傭兵業務と思わぬ再会 その3
ナンパ男共を追い払った後、立ち止まってしまった少女を謎の影からかばうつもりでいたツカサ。
しかしその影の正体は、ダークエルダーを雇った総会の天敵である霧崎 龍馬であり、その霧崎はなんと、少女の事を自身の娘だと言い放った。
「くっそ……なんだこの状況……!」
未だ混乱する状況の中、それでもツカサは警棒を盾のように構えるのをやめない。やめられない。
何故ならば、黒雷へと変身していたツカサとも生身で互角に渡り合った超人、霧崎の闘気が収まるどころか更に昂っているようにも見えるからで。
そしてその闘気に混じって強い殺意も混ざっているように感じるからで。
「ウチの娘をナンパしようとは、目の付け所だけは褒めてやる。だから潔く死ねや」
……既に殺す気でありました。
いい笑顔を浮かべた霧崎は、ツカサを抹殺しようと歩み寄ってくる。現在は無手のようだが、ヒーロー級の戦闘力を持つ超人を相手に生身で挑もうなんて愚行はおかせない。
かといって逃げようとすれば、今のツカサではすぐに追いつかれて一撃の下に葬られるであろう。
しかし敵の目の前で黒雷に変身するのは美学に反する。
ならば。
「白狐剣装!」
ツカサが行使できる、もうひとつのチカラ。
ダークヒーローとしての、白の姿。
「ほう、見た感じダークエルダーとも違うのか。テメェは何者だ?」
「……何者かは関係ないだろ。今はとりあえず白と名乗っている、ただのはぐれ者だ」
ハクは白い直剣を軽く振るい、鎧の調子を確かめるべく小さな動きでストレッチを繰り返す。
まさかこんな時に霧崎というヒーロー級の戦力と戦闘になるとは思っていなかった為に、少し前におっさんズを蹴散らした時の戦闘データのフィードバックはまだされていない。
全力機動もテスト以外では行った事がない為、実戦での耐久性などはまだまだ未知数だ。
正直に言おう。この状態で霧崎と戦闘に入るのは、めちゃくちゃ不安である。
「ま、なるようになるしかないか……」
正体バレ覚悟で黒雷になっていればと少々後悔しながらも、時すでに遅し。
「準備はいいか、ナンパ男」
「……一応言い訳しておくが、俺はナンパからその子を守った側だからな?」
ジリジリと、間合いを測りつつ二人は少女から離れる。
「そんな言い訳はどうでもいい。俺の拳を受けて無事だったってだけで、もう一回殴る権利が俺にはある」
「横暴だろ……」
方や、仮面の下に冷や汗を伝い。方や、満面の笑み。
「文句があるなら、俺が飽きるまで殴ってから言ってくれや」
「ふざけんな。返り討ちにしてやる」
少女から十分に離れた後、両者は直剣と拳とを相手目掛けて振り上げた。
◇
「オラッ!オラッ!!ダルァッ!!」
「コナ!クソ!刃の部分をコブシで受けるとか頭おかしいのかお前!?」
剣と拳の殴り合いを始めてから十数合。
両者は公園の中を縦横無尽に駆けながら、互いに仕掛けては防いでを繰り返し続けている。
リーチに関してはハクに分があり、攻撃の速度に関しては霧崎に分がある。
本来ハクはヒットアンドアウェイを繰り返していればいいはずなのだが、直剣の攻撃を全て素手で弾かれ、隙をついては懐に潜り込もうとする霧崎の戦闘スタイルのせいで攻めきれていない。
拳と打ち合う度に電流を食らわせているのだが、今のところ効いている様子もなし。
「さっきから痺れるんだよオラァ!」
「痺れるで済む方がおかしいんだよてめぇは!?」
黒雷で相対した時に感じた、電撃が効かないだろうという直感。それを今まさに体感している。
理屈は分からないが、電流を流す度にそれが霧崎の体表の上を滑り、後方へと流れていくのだ。
このままではハクの持つ白狐剣、“切った時に火花が散るだけの直剣型スタンロッド”だと、全く有効打が与えられないという事になる。
「万事休すねぇ」
「……呑気だなヴォルト。お前さんのチカラも通じないかもって思わないのか?」
ハクは一度大きく距離を取り、体制を整えがてらヴォルトと小声で会話をする。
ヒーローへの変身も、相応の小道具も持たずに黒雷と打ち合える時点で相当ヤベー奴だとは思っていたが、まさかここまで手強いとは思わなかった。
「あんなもの、“気功”か何かで受け流しているだけよ。私が殺す気で電流を浴びせれば問答無用で消し炭にできるでしょうけど、やりたくないでしょう?」
「……そりゃ、確かに」
精霊として全力で戦えば勝てるだろうが、殺してしまう可能性の方が高いと。
そもそもこれはツカサ/ハクとしての戦闘なので、ヴォルトに任せるというのも格好がつかないのだが。
しかし、あまり手札がないのも事実。
これが黒雷であればまだ打てる手もあるのだが、ハクとして変身してしまった以上、ここから黒雷へと変身する事はできない。
「はぁ……仕方ないな」
覚悟を決めたハクはため息をひとつ、片手で白狐剣の刃を掴んだ。
「お、なんだなんだ?」
霧崎は興味深そうに眺めているが、今のところは攻める気がないらしい。ハクが何をするのか気になっているのだろう。
「……できれば使いたくなかったんだ。これは対物用を想定されているし、ヒーロー相手ならともかく、対人で使う想定をしていないからな」
それでも、使わなければジリ貧のまま負けるか逃げるかの二択になるのは確実。
ならば。
「悪いが、拳で受けるつもりなら本気で受けろ。でないと骨の1、2本は覚悟してもらう」
そう言ってハクは、白狐剣をもうひとつの鞘から抜いた。
転勤で引越しましたが書き溜めを十分にしたのでしばらくは問題ないかと思います。