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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』
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傭兵業務と思わぬ再会 その1

 とある組織と契約し、条件付きでお抱え傭兵部隊となったツカサを含む黒タイツ戦闘部隊。

 彼らは契約を交わしたその日の内に身支度を済ませ、翌日には護衛としての態勢を整えていた。

 霧崎の言う期限まで後16日。

 その日に襲撃を掛けてくるのか、それとも油断しているであろう他の日にちに襲撃を掛けてくるのか。それはまだ判断のつかないところであるため、これからは襲撃があるその日まで付きっきりの護衛となる。

 こちらから逆に襲撃をかければ良いのではないか、という案も出たのだが、相手の組織の実状を調査する時間が欲しいと言われ、とりあえず保留。

 随分と汚い手口を使うようになったらしいので、組織としては慎重にならざるを得ないのだろう。


 閑話休題。

 今のツカサ達は傭兵としてヤのつく組織の下に就いてはいるが、本部をガチガチに固めたところで後手に回るのは目に見えている。

 また、護衛の対象には総会に所属する全ての組が含まれるため、残念ながらその全てに戦闘員を配置する余裕はない。

 「だから街全ての監視カメラの掌握と、少数精鋭でのパトロールを、ってのは分かるんだけどなぁ……」

 そうボヤくツカサは現在、一人(と一体)で自動車に乗り街全体を走り回っていた。

 大規模な襲撃があるならそれらしい動きが必ずあるはずだし、そうでなくとも地形を覚える意味でパトロールというものは必要になる。その理屈は分かるのだが……。


 「黒雷ならヒーローとも対等に渡り合えるから一人でいいだろってなんだよ。勝手にしてていいとは言われてるけど、運転しているだけってのも暇なんだぞ、っと」

 平日の昼間から街中を自動車でブラブラしているだけというのは、暇以前に虚しい。

 仕事なのは理解しているが、気を張る必要がないとなると途端にドライブという名の暇つぶし、みたいな気がしてきて、とても辛い。これを後16日間……場合によってはそれ以上続けねばならないとなると、初日から気が滅入ってくる。


 「いいじゃない。休憩も自由、給金も出る、ご飯は後から経費で落ちる。それに何日も私と2人っきりでドライブできるなんて、これ以上の仕事があるの?」

 「……ヴォルト、あなたその人形を使うようになってからテンション上がったね?」

 「自覚しているわ。今までは外に出るのなんてヴォルト・ギアに収まっている時にしかできなかったもの。人形(これ)に収まることで得る自由と、これを脱いだ精霊体での自由はまた別物なのよ」

 自動車の助手席には、一体の人形が鎮座して……いや、いない。彼女は平気で浮く事が可能なため、その小さな頭をぴょこんと出し、外を流れる景色に見入っている。


 「楽しいか?」

 「面白いわ。街中をこの速さで走れるのもそうだけれど、電力(わたし)が至る所にいて、生活の中心となっているという、この時代が」

 そういう彼女が何を思っているのかなんて、ツカサには分かりっこない。分かるのは、精霊として生まれた彼女はツカサの何倍もの時を過ごし、その分だけ人の営みというモノを見てきたという事実のみ。

 それをどう思っているのかなんて、人と精霊という存在も価値観も違う者同士では、決して同じ感想にはならないのだろう。

 「……昼飯、何がいい?」

 「そうね……お蕎麦がいいわ。今調べたら、この近くに美味しい蕎麦屋があるらしいの。案内するわね」

 「即座にネットから情報を仕入れてくるとか、電波まで支配できる御方は凄いですなぁ」


 ただ、味覚を得た彼女と同じ飯を食べれば、その感想くらいは同じ物になるんじゃないかと、そんな事を考えながら。

 ツカサは肩にぶら下がるように飛び乗ってきた彼女の声を聞きながら、見回りついでの昼飯を取りに蕎麦屋へと向かったのだった。



 ◇



 「毎度ありがとうございましたーっ」

 「……まさか、人形に蕎麦を食わせる変人になる覚悟をしていたら、人型になるだなんて……」

 「そこまで迷惑をかけられないわよ。それにあくまでも見た目だけ。ずっと鉱石を流動させながら、人と同じように見せるのは骨が折れるの。ないけど。だから外でご飯を食べる時くらいしかしたくないわ」

 美味しいと噂の蕎麦屋から暖簾をくぐり出てきたツカサ。その後ろには、長身ですらっとしたスーツ姿の美人さんがいた。

 ヴォルトである。

 彼女は人形の大部分を分解し、人間の見た目だけを取り繕う事により、味覚等の器官を維持したまま人間社会の中でもバレずにご飯を食べる手段を身に付けていた。

 見た目だけなら冴えない男とキャリアウーマンのデートである。見た目だけなら。


 それも、自動車の中に戻ってしまえば瞬時にまた人形姿へと戻ってしまう。ツカサは別に気にしてはいないが、見る人から見れば軽くホラーな光景だろう。

 「ちょっと休憩がてらそこの公園に行ってもいいか?」

 「いいわよ。その間ギアの中にいるから」

 「あいよー」

 同居している事もあって、二人の仲は気安い。

 まぁお互いに同族の中でも変人に近い分類であるから、他の人と精霊が同じように過ごせるかと言われれば分からないのだが。

 そうこう言ってる内に車は駐車場へと辿り着き、ツカサは車を降りて大きく伸びをする。

 決して長時間運転というワケでもないのだが、これは気分の問題。


 「さてさて、ではのんびりと散歩して……」

 ギアに籠ったヴォルトに話しかけるつもりで独り言を呟きつつ、ツカサはゆっくりと公園へと足を踏み入れる。そこで……

 「ねぇ、君可愛いね。これから俺たちとお茶でもどう?」

 なんか前にも見かけたようなナンパ男達を見つけてしまった。

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