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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』
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倒すべき相手と、成すべき事 その1

 その日、とある街の公園が跡形もなく蒸発した。

 近隣の住民の避難はダークエルダーの手により既に完了していた為、一般人の被害者はいない。

 しかし、当時公園に居た暴力団関係者が200名ほど行方不明となっていると全国ニュースで話題となり、様々な憶測がネットを賑わせていた。

 一説には『地下のガス管が破裂し全員生き埋めになっている』だの、『正義感の行き過ぎたヒーローが一網打尽にした』だの、『ダークエルダーが遂に本気を出し、その力の一端を見せ付けた。これは言わば警告である』だのと、誰も彼もが好き勝手に議論し、盛り上がる。

 噂に付いた尾ヒレ葉ヒレは留まるところをしらないが、そこに不思議と『ダークエルダーの黒タイツ達が同時に行方不明となっている』という噂だけはついてこなかった。


 「まぁ、その辺は日本を裏から牛耳る悪の組織ダークエルダー。情報規制も操作もお手の物というところを見せねばならんでのう」

 そんな事をみたらし団子片手に語る幼女、カシワギ博士。彼女は淹れたての熱いお茶を啜り、案の定舌を火傷したのかしばらく口を抑えて悶絶した後、また何事も無かったかのように団子を頬張る。

 「君達が隣町にいた時に食堂メニューに常設させたみたらし団子じゃ。食わんのかね?」

 と、博士は対面に座る男へと声を掛ける。

 「……博士。分かっているとは思いますが、俺は雑談をしに戻ってきたワケじゃないんですよ?」

 まぁ貰いますけど、と男は自身の分へと手を伸ばし、その内の一本を肩に座る人形サイズの少女へと手渡した。

 冴えない男と妖精チックな少女の二人組。ツカサとヴォルトである。


 彼らは椎名による攻撃を受ける直前、事前におっさん共を放り込む為に複数台設置されていたワープ装置へと飛び込み、間一髪逃げ延びたのである。

 もちろんその場に転がる強面おっさん達と重症の霧崎も無事に回収し、黒タイツと怪人も大多数は避難できた。その後怪我人は全て病院へとぶち込み、無事だった者は業務へと戻ったのである。

 また余談だが、黒タイツの大盾班数名と防御力に優れた怪人タテボーグは独自に緊急脱出装置を使用し、椎名の火力を計る為に敢えてその場にスーツを残していた。

 事の済んだ後に別働隊が公園跡地を捜索したところ、ギリギリ原型を留めた怪人スーツを発見したらしい。

 つまり椎名は、少なくとも黒タイツの防御力では一撃で消滅してしまい、防御特化の怪人スーツでも耐えられない程度の火力を保有している事になる。


 「君が疑問に思っとる事は大体分かっておるよ。椎名と呼ばれる少女と彼女の能力。唐突に現れ場を引っ掻き回して消え去った自称忍者。霧崎が刺され、丸ごと消されそうになった理由。それと今後の方針といったところじゃろ?」

 順番に説明してやろう、と博士は指を立てる。

 「まずひとつ、椎名という少女の能力。これは残っていた映像から分かる範囲の想像も交えた話になるんじゃが……」

 そう言って博士はモニターへとある映像を映す。

 そこに映ったのは、施設と思しき建物の前で気丈にもデブリヘイムへと立ち向かう少女の姿。その姿は今の椎名とほぼ同一であったが、今よりも生気に満ちているようにも見える。

 少女は震える唇で何かを口ずさみながら、何処からともなく取り出した白い杖のような物を振るう。

 それだけの行為で、映像は瞬時にホワイトアウトし、途絶えた。


 「デブリヘイム事変後にこの現場を調査した時には、何かに抉り取られたかのように見えたそうじゃよ。ちょうど今回の公園と同じようにな」

 「つまり彼女は……」

 「そう。仮説ではあるが、ワシは彼女が『魔砲少女』ではないかと睨んでおる」

 ──魔砲少女。それは一時、とあるアニメのキャラクターに付けられたあだ名のようなもの。その単体火力が砲撃と見紛う程の威力を持つ為に、視聴者から付けられた異名である。

