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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』
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背中に金獅子を背負う漢 その2

キリが悪くて長くなりました。

 霧崎 龍馬(きりさき りょうま)と名乗った巨漢と黒雷は、御屋敷の玄関前広場で拳を交えていた。

 「「オォォォォッ!」」

 霧崎は実戦で磨いた喧嘩殺法を使い、対する黒雷は睡眠学習で少しずつ覚えたなんちゃって拳法を使う。

 拳が交わり、蹴りは避けるか出を潰し合い、四肢を伸ばそうものなら関節を取りにいく。

 足さばきは絶えず。音は止まず。互いに加減なぞ考えもしない。


 「はっ……!」

 「ははははッ!」

 けれども互いに口元には笑みを浮かべる。

 楽しい。

 二人は何故かその言葉が頭を離れない。

 「本当に残念だ黒雷!違う出逢い方をしていれば、きっともっと面白かっただろうに!」

 「同感だな!今からでもウチに来ないか!?」

 「悪いが断る!」

 「知ってた!聞いてみただけだ!!」

 互いに口は減らず、手数は増える一方。

 まるで対戦ゲームにでも興じているような、真剣ながらもどこか勝敗以外に心が向いているような、そんな感覚を共有しているようで。


 互いにその感覚を言葉にできず、ただただ目の前の相手を打ちのめす為にのみ注力する。

 (しかし、こいつホントに生身か……?)

 黒雷の装甲は、ヒーローとの戦闘にも耐えうる強度と柔軟性を持つ。それに強化した身体能力を加えれば、ただのパンチでコンクリの壁を破壊する事も容易なのだが。

 この相手は生身でその攻撃を耐え、同質の攻撃すら返してくる。

 まさにヒーロー級。外部の力を借りずにここまでの身体能力に至るには、どれほどの鍛錬を積んだのであろうか。


 聞いてみたい。話がしたい。つくづく今敵対している事を残念に思う。それでも。

 「退くわけにはいかないのが、お互い難儀だな!」

 黒雷はただ拳を振るう。ヴォルトの力は使わない。別に卑怯だからとか、そんな考えもないわけではないが。この漢には何故か、電撃を使っても効かないような気がしているのだ。

 「……悪いが、こちらは退く事はできるんだ。もっと続けたいのは山々なんだが、な!」

 霧崎はそう言うと、黒雷へ向け渾身の右ストレートを放つ。黒雷は咄嗟の判断で腕を交差にガードしたが、その衝撃で数メートルは後方へと押し飛ばされ、初めて二人の間に距離が開いた。


 「ここの総長にこう伝えておいてくれ。『俺達の傘下に入らなければ、20日後にまた襲撃をかける。その時にこそあんた達の最後だ』ってな。オイ、帰るぞ!」

 霧崎はそう言うないなや、すぐ様負傷者を拾い上げ撤収作業に取り掛かる。黒雷としてはこれ以上追撃する指示は受けておらず、自身の判断で状況を変えるリスクを負いたくはないため、自然と玄関前を陣取り見送る形となる。

 「あんた達ダークエルダーが、なんでここの組に手を貸してるかは知らねぇが。邪魔するようなら一緒に叩き潰す事になる。……あんまり抵抗してくれるなよ」

 霧崎はそれだけ言うと、黒服を引連れさっさと撤退してしまった。

 どうしてここで退く判断をしたのか、襲撃の目的はなんだったのか。不明な点はいくらでもあるのだが、今すぐに判断できるような情報もない。

 「まぁ、なるようになるしかないわな」

 黒雷はそこで思考を放棄し、他の黒タイツ部隊と共に強面おっさん達の介抱へと行動を移すのであった。



 ◇



 「……そう、ですか。あの霧崎がそんな事を……」

 襲撃のあった日から三日後。

 黒雷達はまた、交渉役のメジャー・スミスを連れて総会の御屋敷へとやってきていた。

 昨日は総長と副長がダークエルダー側に行先も告げず連れ立って逃げ出し、負傷者は全て病院へと放り込まれた為に、話ができる体制が整うまで待っていたという形である。

 「私は見ておりませんが、その襲撃してきた者達を知っているので?」

 「ええ。この間話した抗争中の組織。そこの主戦力といいますか。その拳だけで総長に登りつめた、その次の月には総長を降りて、小さな事務所で気ままな組長をやっている、なんていうよく分からない男でして……」

