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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』
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倒すべき相手と、成すべき事 その2

 ツカサ達が公園ごと蒸発させられそうになった日から三日後。

 ツカサとヴォルトは、ツカサが前までお世話になっていた病院を訪れていた。

 とはいえ本日はツカサがお世話になりにきたわけではない。

 「はい、連絡をいただいていた大杉 司さんですね。少々お待ちください」

 受付の女性に声を掛けると、すぐに身分証照会と簡単な問診や検査を済ませ、一般用とは違う棟へと案内される。


 ここはダークエルダーが直轄で運営している病院のひとつ。

 直轄運用なので、この時代には少々オーバーテクノロジー気味な機器も惜しみなく投入している為、怪我や病気になった構成員はまずこちらへと通されて治療される。

 一応表向きは普通の病院なので、そういう最新機器は全て別棟で管理・運用されているのだ。

 そして今回ツカサ達がやってきたのは、とある人物のお見舞いである。


 「こちらになります」

 案内してくれたナースに一言お礼を言って、目の前の扉をノック。どうぞ、という男の声を聞いてから中へと入った。

 「どうもツカサさん、お久しぶりです」

 出迎えてくれたのは、ツンツン頭の少年。社員コードネーム:トウマ。

 先のデブリヘイム事変で、ダークエルダーと共に戦った『流星装甲(メテオナイト)アベル』である。

 そして、

 「はじめまして、ツカサさん。この度はお世話になりました」

 「やぁ、貴女が東雲 縁(しののめ ゆかり)さんだね」

 そう、お見舞いに来た相手とは、トウマの幼馴染にしてデブリヘイム『マザー』に数年間捕らえられていた少女、東雲 縁であった。


 聞いた話によると、彼女はデブリヘイムとの決戦で救出されてからしばらくは目を覚まさず、こちらの病院でできる最高峰の治療を受けていた。

 『マザー』の中で過ごした数年間分は一切成長もせず、病院に運び込まれた時点では呼吸すらしていなかったと言うのだから、今生きているのが奇跡だと誰もが話している。

 その後スタッフの誰もが諦めなかった結果なのか、彼女は息を吹き返し、止まったままだった全ての臓器・細胞が活性化し、一昨日には目を覚ましたのだそうだ。

 まだまだ行わなければならない検査は多いが、筋肉の衰えはないためもしかしたら近いうちに退院できるかもしれない、とのこと。


 「ツカサさん、本当にありがとうございました。皆さんにはなんとお礼を言ったらいいか……」

 「お礼なんかいいさ。それは君が諦めなかった結果だし、俺は結局『マザー』戦には参加できなかったしね……」

 一応関係者として、共にアベルと戦った仲間としてお見舞いには来たが、ツカサと東雲の間に面識はなかった。

 あの時参加していたダークエルダー構成員達の代役として、ちょうど暇のできたツカサがお見舞いにやってきただけなのである。

 ダークエルダーとして礼は受け取るが、個人としては何も出来なかった負い目が勝る、といった感じだろうか。


 「それでも貴方は、命懸けの作戦に参加してくれて、幹部相手に勝利を収めてくれたでしょう?

俺にとってはそれでも十分お礼を言うに足ります。謙遜なんかしないでください」

 「謙遜とかじゃないんだけどなぁ……」

 ツカサとしては、もっとうまくやれたんじゃないだろうかとか、あの時ああしていれば、なんて反省の多い結果だったのだ。別に食い下がるほどの理由があるわけではないが、全肯定はしたくないなんて、そんなめんどくさい人間なのだ。

 「ツカサさん、私からもちゃんとお礼を言わせてください。見ず知らずである私なんかのために、余計な手間を取らせたというのは聞いています。本当にありがとうございました」

