背中に金獅子を背負う漢 その1
明けましておめでとうございます。
今年もまた、この作品をよろしくお願いします。
あと、大晦日に一度投稿しておりますので、まだの方はそちらから読んでくださいましね。
ダークエルダーが交渉に訪れていた大きな御屋敷。そこはとある総会の本部でもあるのだが、今はそこが戦場へと変わろうとしていた。
「急げ奴らだ!正門前で食い止めろ!」
「アイツも来てるって話だ!幹部が逃げるまで時間を稼げ!」
黒服が廊下を慌ただしく駆けていく中、総長と副長も慌ただしく身支度を整えていく。
「すまないが本日はこれまでのようだ。近々こちらから連絡をとらせるので、貴方達も早く逃げてくれ」
「穏やかではないですね。例の抗争中の相手が?」
「そうだ。……今の我々では、この本部ですら手の打ちようがない」
「ふむ。……黒雷」
メジャーが背後に控えていた黒雷に声を掛けてくる。予想はついているが、護衛役としては指示があるまで動くわけにはいかない。
「なんでしょう?」
「大事な取引相手です。手伝ってあげてください」
「了解した」
黒雷の思った通り、護衛よりもデータ収集をメインに動けという指示だ。ヒーロー級の戦力を持つ組織の敵情視察と、今ここで恩を売るという一石二鳥狙いなのだろう。
「では、切迫しているようなのでここで失礼」
そう言って黒雷は部屋を出て、廊下を走る黒服の後ろについて走る。迷路のように入り組んだ建物は普段使いにはかなり不便だなと、呑気な事を考えながら走ることしばらく。
ようやく玄関が見えたのと、その玄関が外から開かれるのは同時であった。
「邪魔するぜ!!」
「邪魔するなら帰れキーック!!」
「ぶっべぇ!!?」
大量の強面おっさんが雪崩込みそうだったので、黒雷はとりあえず助走と広域シールドを足先につけた飛び蹴りをお見舞した。
突入後すぐに散開するつもりで固まっていたのだろう集団はまとめてシールドにぶち当たり、勢いのままその全てが外へと押し出される。
「おまけだ食らっとけ」
そして体制を整える前に電撃を満遍なく加えれば、一般人なら間違いなくダウンする。黒雷の一般人向け制圧コンボである。
その強面おっさん山の向こうに、黒雷の山よりも多く人を積み上げた山がある。
それはこの屋敷に入ってきた時に出迎えた黒服達であり、その全てが殴り飛ばされて気絶し、わずかな呻き声を上げるのが精一杯の者達であった。
「よう。アンタが大将……なわけねぇよなぁ」
──その黒服山の正面に、金獅子が居た。
否、それは人外の生物に非ず。
それは背に描かれた、その漢の掲げる魂の形。
「知ってるぜ。アンタ、ダークエルダーの黒雷ってヤツだろ?……ここで出くわすたぁ、難儀な話だが」
漢は振り向く。黒髪の角刈り、190cmは超えるであろう筋骨隆々の肉体。上着は脱ぎ捨てたのか、上半身は裸だが、鍛え抜かれたその身体はいっそ清々しい。
所々刃物キズが付いていて、血も流れているのだが、それを気にした様子もない。
正しく、漢。義理と任侠の世界で荒波に揉まれた、誰もが圧巻される程の強者オーラを漂わす傑物。
「俺は霧崎 龍馬。……悪いが、その先に行かなきゃならねぇんでな。どいてくれねぇか?」
漢はそう言って、拳を構えた。
「なんだ、退く気はないって分かってるじゃないか」
対して黒雷は愛用のトンファーを構えようとして、先程交渉の為に預けていた事を思い出す。仮面の下で渋い顔をすると、半身を前に出し拳を構えた。
「……別に、俺に合わせてくれなくていいんだぜ?アンタの得物は、確か……」
「気にするな。忘れ物をしただけだからな」
「そうか。案外気の抜けた人なんだな」
何故かお互いに、今のやり取りで毒気を抜かれてしまったようだ。漢は口端を少し上げ、黒雷もまた笑みを浮かべる(仮面の下で、だが)。
「黒雷、玄関は任せろ。その漢との戦闘に集中して構わん」
その声に振り向けば、共に来ていた黒タイツの戦闘員達が出入り口を固めている。ヒーロー級相手でなければ無類の強さを誇る部隊だ。雑魚相手では絶対に突破なぞさせないだろう。
「つまり、後はこの漢さえ止められればいいのだな?」
「やってみろ。俺も一度は、アンタと手合わせしたかったんだ」
両者は不敵に笑い、前へと踏みだす。
最初は互いに歩き、それが徐々に加速し、走りを超え、地を駆ける。
「うおぉぉ!」
「はあぁっ!」
両者の拳が交わり、衝撃波が周囲に走った。
それが戦闘開始のゴングだとでも言うかのように、両者は一度距離を取り、目の前の相手を倒すべく次の拳を構えるのだった。
章のイメージは〇が如く。
ただちゃんとヒロインは出すつもりの脳内プロットなので、今後をお楽しみに。