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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』
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対魔砲少女戦線 その3

本日の同時投稿2本目。

読み飛ばしにご注意を。

 椎名を守るように立ち塞がった五人の漢達に対し、黒雷を含めた五人の怪人スーツがそれぞれを相手取った。

 「貴方には、拙者の相手をしていただきましょう」

 時計サムライが相手取ったのは、スキンヘッドの筋骨隆々な巨漢。人の倍はあろうかという手指をボキボキと鳴らし、ゆったりとすり足で近付いてくる。

 「ふむ……。油断して突っ込んで来てくれれば楽だったので御座るが……」

 対する時計サムライは飄々と構えもせず、手慰みのように2本の刀を揺らして誘っている。


 長い沈黙の後、先に痺れを切らしたのはスキンヘッドの巨漢だった。

 彼は刀の間合い外から一気に距離を詰め、そのふざけた怪人を投げ飛ばしてやろうと胸元と手首を掴もうとしたところで、

 「残念ながらハズレで御座る」

 いつの間にか背後に居た時計サムライによって、その腹部を背中側から容易く貫かれた。

 「……が、はっ……!」

 「大丈夫、失血死する前にウチで治療させるで御座る。ただ……無事に帰ってこれる保証は御座らんが」


 時計サムライは巨漢に刺した2本の刀を引き抜き、血を払ってから鞘に収めると、膝から崩れた巨漢の首根っこを掴み片手で引き摺る。

 そして他の雑魚共と同様に、矯正施設行きのワープゲートへと投げ込んだのだった。



 ◇


 怪人キボクラは、既に15枚のキーボードをクラッシュしていた。

 「おのれ……いったい何枚持っとるんじゃワレェ……」

 相手は名乗りの時にツッコミを入れた人。かなりの強面だが、キーボードの前に人類は皆平等である。

 「聞きたいかね? 今ので15枚減って99,822枚だ」

 「……何?」

 「防御に、攻撃にと使用していたら何枚あっても足りはしない。……そうだろう?」

 怪人キボクラは、武器としてキーボードを使用する。それが効率的かどうかなんて関係なく、そういう怪人として生まれたのだから仕方が無いのだ。


 「さぁ、これでフィナーレだ」

 彼はそう言って、今まで砕かれたキーボード達に手をかざす。するとそれらは光を帯び、ツッコミの人の周囲を囲むように浮き上がった。

 「な、なんじゃあ!?」

 「くらえ、キーボード包囲弾!」

 それは、砕かれた15枚のキーボードから外れたキーボタンによって作られる砂嵐。それを構成するのは全てがキーボタンであり、それが高速で敵の身体を切り刻む。

 「うおぉぉぉぉおお!?」

 ツッコミの人も、宙を舞うキーボタンを拳で砕く事はできず、急所を防御する事しかできない。


 「これで、終わりだ!」

 トドメとばかりに、キボクラはツッコミの人の眉間へとキーボタンを叩き込んだ。

 「うぐっ……ぐぁ……」

 CAPS LOCKボタンを眉間へと撃ち込まれたツッコミの人は、そこで意識を失い倒れ伏す。

 「キーボードの痛みを思い知れ」

 キボクラは決めゼリフのようにそう言い捨てると、ツッコミの人を回収しワープゲートへと突っ込んだ。



 ◇



 「私はコーチャッパ。精霊だ、チャパパ!」

 謎の自称精霊は熱々の出涸らし紅茶を相手の全身へと叩き込んで、既に勝利していた。

 「え、あの……出番こんだけチャパ!?」



 ◇



 「デュワワァァァァァァン!」

 「…………なんじゃあ、コイツ……」

 「デュワワァァァ……」

 「あん? 腕を交差して……?」

 「デュワワワワワワワワワワワワワワ!」

 「光線だとぉぉぉおお! ぐわあぁぁぁぁぁ!!」

 「デュワワン!」

 ……何者かは勝利した。あんた誰なんだ一体。



 ◇



 ぼんやりとした頭で、それでも椎名は精一杯思考する。

