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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』

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倒すべき相手と、成すべき事 その3

 デブリヘイム事変の被害者少女のお見舞いに行ったら、帰った時にはダークエルダー支部の中でライブ会場を設営し、ヴァーチャルアイドル裏見 恋歌(うらみ れんか)と瓜二つの少女のステージを見ることになっていた。

 な、何を言っているか分からないかもしれないが、俺も何を言っているか分からない!

 「なぁヴォルト。俺の常識は間違っていたのか?」

 「少なくとも私に聞くのは間違いじゃない?」

 そりゃそうだと思い直し、だったらもうハジけてやれと、見よう見まねでペンライトを振るツカサ。

 こうなった理由は後で聞けばいいやと、そう思い直したところで、ようやく今回のイベントの意味を知る事になる。


 【誰も私に成れやしない 私はただ私であるだけ】


 それはどこかで聞き覚えのある曲だった。


 【その事に不満があるならば いっそ私を“誰か”に作り替えてくれればいいのに】


 ツカサにとっては一度聞きかじっただけで、後に歌詞を調べようなど微塵も思わなかったのだが。

 しかしその歌は、あの美麗な声とも相まってツカサの脳みそに深く印象付けられている。


 【出来ないでしょう? 貴方には関わる(そんな)気なんて無いんだから】


 煌びやかなスポットライトの下で歌い紡ぐそれは、一体どんな思いを乗せているのだろうか。この人数を魅力し、笑顔にするその歌には、如何程の感情を込めているのだろうか。


 【笑いたければ笑えばいい 貴方はきっと】


 ここでツカサの記憶にある歌詞は途絶える。公園であの子が歌っていた時には、このタイミングで割って入ってしまったのだ。

 だからここからは初めて聞く歌詞なのだが……。


 【心優しい(臆病者の) ご主人様(ヘタレ野郎)だから】


 何故か心をざっくりと抉られた気がした。



 ◇



 そこから数曲を彼女は歌い上げ、此度のコンサートは解散となった。

 正直にいって酷い歌詞じゃないかとは思ったが、それでもネットでそれなりに名前を聞く程度には人々に受け入れられているのだろう。

 ツカサとしては「意気地無しの男に魅力はないわ」とバッサリ切り捨てられた気分なので、何故か心が辛い。

 「いやぁ、見事な歌声じゃったな!」

 ステージ上の裏見 恋歌と並び立つようにして、カシワギ博士が舞台袖から登場する。

 「さてさて諸君、今回彼女のライブを行ったのは、単なる慰労目的ではないのじゃ。もう気付いておる者が多いやもしれんが、此度に聞いてもらった曲は、あの魔砲少女シイナが歌っていたものと同じものだと、断定できる」


 一曲目は、ツカサが公園で聴いたもの。こちらはヴォルトが後日ボー〇ロイドで再現したので、職員なら誰でも閲覧できた。

 そして次の曲では、公園が吹き飛ばされた時に椎名が歌っていた歌詞が出てきた。あの時は直接声を聞くことはできなかったが、近くの防犯カメラがギリギリ音声を拾っていたために、こちらも後日に再現する事が可能だったのだ。

 「でも、だからなんだって言うんです?」

 彼女が好んで歌う歌が分かったところで、彼女本人の攻略に直接繋がるとは思えない。歌って変身して戦うというのならば、歌を分析する事に意味はあるかもしれないが、今回の場合はネットの有名どころが歌われていただけである。流石にそれを変身ソングにするようなことはないだろう。


 「うむ。疑問はもっともじゃが、とあるタレコミがあってな? 彼女は薬を使われて不安定になっている精神を、あの歌を歌うことでギリギリ安定させておるらしいのじゃ。じゃからその歌から先ず崩せれば勝機はある、とな」

