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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』
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倒すべき相手と、成すべき事 その5

 作戦日当日。

 ツカサ達はこれまでに入念な打ち合わせを済ませ、いついかなる状況にも対応できるように準備を行った。

 その際、霧崎に教わった“気功”に関しては一切進歩しなかったと、改めて明記しておく。

 凡人は何事も地道にコツコツと積み重ねる事しかできないのだ。

 「さて諸君、まずはこの日の為に急ぎ準備をしてもらった件について礼を言わせてもらおう。諸君のおかげで、例のヤクザの総長、春日井 夜一郎忠文を追い詰める算段はついた」

 大陸マフィアが港へとやってくるのは夜頃。大まかにしか時間は分かっていないが、そこは日本の中枢を掌握した悪の組織。日本近海に近づく船があれば即座に連絡が来る体制は整っている。

 後は待つのみ。


 「諸君の中にも、奴らの行為に苦い思いをした者がおるじゃろう。ワシもあんな、いたいけな少女を兵器運用する奴らの蛮行については、そりゃもう腸が煮えくり返る思いじゃ」

 ちなみにこれは、本日の朝の朝礼。

 自由参加ではあるのだが、本日は作戦決行日とあってか支部のほぼ全員が参加している。

 相変わらずロリコンを拗らせたカシワギ博士は、ずっと可愛い少女……椎名が、ヤクザの組織の下で働かされている事態に納得がいっていなかったようで、このセリフから分かる通りに怒りを示している。


 「春日井夜一郎忠文、ぜってぇ許さねェ!!」

 「さぁ、今夜はお前の罪を数える番だ……」

 「楽して助かる命はないのは、どこも一緒だな!」

 ……訂正。どいつもこいつも殺る気に満ち溢れている。

 なしてみんなして、そんなセリフが正義の味方リスペクトなんです? ここ、悪の組織ですよね?

 「うむ。皆の気持ちはよく伝わった! 今夜こそ、奴らとの決着の時である! 我らの全力で、奴らをこの世から消し去ってしまえぇぇー!」

 『オオオオオオオオォォォォォ!!!』

 建物を揺るがす程の怒号。もちろんツカサも大いに叫んだ。

 悪の組織とはこうでなくては。

 無駄に集会を開いて、幹部の号令に全員で返す辺りが()()()じゃないか。


 「それではこれより、作戦名『真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす』を発令する! 諸君の健闘を祈る!」

 『応!!』

 作戦名が適当? いいじゃないか、そのまんまなんだもの。

 そう、ダークエルダーがとる手段はただひとつ。全勢力をもって相手勢力を叩きのめす。これに尽きる。

 魔砲少女の火力に慢心している相手なぞ、策を弄する程の敵ではないのだ!

 決して作戦を考えるのが面倒だったとかではない! 歴然たるチカラの差を見せつけてこその悪の組織なのだ!

 つまりこれも美学! 悪の組織の美学なんですよ!

 「……まぁようするに、現場の皆は臨機応変に対応してねっていう丸投げなんじゃがな……」

 カシワギ博士、マイクも切らずにボソッと言った言葉でゴソッリ士気を落とすの止めてもらえます?



 ◇



 そんな挨拶も終わり、作戦の参加者には開始まで自由時間が与えられた。

 戦闘員達は時間まで思い思いに過ごしてもよいとされ、自宅の積みゲーを崩しに帰る者や速攻で昼寝をかます者、その場で筋トレをしだすカゲトラなど反応は様々だ。

 ツカサは別に急いでやりたい事も無いため、手持ち無沙汰だなぁとしばし呆然としていると。

 「あのさ、ツカサくん。ちょっと付き合ってくれない?」

 不意にというか、何故かイオナから話しかけられた。

 「構わないけど、俺でいいなら?」

 「ツカサくんだから誘ってるんだよ。下のカフェでいいよね?」

 「アッハイ」


 相変わらずキョドる事しかできないツカサを連れて、イオナは支部1階のカフェへと向かった。

 平日昼間にも関わらずそれなりに繁盛しているようだが、一般に解放されているエリアとダークエルダー組員用のエリアは一見それと分かりにくいように区別されているため、ツカサ達はすんなりと席へ案内される。

