傭兵業務と思わぬ再会 その4
偶然遭遇した霧崎 龍馬との戦闘中、ツカサは切札を使うべく、白狐剣をもうひとつの鞘から抜いた。
白狐剣の一段階目の鞘は、白としての鎧を生成するもの。
二段階目の鞘は、非殺傷武器としての、『斬った際に火花が散るだけの直剣型スタンロッド』。
そしてその鞘を引き抜けば……。
「白狐剣・真打」
それは、刀身が黒く濁った色をしたカタナであった。
純白の鎧に不釣り合いな見た目をしたそれは、それでも妙な光沢を放ちながら敵対者を威圧する。
霧崎は毛ほども圧されはしなかったが。
「へぇ。俺が全然痺れないからって、今度は腕でも切り落とすつもりになったのか」
舐められたもんだな、と霧崎は笑う。
「確かに俺だって、人を殺す気で作られた刃物や銃弾相手にゃ傷だって負う。だがな、それは長期戦を見越した時だけだ。力をセーブしてなきゃあ、ただの刃物じゃ俺に傷一つつけられねぇ」
例えそれがヒーロー相手でもな、と言い放つと同時、霧崎から感じる圧のようなものが更に膨れ上がった。
ハクの目には見えないが、きっとそのセーブしていたチカラというものを解放したのだろう。
お遊び半分だったのが本気になったとも言える。
「さぁ、いつでも斬りかかってこいよ」
霧崎が挑発するように、指だけでハクを招く。
ハクもまたカタナを上段に構え、躙り寄るようにすり足を重ねる。
まさに一触即発。互いが間合いに入った瞬間、先程よりも激しい戦闘が繰り広げられるだろう。
しかし。
「すっげー!ヒーローが戦ってるー!」
「え、ホント? わっ、白いよろいだ!かっけぇ!」
突然割って入った子供の声に、二人は瞬時に顔を見合わせ(片方は仮面だが)、ほぼ同時に構えを解いたのだった。
◇
「兄ちゃん達、もうおしまいかよー? あれだろ、兄ちゃんの方は、だーく……なんちゃらってのなんだろー?」
「こうきくん、もう忘れたのかよー。ダークエルダーだってこの前も話したじゃーん」
「はっはっはっ!残念ながら俺はそのダークエルダーじゃねぇんだなぁこれが」
霧崎とハクは現在、数人の子供達に囲まれていた。
平日の昼間とはいえ、ここは公園。立ち入り禁止もしていなければ、目撃者が通報したりもしていないのである。
つまりは、子供達が放課後とかに遊びに来てもなんらおかしくはない。
デブリヘイム事変の影響か、ダークエルダーによる働き方革命のおかげか、子供達の下校時間も変わってきているようである。
「で、お前はいつまでそのごついのを着込んでるんだ?」
「なに、子供受けがいいから着ているだけだ。他意はないよ」
「そうかよ」
子供達に囲まれて霧崎はすっかり殺る気を失い、ハクも無理をして仕留めようとは思っていない。
一時休戦。アイコンタクトでそうなったのだ。
「ダークエルダーじゃないなら、なんで戦ってたんだー?」
「おう、喧嘩だ喧嘩。どっちが強えかってな」
「ケンカはよくないって、先生言ってたよー?」
「おう、先生が正しいぞ。お前達は喧嘩なんかする大人になんなよ?」
はーい!なんて、子供達の声が合唱したりして。
その返事に、とてもヤのつく職業の元総長だなんて思えない笑みを浮かべる霧崎。
「……子供、好きなのか?」
どうにも会話に入って行きづらいハクは、順番に子供達の頭を乱暴に撫で回している霧崎へと問い掛ける。
ハクの周辺にも子供がいるのだが、鎧の端を触って手を切る可能性もある為に、抱き上げてあげたりビルの3階位の高さまで飛んであげたりオリンピック選手が体感するような高速移動の世界を覗かせてあげたりとかその辺りまでしかしてあげる事ができない。
「……ああ。子供は無邪気だ。大人の悪意を知らないから、接したように返してくれる」
「そうか。……娘さんも大層可愛がっているんだろうな」
お互い既に敵意もなく、毒気もない。
ハク……ツカサとしては、敵対すると分かっているのに、これまでの様子を見せられたら、どうにも気が抜けるようで。
「……ああ、椎名の話か」
椎名というのが、娘さんの事だろうか。その娘の話を出した瞬間、霧崎の表情が一瞬だけ変わったのは見逃せなかった。
「ほら、ボウズ共。俺はこれからこの白い兄ちゃんと話がある。他のとこで遊んできな」
「えー、またケンカするんだろー?」
「もうしねぇよ。ほら、散った散った!」
「はーい!またねー!」
名残惜しそうな子供達に向けて、軽く手を振って見送る霧崎。
聞き分けの良い子供達はすぐに散っていき、それぞれ遊び始めた。
「……椎名を放ったらかしにしちまった。迎えに行きがてら、ちょっとだけ話をしてやるよ」
◇
霧崎と変身を解いたツカサは、適度に間合いを空けながら歩いていた。
「というか、俺が一緒でいいのか?ナンパ男だと勘違いしたから襲ってきたんだろうに」
「ああ、それな。お前みたいに強えヤツがわざわざ相手を脅すようなマネしないだろうなって納得したから、もういいんだわ」
「あっそ。変なヤツだな」
勝手に勘違いして勝手に襲いかかっておいて、今度は勝手に納得して襲うのをやめるという。
普通ならツカサがキレてもいい案件だが、相手の手の内を早い段階で見れたのは僥倖であるとして矛を収める気でいた。
それに、娘さんの話を出した時の霧崎の表情が、なんとなく気になってしまっているのも事実。
「……あの子はな、ホントは娘じゃねぇんだ」
「……なに?」
今明かされる、衝撃の展開がッ!
……いや、多分親戚の子供だとか、義理の娘だとか、孤児を引き取ったとか、そういう話だろう。オタクはそういうパターンに慣れているんだ。
「あの子はウチの組の……ああ、言い忘れていたが俺ァ他所の町の極道の一員でな? ……んで、あの子は対デブリヘイム用に調達されて、今も無理矢理戦う事を強いられている、そんな娘なんだ」
……思ってた以上に重かったです。