 これが証拠じゃ、と博士が取り出したのは、何とも古風な矢文。公園跡地を捜査中に飛んできたらしい。

 「これは……あの忍者ですかね?」

 「まぁ、これ以上ないキャラ付けではあろうよ。とりあえず読み上げるとじゃな……」

 博士はステージ上で手紙を広げ、マイクを前に読上げを始める。

 内容は以下の通り。


 『拝啓、ダークエルダーの皆様。

 此度の作戦に横入りしてしまった件について、先ずは深くお詫び申し上げます。

 ですが、全ては現総長である春日井(かすがい) 夜一郎忠文(よいちろうただふみ)の目を欺く為のものだと御理解ください。

 彼の者は此度の一件で霧崎龍馬一派を亡きものとし、自身は領地と椎名嬢を手土産に大陸マフィアに取り入る手筈でおりました。

 我々はその野望を阻止すべく、あなた方のお力をお借りしたいのです』

 矢文の冒頭はそういった文章で、以下には有益な情報や霧崎を刺した事への言い訳と謝罪などが並べられていたが、長くなるのでカット。


 ツカサが気になった情報は2点。椎名に関する物と、今日から数えて5日後に大陸マフィアの船が神奈川の港へと入港し、本隊が上陸してくるという物である。

 結局ツカサは駆け引きなぞ預かり知らぬ、ただの戦闘員なのだ。

 倒すべき相手と、救うべき相手がハッキリすれば、頭脳労働は丸投げできる。この辺も巨大組織としての強みといったところだろうか。


 「……と、言った感じで書かれていてな。諜報部隊に裏取りをさせたら、この矢文の通りの展開だったワケじゃ。なので我々としてこの矢文を信用し、戦力を振り分ける事とした」

 カシワギ博士はそう言うと、その場で人員を割り振り始める。

 案の定というか、この支部の主戦力であるツカサは船の強襲を命じられ、そこでようやく博士の横で待っていた裏見 恋歌の出番となった。

 「ツカサくん。彼女が今回、魔砲少女シイナ攻略の鍵であり、ダークエルダーが設立したアイドル部所属の……」

 博士がそう言って彼女を促すと、彼女は一歩前へと出て、()()()()()姿()()()()()


 「アイドル部所属の、コードネーム:イオナです。……久しぶりね、ツカサくん」

 中から出てきたのは、小柄で眼鏡を掛けた委員長タイプの女性。ツカサはその姿を見て、思わず指を指し声を上げた。

 「あ、あんた確か同級生のい……! イ、イオナさん、か……」

 思わず本名を言おうとしてしまい、咄嗟に誤魔化す。

 別に本名暴露は御法度というワケではないのだが、最早コードネームで呼び合うのが通例みたいな組織なので。その辺もまた「悪の組織としての美学」ということで。

 「なんじゃ、知り合いかの、ワケありかの。まさかツカサくんの……いや、ありえんな、すまん」

 「いやいや、確かに博士が小指立てようとした関係じゃないですけど、それは俺に彼女ができるはずがないって言ってません? ……まぁ、確かにできませんけど。イオナさんは高校時代の同級生ですよ。顔と名前は覚えていても、卒業したら一切絡まなくなった程度の仲です」


 ツカサは高校を卒業した後に上京し、ブラック企業で心身共にボロボロにされた後でダークエルダーへと転職した。その際に地元の知り合いの大半とは距離ができたし、根っからの特撮オタクで友達も少なかったツカサとイオナの間には、卒業までに事務的な会話程度しかなかったのだ。

 むしろよくお互いに顔を覚えていたものである。

 「ツカサくんは変わらないねぇ。……いや、でもイメージよりは体つきが良くなってる。所属は戦闘員?」

 「そうだよ。一通りの筋トレはやるようになったからね。変わってないって言われると、ちょっとショック」

 「ほらほら、ステージの上でイチャついとらんで。細かい作成会議は明日に回して、今日はもうステージ片付けて帰り支度をするんじゃよー」

 ウィース、なんて皆で軽い返事をして、それぞれがまたステージの分解へと動き出す。そんな中、

 「ね、ツカサくん。今日の帰りにちょっとだけ呑みに出掛けない? 色々話もしたいしさ」

 なんて誘われて。


 慣れていないツカサは、ただコクコクと頷く事しかできず。

 「じゃあ、また後で」

 そう言ってイオナは離れていく。

 「……奇特な人間ってのもいるものねぇ」

 また、ひょっこりと顔だけ出したヴォルトの声に、

 「……ホントにな」

 なんて、答える事しかできないツカサであった。

 不意打ちへの対応力はからっきしである。

 それと、『ツカサみたいな人間を誘うなんて、変な人』と暗に言っていたヴォルトの発言に対して、気付いていないのかスルーしてしまうツカサであった。


 本当にこの先どうなることやら、なんて考えながら、ニヤつく顔で陣頭指揮を執るカシワギ博士の姿をがあったそうな。

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