 「歌っとる理由は分からん。だが曲の方は特定を進めているから、何か分かればまた連絡しよう」


 そしてふたつ目、と指を立てる。

 「あの少女へと化けて出た忍者。ウチの忍部隊の者に確認をとったら、あの喋り方をするくノ一に覚えがあるそうじゃ。こちらも現在調査中ではあるが、まぁ雇われ忍者といったところじゃろうのう」

 「現代にもいるんですね、忍者……」

 日本の代名詞みたいな扱いではあるが、とっくの昔に諜報機関としての役割は終えたものだと思っていた。それが敵に回っているのもアレだが、平気でダークエルダーが部隊規模で雇っているという事実にもまた驚かされる。


 「そしてみっつめ。これはヤクザという組織として、『人望のある現役の元総長の組長』という存在がずっと目の上のタンコブだったのではないかと考えておる。組織が真っ二つに割れかねんからな。此度の襲撃騒動も、あわよくば霧崎という漢を排除しようとした結果なのではないかと思うんじゃ」

 便宜上『霧崎派』と呼べる者達に首輪を付けつつ、難解な仕事をやらせてどうにか粗を探し、始末しようとした、というところだろうか。

 悪の組織やヒーローがそこかしこにいる時勢である。何かがあればすぐに騒ぎとなり、その責任を負わせる事も容易だと考えたのだろう。


 「そして今後の方針についてじゃが、引き続き契約した総会の護衛と敵対組織の壊滅を目指す。

 幸いと言っていいかは分からんが、爆弾を付けた者は数名確保できたし、解除も問題なく済んだでな」

 「椎名という脅威はいるが、霧崎はこちらで治療中だから一応は戦力半減と。行方不明として処理された彼らの家族は……」

 「そちらも人をやって確認した。あちらの組織は死んだものとして扱っているらしいぞ。今回、行方不明扱いとなった者の関係者もみな解放されたのを確認しておる」

 つまり向こうが打った一手で、こちらの目標としていた人質解放の一部が達成されたというわけだ。

 確かにワープ装置なんて非現実的な物で脱出されるなぞ、彼らには想像もつかない事だろう。ダークエルダーの技術は秘匿性が高いため、外部に情報が漏れないよう一重二重どころではない情報規制がされているのが功を奏したのである。


 「後は時期をみて奴らを狩る。その際に椎名嬢も解放してやらねばならんので、まぁ作戦もそれなりに詰めねばならんじゃろうて。それまではのんびりと構えておるとよい。

 ただし、黒雷の姿にはなってはならんぞ。今しばらくはあの一撃で消し飛んだものと思わせねばならんからな」

 「了解しました。私も椎名に顔をみられてますからね。認識阻害が効かない程度には関わってしまっていたのは間違いないですから、しばらくはこの町を出ずに過ごしますよ」

 「それがよい。作戦には必ず参加してもらうので、それまでは待機していてくれ」

 「了解です」


 そこからしばし団子を片手に談笑をし、定時を過ぎてから支社を出る。

 少ししか離れていないはずなのに、なんだか少し懐かしい感じがして。そこでフと久々に、夕陽の公園へと足を向けようかと思い立つ。

 もうすぐ初夏を迎えようかという時期で、日が暮れるまではまだ時間があるのだが。

 それでもあそこでのんびりと過ごす分には退屈しないですむので、ツカサはそんな時間も気に入っている。

 「ヴォルト、少し寄り道するよ」

 「またあの公園ね? いいわよ、好きにしなさい」

 同行者の了承も得たので、ツカサは迷いもなく歩き出す。

 久々に彼女達に会えたなら、どんな事を話そうかなんて、そんなどうでもいい事を考えながら。


 ツカサはまだ気付いていない。

 ツカサの中で、殺伐とした日々と平穏な日常の境目が曖昧になり始めている事に。

 殺されかけたのがつい昨日の事だと言うのに、一日立った今ではそんなのを気にも止めていない事に。

 それがいい事なのか悪いことなのか、それはまだ誰にも分からない……。

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