 「アイスコーヒーをふたつと、このサンドイッチセットをください」

 「畏まりました。少々お待ちください」

 「………うがー」

 席に着くなり注文をし、店員が移動した後、イオナは何故か頭を抱えだし、机へと突っ伏した。


 「え、なに、なんなの?」

 その状況についていけないツカサ。おかしい、彼女は昔の記憶でもそんな奇行に走る人ではなかったはずなのに。

 「……見ての通り、頭を抱えているのよ。だっておかしくない!?」

 頭を抱えたと思ったら、今度はバンと机を叩きツカサへと顔を近づけるイオナ。傍から見れば情緒不安定とも取れる奇行に、ツカサはただただ気圧される一方である。

 「ただのヴァーチャルアイドルが! ホログラムでキャラになりきって! 敵前で歌うって! 一体どういう作戦なのよ!」

 「え……おかしいの?」

 そう、今回の作戦のキーマンである裏見恋歌は、ツカサと共に最前線へと赴き、椎名の歌に横槍を入れるという大事な要因なのだ!

 そして哀れツカサ、最近はずっとスカイダイビングさせられたり磁力で反発して飛び上がったり舞落ちたりと忙しく、この程度の作戦を“おかしい”と思えない思考へと変化していた!


 「……この支部が変人揃いって噂されてるの、なんとなく理解したわ……」

 「え、カシワギ博士だけじゃなくて!?」

 「支部の全員おかしいのよ!」

 『な、なんだってー!?』

 これにはツカサ達と同じくカフェへとゆったりしに来ていた戦闘員達もびっくり仰天。

 確かに彼らは、わざわざヒーローとの最前線を希望した変わり者ではあったが、まさか自分達が変人とまで呼ばれるとは思いもしなかったのだ。

 「くそ、なんで俺に彼女ができないか分かってしまった!」

 「どうしよう、おばあちゃんに「いい人達に囲まれて楽しく仕事してるよ」って報告したばかりなのに!?」

 「なんて事だ。もう笑うしかねぇな!」


 居合わせた戦闘員らが次々とダメージを受け、己らの客観的評価に恐れ慄いている。

 もはや収集のつかない状態かと思われたが、

 「でも自分を幼女に作り替えた人よりマシでしょ」

 という、誰かの一言で一瞬にして静まり返った。

 突き詰めた変態が傍にいると、自身がどれほどおかしくても気が付かなくなるものである。

 そう誰もが反省する事で、この騒動はすぐさまお開きとなったそうな。

 この時、カシワギ博士はそれはもう大きなクシャミをしていたとかなんとか。


 閑話休題。

 「まぁ、実際に有効かどうかは試してみないと分からない事だし、俺も護衛しながら戦うから。あんまり心配しないでよ」

 「………まぁ、もう決まった作戦にグチグチ文句垂れてても、仕方ない事は分かっているんだけどね……」

 ツカサはなんとかイオナを宥めつつ、アイスコーヒーを飲みながら物思いに耽ける。

 今夜、全てが上手くいけば、椎名を解放してやれる。

 霧崎という漢を通した接点しかないが、それでも一度顔見知りになったのだからできれば助けてやりたい。

 決して霧崎の意志を引き継ぐとか、そういうものじゃあないが。

 それでも、なんとかしてやりたいと思ったならば。

 なんとかできるチカラがあるのならば。


 「……助けてあげなくっちゃな」

 「当然よ。なんせ、私の曲のファンなんだから」

 独り言のように呟いたツカサに、イオナが返す。

 うだうだ言いつつも、イオナの目にはちゃんと決意が見て取れて。

 「……ああ、当然だったな」

 ツカサは若干ニヤつく頬をどうにか抑えながら、アイスコーヒーを飲み干した。

 作戦は今夜。それが終われば、ツカサも傭兵業務から解放される。

 黒雷は公園での魔砲撃で吹き飛んだと思わせるため、ずっと外では変身できずにいたのだ。

 その恨みも全て叩き込んでやると、ツカサは決意を新たに、今度はケーキセットを注文したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんとなく思ったんですけどスーツ?タイツ?だけであの防御力ならその上から鎧的な装飾品を付けたらカッコ悪さが緩和されるんじゃ…? ちなみにタイツは初代仮面ライダーの敵のショッカーのイメージでい…
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