 メジャーの質問の答えはイマイチ要領を得ないものだったが、つまりは組織のトップになったにも関わらずまた構成員に戻った変わり者、という事だろうか。

 前線に出ないと落ち着かないバトルジャンキーとか、そういう風にも見えなかったが。まぁ今はどうでもいい事だろう。


 「問題は貴方達の今後の行動ですね。現状を見るに、貴方達に我々の戦闘服を提供したとしても、その霧崎という男にかかれば鎧袖一触でしょう」

 と遠慮なく宣うメジャー。確かにこの前の襲撃では、霧崎一人相手にこの組織の強面おっさんはほぼ全滅していた。もし仮に全員分の黒タイツを用意したとしても、ヒーロー級の火力の前では動けなくなるまで殴られるだけで終わる。多勢で囲み役職を逃がす、時間稼ぎくらいしかできないのだ。

 「しかし……我々はどうしても、奴らの傘下に入るワケにはいかないのです。あそこの総長が変わってから、奴らのやり方は目に余る……」

 「ほう。……それは、霧崎の次の総長という事で?」

 「いいえ。霧崎は三代目総長で、今は五代目が全てを取り仕切っています」


 副長はため息混じりに、抗争相手の組について話してくれた。

 霧崎が総長を降りた後、彼は自分の見込んだ男を後継に置いたという。その頃は今のような横暴な行為は控えられていたのだが、デブリヘイムの出現が各地で騒がれ始めた頃、ちょうど時を同じくしてその四代目の総長が何者かに襲撃され、意識不明の重体となったそうな。

 「そのゴタゴタの中で、当時一番権力と財力を持っていた男が反対派を押し切り、五代目総長となったのです」

 男の名は春日井(かすがい) 夜一郎(よいちろう)忠文(ただふみ)。齢八十を超える老体でありながら、その歳になっても野心を捨てきれなかった怪物。


 その男が総長となった後、主だった役職は全て彼の駒に取って代わられ、表立った反対派や改革時に抵抗した者は、後日に姿を消したか家族を人質に取られ無理矢理従わされているかのどちらかだと副長は言う。

 「唯一彼の者に対抗できるのが三代目である霧崎だと思っていたのですが、どうやらすでに……」

 懐柔されたか、人質を取られたか。現状素直に手下として働いている以上、自浄作用としての働きには期待できないという事だ。


 「であれば、どうでしょう。我々を“雇ってみる”というのは?」

 メジャーはこれこそが本題だと、事前に黒雷へと語っていた。

 「アナタ方ダークエルダーを、雇う……?」

 「ええ。我々を貴方の総会の戦力として正式に雇うのです。報告にあったと思いますが、ここにいる黒雷は霧崎とも互角の戦闘を行う事ができます。それに非売品である怪人スーツを着た戦闘員を加える事ができますから、戦力としては十分かと」

 ダークエルダーの戦力貸与。これは抗争に巻き込まれた後、カシワギ博士が幹部会で報告した際に決まった事だ。

 別に資金繰りが厳しいワケではないが、稼げる時に稼ぐのが一番。そして潰れて欲しくない組織を保護し、潰したい組織の戦力を削ぐ。

 一石三鳥を狙う、ダークエルダーの新たな傭兵事業である。


 「即決してくれとは言いません。幸いながらまだ数日ですが時間はあります。他の役員方と話し合われるといいでしょう」

 メジャーはそれだけ言うと仔細をまとめた資料を渡し、さっさと撤収準備に移る。

 言いたい事は言い切った。後は好きにしろ、という事だろうか。

 その辺の駆け引きはあまりよく分からない黒雷に口を挟む余地はない。

 「……待ってくれ」

 メジャーが席を立とうとしたその時、ずっと沈黙を保っていた総長が口を開いた。

 「君達の話しに乗ろう」

 「……役員と話し合わずに、よろしいので?」

 「構わん。どの道このままでは我らに未来はない。ハナから乗るしかあるまいよ」


 総長は深い深い溜息をついて、じろりと黒雷達を睨む。

 「だが、雇う以上はそれ相応の働きをしてもらう。妥協は許さん。二度と奴らが我らに手を出さないと誓うまで、契約は続けてもらう。もちろん売買の契約とは別として金は出そう。問題あるまいな?」

 「もちろんですとも。ではこちらの契約書にサインを……」

 あれよあれよと言っている間にすんなり契約が決まり、黒雷以下数隊の戦闘員が傭兵として雇われる事となった。

 これより、ダークエルダーは正式に霧崎達と相対する事となるのだ。

 その結末がどう転ぶのか、果たして介入して正解だったのか。

 今は誰にも、分からない。

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