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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』
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公園の歌姫 その4

 ツカサが霧崎から“気功”習得の為の訓練を受けるようになってから5日。襲撃予定日の2日前である。

 この日もツカサは霧崎に気を送ってもらいながら、自身の内側に眠っているはずの秘めたる力を目覚めさせようとしているのだが……。

 「……ツカサ、言っちゃ悪いんだが、その……な?」

 「才能ないなって言いたいんだろ。そんなの3日目に首を捻られた時点で分かってるんだよ……」

 その訓練は二人の想像以上に難航していた。

 ツカサは重度の特撮オタクだが、同時にアニメも齧ればゲームも齧る、いわゆる広く浅くのにわかオタクの側面もある。それ故に自身の中のイメージ通りに行えばきっと上手くいくと信じていたのだが、現実はなんとも残酷なのであった。


 「おかしいな……。ウチの奴らでも4日目には鱗片くらいは掴んでいたはずなんだが」

 霧崎は酷く不思議なものを見たような目でツカサを眺めている。ぶん殴って痛さと怖さを教えたのは初日だけで、他の日にちは全てツカサの体内へ気を送り込み能力を発芽させる事だけを目標としていた。それなのに成果が出ていないというのは、霧崎にとっても予想もできないような出来事だったのだろう。

 「そうは言われてもなぁ。送られてきた気の熱は感じるし、それが馴染む感覚もある。だけども、それが自分の奥底から湧いてくるような感覚は一切しない」


 ツカサの持つ“気功”のイメージというのは、ジャ〇プで例えるならNA〇UTOのチャクラであったり、HU〇TER×HUN〇ERの念のようなものだった。どちらも体内から湧き上がる力を自身の能力として使役し、武器として扱うものだ。霧崎にその話をしても、間違ってはいないという話だったのだが。

 「今日もそれなりの量の気を撃ち込んでいるし、俺の経験上なら、ここまでやれば勝手に溢れ出して気絶するもんなんだがなぁ……?」

 「おい、それはそれで聞き捨てならんのだが?」

 まあまあ落ち着けと、霧崎が手振りで示す。

 そもそもそこまでやっても一向に“気功”パワーに目覚めないツカサにも問題があるので、怒るに怒れないというのもあるのだが。


 「……これは、考えたって無理なもんは無理だな」

 もはや霧崎は諦めムード。ツカサとしても、気を送ってもらう片手間に使い方や一人でもできる鍛錬方法等を聞けたので、昼飯を奢る対価としては十分ではないかと思っている。

 「……仕方がない、か。扱えれば今以上に強くなれただろうになぁ」

 身体に害のないパワーアップなんて夢のような技法なのだ。相性というものもあるだろうし、一人でも鍛錬を続けていればいずれ出来るようになるかもしれない。

 諦めたわけではないが、裏技がダメなら正攻法で覚えるしかないというだけだ。どれだけ長い道のりになるかも分からないが、鍛錬を怠らなければいずれたどり着くものなのだろう。


 「まぁ、習得には至らなかったけど勉強にはなったよ。数日の間だったが、ありがとうな」

 二人分の昼飯を奢るだけで、これから敵対する(霧崎は知らないが)相手に手の内を明かしてくれたのだ。残念な事は確かだが、今は前向きに捉えるしかない。

 「なんか、タダで飯を奢ってもらったようで少し悪い気もするな。まぁいつかはたどり着くだろう物へと少しは近道できたかもと思って、納得してくれや」

 背中に金獅子を背負う漢が申し訳なさそうにしている時点で、ツカサとしてはなんとなく得をした気分になっているのだが、それを言ったら呆れられそうなので自重する。


 「いつかは習得して、アンタの領域まで辿り着いてやるさ。そしたら今度は、お祝いに飯でも奢ってくれよ」

 「フッ……覚えていられる内であればな」

 二人はお互いに小さく笑い、軽く拳を突き合わせた。

 この訓練を辞めてしまえば、ツカサ(ハク)と霧崎の接点はここでおしまいだ。その後に出会うのであれば、黒雷という別人()としてのみだろう。

 一般人と極道の者とでは、文字通り住む世界が違う。ヒーローだろうが、カタギとして通る世界なのだ。

 お互いにそれを分かっていて、だからこそ意味のないだろう約束を交わす。

 今やSNS等で気軽に連絡をとれる環境だろうと、男の面倒くささはいつの世も同じなのだ。


 「それじゃ、名残惜しいだろうがこれで訓練は終わりだ。……もしも借金で首が回らなくなったらこの名刺の番号に連絡するといい。それなりに善処してやる」

 「……言いたくは無かったが、今生の別れみたいな状況でその言い草はどうなんだ?」

 「一端のヤクザが一般人にしてやれる事なんてタカがしれてんだよ」

 そんな問答を幾つかした後、ようやくツカサは公園を離れた。

 離れ際にチラリと背後を伺えば、椎名はようやく気楽になったとでも言いたげに池の畔で喉の調子を確かめているし、霧崎はその様子を見ながら離れた所で煙草を吹かしている。

 二人にしてみれば、ツカサなんて昼飯を奢ってくれる体のいいカモだったのかもしれない、なんて考えがフと浮かんだ。

 別れを惜しまれたいなんて気持ちはないが、さっぱりし過ぎなのもどうかと思うのだ。


 「ツカサったら、情でも移ったの?」

 こちらもようやく顔が出せると、いつもよりもニヤニヤ顔三割増くらいでヴォルトが絡んでくる。

 「構ってやれなくて悪かったって。貴重な情報収集の機会だったんだ」

 「その言い草、私がめんどくさい女みたいに聞こえるからやめて貰えるかしら?やめないと夜な夜な全身を痙攣させるわ」

 「あ、ごめんなさいホントすいませんでした。あれはもう二度と経験したくないです……」

 霧崎達に体良く利用されていようが、こちらはこちらで普段通り、ヘンテココンビとして霧崎達への対策を進めるだけだ。

 泣いても笑っても、勝負の時は迫ってきているのである。

 「─────……♪」

 ツカサ達の去った公園では、しばらくの間、この世の物とは思えないほど素晴らしい歌声が響いていたという。


 結局戦力としてはほとんど測ることの出来なかった椎名は、一体どれほどの力を秘めているのか。

 はたして、霧崎の一連の行動の意図とは。

 ツカサ達は彼らを無事に撃退する事ができるのか?

 「……結局、あの椎名って子に近づけなかったから、爆弾の解析ができなかったじゃないの」

 「あ……」

 

 ……はたして、無事にハッピーエンドを迎えられるのか!?

 

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