 薬と力と監禁と、そういったストレスにより、もはや椎名の心はほとんど擦り切れていたが、それでも精一杯考えていた。


 【貴方の笑い声嫌いなのよ 嘲笑にしか聴こえなくて】


 思考とは別に、口では歌を紡いでいる。そういう風に躾られたともいうが、今は聞き慣れた曲に乗せて歌っているという方が近い。

 それに、誰かの声が合わせて歌ってくれている。


 【だから私に近付かないで 電話もやめて】


 普段よりもとても歌いやすい。いつもはアカペラのように口ずさむだけだったから。

 この私に、一欠片の勇気をくれた歌。


 【赤の他人でしょ 笑わせないで】


 そう、たまたま流れてきた曲を聴いて、惚れたんだ。


 【これ以上私に 関わらないで】


 ただひたすらに相手を否定するだけの、拒絶の歌。

 でも、昔の私にはできなかったことで。

 いつか、こうしてみたいなって、ずっと……。


 【貴方なんか、大嫌い(だいすき)なんだから!】


 ?

 歌が、違う?



 ◇



 (この子、歌が上手いって言ってたけど、上手いなんてレベルじゃないじゃない!)

 裏見恋歌の中の人ことイオナは、ステージ上で歌いながら内心冷や汗をかいていた。

 まず、声質が段違いだった。

 高い音も迷わず拾い、低い音も確実に合わせてくる。

 自分で作曲しておいて歌いにくい曲だと、何度も練習の時に心が折れそうになったというのに。この子は心が壊れた後も、ちゃんと歌に寄り添えるなんて。

 (嫉妬しちゃうわね、この才能……)

 個人勢としてなんとなく歌っていたらダークエルダーに雇われて、そこから本格的に歌のレッスンを始めた程度の自分だ。

 椎名の美声に、負けそうになる。


 【嫌い嫌いよ 大っ嫌い】


 ……だとしても、この子を救えるのは、私達だけ。

 ならば。


 【でもどうしようもなく 好きなのよ!】


 (私が先に負けてあげるわけには、いかないのよね!)

 本来ならこの歌は、嫌い嫌いと相手を嫌悪し続ける。

 だけども、作詞作曲は私がやった。

 ならば、一部の歌詞を好意的にするくらいできる。


 【私は貴方が大嫌い(だいすき)で もう近づきたくもない(離れたくないのよ)


 これがカシワギ博士の見込んだ攻略法。

 彼女が魔砲の発動条件のように設定している歌を、惰性で歌えるモノから乖離させる。

 そこに思考が生まれ意識を取り戻すかどうかは未知数だが、発射までの時間稼ぎにはなる。

 (だから、早く彼女を助けてあげてよ!)

 イオナは押し負けぬよう、全身全霊を込めて歌うのみだ。



 ◇



 「さぁ、どいてもらいましょうか? 何分貴方と戦っている時間が惜しい」

 黒雷はあくまでも不敵に歩みを進める。

 実際に相手がどれほどの強者だろうと、椎名の魔砲がいつ発動されるか分からない以上構っている暇なんてないのだ。

 「そう言うなや。こっちも部下をやられとんのやし、そのケジメくらいつけさせて貰わんとなぁ」

 漢はどうあっても通す気はないようで、唯一残っていた木刀を手に黒雷と対峙する。

 (この木刀、“気功”で強化しているのか)

 習得できなかったとはいえ、ある程度の修行をこなした黒雷にはなんとなく分かる。つまり、手練という事だ。


 「ドタマカチ割ったる!」

 先制したのは漢の方だった。彼は気のチカラで純粋に硬度を上げた木刀を、限界まで上げた身体能力によって振るう。それにより、どんな盾だろうと真っ二つに叩き割る必殺の一撃となるのだが……。

 「………は?」

 気付けば漢の目の前に黒雷はいなかった。

 いや、正確には漢が移動しているのだ。


 「“気功”持ちでも、磁力による反発で吹っ飛ぶのは耐えられないだろ?」

 弾かれるようにして漢が飛んだ先は海の上。しかも港からだいぶ離れた場所だ。

 「くっ……そがぁ……!」

 漢の叫びは誰にも届かず、そのまま海へと水柱をあげて落下した。

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