 「う……ん。無事で何より、ですよ」

 一番の被害者たる東雲に頭を下げられては、ツカサも黙るしかない。

 人との会話に慣れていないオタクはこれだから。


 「と、そうだ」

 二の次が発せなかったツカサは、無理やり話題をずらす。もうちょっと社交辞令とかそういうのを習っておけばよかったとか、そんな事も考えつつ。

 「東雲さんが退院したら、ふたりはどうするんだ? 現状アベルとして働いているトウマはともかく、東雲さんに職の当てが無いようなら、ダークエルダーに所属するという事も可能だけど」

 「なるほど。経過観察も含めて、という事ですね? そういう事でしたら喜んで」

 「おっと……」

 数年間『マザー』の中に囚われていたというのだから、てっきり精神的にも不安定になっているかもと思っていたが、東雲さんは妙に聡い。

 「見透かされているなら言い訳はしない。現在ウチの支部は人材不足でね。主にカシワギ博士の助手が見付からなくて……」

 ロリコンを拗らせた天才おじさんが、何を考えたか自らを幼女へと改造した存在、カシワギ博士。

 そんな思考のズレた人の相手をいきなり任せて大丈夫なのかとか疑問は残るが、何故かカシワギ博士が推してくるのだから聞いてみるしかない。


 「どうかな、無理だと判断したら別の部署も用意できるから、気負わずにやってもらえると助かるのだけれど」

 「ええ、やらせてもらいます。そうしたら……今はトウマと名乗っているんでしたっけ? とも一緒に居られますから」

 ……リア充が。

 「あの、ツカサさん。殺気、殺気を感じるんですが。俺、なんかやりました?」

 まぁ僻んでも仕方ないと、あっさり殺気を引っ込めるツカサ。そもそもリア充に向けて殺気を放つ時点で相当拗らせているのだが、それはそれとして。

 「ありがとう。ではこちらもそのつもりで手続きをしておくから。かといって急がなくてもいい。家族に顔を見せたり、行きたい場所や、やりたい事をこなしてからでも構わないと言われているからね。内定の決まった学生の気分でいてくれていい」

 「はい、ありがとうございます」


 それからいくつか話をして、ツカサは病室を後にする。あまりトウマとふたりきりの時間を邪魔するのも野暮だろう。

 「ホントは事務的な事しか話せないから逃げ帰るってだけなのにね?」

 ヴォルト、そういうのは言わなくていいから。



 ◇



 ところ変わって、ダークエルダー支部。

 本日こちらでは対策会議と称して、何故かトレーニングルームにライブ会場を設営していた。

 「……えっと、カシワギ博士。お見舞いから帰ってきたらよく分からん事になってますが?」

 「おお、おかえりツカサくん。まあちょっと待っとれ。面白いものを見せてやるからのぅ」

 「はぁ……」

 待てと言われて大人しく待つだけなのもアレなので、ちょこちょこと手伝えそうな箇所は手伝い、設営を続けていく。

 そうしてできたのは、簡素なステージにダークエルダーの技術の粋を集めた最新機器の照明と音響機器による即席ライブハウス。


 動機も意味もさっぱり分からないが、できてしまったのはしょうがないとしてツカサは思考を放棄し一番遠い席へと座る。

 自身の担当箇所が終わった者からどんどんと席を埋めていき、用意していた席がほぼほぼ埋まった辺りでようやく部屋の照明が落とされ、ステージがライトアップされた。

 そしてトコトコと壇上に上がるのは、マイク片手のカシワギ博士。

 「うおっほん。……あーあー。皆さん、本日はよくお集まりいただきました。今日これから行いますのは、現状我々が打破すべき難題、『魔砲少女シイナ』への対抗策となりうるものです。まあ堅苦しい話はとりあえず抜きにして、まずは一曲聞いてもらいましょう。……それでは、どうぞ!」

 そう言って博士が幕下へと下がり、代わり出てきたのは……。

 「ヴァーチャルアイドルの、裏見 恋歌(うらみ れんか)!?」

 今、オタク界隈を騒がせているヴァーチャルアイドルと瓜二つの少女だった。

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