思い浮かべながら)。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何と言うかレイドボス(例のマザーデブリ)より強くない?このおじいさん…
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