初戦敗退 その3
作戦そのものさえ決まってしまえば後は早いもので、フォーメーションの確認やら必要な情報の共有やらをこなしているとあっという間に夕方になってしまう。
今回はヒーローとの戦闘自体が目的となっているため、隠れてコソコソと動く必要がないのが楽といえば楽なのかもしれない。黒タイツを着て、目立つところを歩いてさえいれば、簡単に遭遇できる。
「見つけたぞ、ダークエルダーの手先!」
そらきた。
そして、我らの町でしつこく作戦の邪魔をしてくるヒーローとは──
「熱き心は焔の如く!並み居る悪をぶっ飛ばす!
猛き炎の戦士!ブレイヴ・サラマンダー!」
「心の水鏡は刃と成りて。写る悪を切払う。
静かなる水の戦士。ブレイヴ・ウンディーネ」
公衆の面前で声高々に名乗りを上げ、我らの行く手を阻むはふたりの戦士。
一人は赤色を基調としたバトルスーツのようなモノを纏う、真紅の髪を靡かせる長身の女性の大槍使い。
一人は青色を基調としたバトルドレスのようなモノを纏う、淡い青の髪を結った小柄な女性の刀使い。
「「尽きぬ勇気は希望の光!」」
「「精霊戦士!ブレイヴ・エレメンツ!!」」
背後で色つきの爆発が起きていないのが残念なほど華麗に名乗りを決めた彼女ら。そう、この二人組こそが、我らダークエルダーに逆らう敵対者にして、民衆のヒーロー。精霊の力をその身に宿し、炎と水を操る無双の戦士。
「現れたな、ブレイヴ・エレメンツ!今日こそはこの、たこ焼き怪人ホッタッコ様が返り討ちにしてくれるわ!」
対抗するように勇ましく吼えるのは、カシワギ博士の制作した怪人スーツに身を包んだカゲトラ。
たこ焼きをモチーフに、アツアツ焼きたてのたこ焼きを相手の口の中に放り込む様をコンセプトとして作られたそのスーツは、我らの組織の中ではあまりのえげつなさに恐れおののく者が続出したという、ある意味禁断の兵器なのだが……。
「ハッ!たこ焼きがエラソーに!爪楊枝で刺して食ってやろうか!」
そのえげつなさを知ってか知らずか、わざわざたこ焼きを食べるジェスチャー付きで挑発するサラマンダー。カゲトラ……怪人ホッタッコも、その勇ましさが好ましいらしく、一人でサラマンダーを目掛けて突撃していった。
「我々もホッタッコに続くぞ!ウンディーネに集中攻撃だ!」
「「「了解!」」」
戦闘員用の黒タイツは非常に防御力に優れ、着ていて違和感を感じないように設計されている。しかし、防御力に機能を全振りしたせいか、それ以外に何一つ特徴がない。つまり黒タイツを着た戦闘員の武器は、己の身体能力と手に持ったサーベル型のスタンロッド(つまり痺れるだけの模造刀のようなもの)、後は個々に特徴を出せるようにと持たされているアイテムのみである。つまりは……
「喰らえ閃光だぎゃあああ!」
「おっと残念チェーンバインぎゃあああ!」
「受けなさい!ファイアーボーきゃあああ!」
「いつも通り、歯応えが無さすぎますね」
「せ、先輩方ぁぁぁ!」
精霊の力により基礎能力全てが強化されているブレイヴ・エレメンツ相手に、素人同然の能力しか持たない人間が挑んだとしても、ひとひねりで倒されるのが必然的であって。
「さあ、後は貴方だけですよ?」
ツカサが数秒立ち止まっていた間に、他の黒タイツ達は全てウンディーネによって斬り倒されていた。
「……ははっ、これがヒーローか。全くもって出鱈目だねぇ……」
それでもツカサは、手に持ったスタンロッドを構える。負けると分かっていても、せめて一太刀。まだまだ今の実力では敵わないと知りつつも、悪の組織として、正義に抗うのだけは止めてはならない。
「今に見ていろブレイヴ・エレメンツ。いつか我々は絶対に勝つ!」
「……そういう台詞はせめて斬られてから言うものでは?」
「結果はもう見えているんでねェ!」
そう言ってツカサは突撃し、案の定成す術もなく一撃をもらい、地面に倒れ伏したのだった。