ドキッ☆強面だらけのタマ取り大会! その3
連続投稿三本目。
本日はこちらで最後になります。
ほぼ同時に三本上げていますので、お間違えのなきよう。
「あー……くそ。よく生きてたな俺……」
都合よく風に流されず、同じ公園の真ん中へと落下してきた霧崎は、その拳に集中させた気の力を地面へと叩きつける事によりどうにか九死に一生を得ることができたようだ。
同じく上空へと舞い上がっていた黒雷も、ヴォルトの助力により無傷で地上へと降りる事ができた。
それでも命の保証なぞまるでない空中に放り出される感覚には未だに慣れることは無く、しばらくは飛行機も乗りたくないと独りごちる。
「さて、まだやるか?」
黒雷が声を掛けた先、膨大な土煙の中から歩み出た霧崎の顔には、既に戦意どころか生気もない。いくら気功の達人として修羅場も鉄火場も潜ってきた超人であろうが、上空700mからの自由落下には耐性がないのは当然だろう。
万が一の際にヴォルトが救助する手筈だったとはいえ、知らぬ本人からしたら一世一代の大博打だったのだ。神経が保つはずもない。
周囲を見渡せば、状勢はほぼほぼダークエルダー側に軍配が上がっている。何人か霧崎の弟子と思わしき気功使いが粘ってはいるが、怪人スーツ二体で囲めば問題なく無力化できているようで、制圧も時間の問題だろう。
「……こりゃ、討ち入りどころじゃねぇよなぁ……」
気丈にも霧崎は、先程自分をあんな目に合わせたはずの黒雷へと歩み寄ってくる。
何か秘策があるのか、単に負けを認めたからなのか。その辺の判断ができない内は黒雷としても警戒を解くワケにはいかず、周囲の状勢もまた留まることは無い。
「黒雷って言ったな。アンタ達の……」
霧崎は、その先何を言おうとしていたのか。
その言葉を聞く前に霧崎は、薄れゆく土煙から現れた少女、椎名に目を奪われ、そして。
椎名の持つ長ドスに腹部を貫かれた。
「「………は?」」
霧崎と黒雷の声が重なる。
霧崎はそのまま膝から崩れ落ち、黒雷は訳もわからずとりあえず駆け寄る。
一体なんだ。どうなっているんだ。
何故霧崎は椎名に刺されたんだ。そもそも椎名はどこに居たのか。この椎名は何故、歪な笑顔で笑っているんだ。
沢山の疑問が黒雷の脳内で交差する中、突如椎名が口を開く。
「ダメじゃないっスか、そんな簡単に負けちゃあ。ま、お陰で私の仕事もやりやすくなって助かったっスけど」
キャアアアアシャベッタァァァァ! なんて悪ふざけができる空気ではない。
そもそも喋る事ができないという話だった椎名が、ここまで流暢に霧崎に対し悪意をぶつける事ができるのはどういった理由なのか。
「あ、黒雷サンもご苦労さまっス。ウチの内部抗争に巻き込んでスンマセンっスね。時間もないんで、特に事情が無いならさっさと逃げてくださいっス」
それだけ一方的に宣うと、椎名は倒れ込んだ霧崎に大きな布を被せ、完全にその姿を覆ってしまう。
一体何がどうなってこれから何が始まるのかと、さっぱり状況に着いていけなくなった黒雷はただ駆け寄ったその場で立ち尽くす事しかできない。
「イッツ・ショータイムっス!」
突如そう叫んだ椎名は、ドロンという音と煙に姿を隠し、次の瞬間には霧崎の姿となってその場に現れた。
「……oh,Nimja?」
「おっ、流石黒雷サン。正解っスよー」
正解だと言いながら、霧崎へと変身……いや、変化した椎名だった者は黒雷の方を見てはいない。
その視線は黒雷の斜め後ろ、空の彼方へと向いている。
「おーい、椎名! ここだ! 作戦通り頼む!」
今度は霧崎と瓜二つの声で、まるで本物の霧崎かのように振る舞うその者は、視線の先の者を椎名と呼んだ。
ヒーロー級の戦力とされる、椎名の名を──。
「全員、即座に撤退準備急げェ!!」
「フフフ、ようやく飲み込めたっスか。精々頑張ってくださいっス」
その者はそう言うと、またドロンと姿を消した。
自在に姿を変えるその者が何者なのか気になるところだが、今はそんな事を考えている暇はないのだろう。
黒雷の直感が正しければ、この状況は……。
◇
椎名と呼ばれる少女は空を飛んでいた。
【笑えないし 笑いたくもない】
少女は唄う。出発の前に、少し様子のおかしい霧崎のおじさんにジュースももらい、それを飲んでから頭が少しだけふわふわする感じがしているのだが、そんなことは既に瑣末だ。
【泣き顔が見たければ 他の人に頼んだらいいのに】
何か嫌な事とか、見たくない物とか、そういうのがいっぱいいっぱいあった気もするが、今は全てがどうでもいい。
ふわふわする頭では何も考える事ができない。
【私は人形だけど 貴方の人形じゃないの】
おじさんが呼んでいる。作戦? なんだっけ。
ああ、あそこにマホウを撃てばいいんだね。
怖いモノをコロす、私のマホウ。
【糸のない私は ただの木偶よ放っておいて】
大好きな唄を歌いながら、私は。
【人形は大事に仕舞って置いてくださいな】
マホウを、使ったのでした。