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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』
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悪の組織に暇はない その3

 ダークエルダー特製の全身黒タイツ、それの横流し品が発見された日より数日後。

 ツカサは捕らえたおっさんズの尋問に立ち会う為に、ダークエルダーの矯正施設へと訪れていた。

 「俺、初めてここに入りましたよ」

 「まぁ、戦闘員や技術職はここに用事はないからのう」

 ツカサとカシワギ博士は二人並んで、ジュースを片手に椅子へと腰掛けて尋問の開始を待っている。


 彼らが今いるのは、尋問部屋からマジックミラーを一枚隔てた隣の部屋。その見学者席と名札の付いた一部屋の中で、これから行われる残虐非道な行為を見物しようというのだ。

 本来ならツカサ達が来る予定ではなかったのだが、カシワギ博士がせっかくなら見てみるか、なんて軽い口調で言っていたらいつのまにか日程まで組まれていたのである。

 他の部署の仕事を見学するのも仕事の内、という事だろうか。多分そこまで考えていなくて、興味本位でうっかり言ってしまっただけのような気もするが。


 それはさておき、尋問部屋の中では、現在最初にツカサに噛み付いていた一番若い男がうつ伏せでベッドの上に固定されている。

 この数日の内に自身の状況を何となく把握したからかさっきからギャーギャーと喚き散らしていて、とてもうるさい。

 俺に手を出すと組の連中が黙っちゃいねぇぞだの、後でまとめてぶっ殺してやるだの、とにかく物騒な事ばかりを喚いているが、パンツ一丁でベッドに拘束されている状況なのでとてもシュールであった。


 「お待たせしました。準備が整ったので、これより尋問を開始します」

 見学者席でツカサ達のお世話をしてくれていた職員の人がそう言うと、尋問部屋の扉が開き、尋問官が姿を表す。

 それは、若くてスタイルバツグンのオネエ様……つまり“オカマ”であった。

 「ハァイ。アタシが貴方の尋問を担当する、コードネーム:シオンよ。よろしくね、坊や」

 「な、なんだその野太いのに妙な猫なで声は!?気色わぎゃあああああああああああああぁぁぁ!!」

 「あらあら、元気な坊やね。オネエさんヤル気でちゃうわ!」


 男は“気色悪い”と言おうとしたのだろうが、言い切る前にオネエ様……シオンの親指が男の身体のある一点を押した。それだけで男は絶叫を上げ、ベッドの上でビクンビクンと跳ねる事となったのだ。

 ──彼、いや彼女はコードネーム:シオン。

 ダークエルダー専属の尋問官であり、とある秘境で代々伝授されてきた特殊な拳法の使い手でもある。

 我が拳法の前にほぐれぬ筋肉なし、それが彼女のキャッチフレーズであり、信念でもある。


 「貴方、若さにかまけて鍛え方が温いわね?そんなんじゃこの先生きのこれないわよ?……いいわ、アタシがこの機会にたっぷりとほぐして、鍛えやすくしてア・ゲ・ル♡」

 「や……やめ………ろ……。尋問ぁ……どうじだ……!」

 「ヤダ、そんなのアタシが満足するまで揉みほぐしてからに決まってるじゃない?」

 「ぎゃあああああああああああああぁぁぁ……」

 その後、10分程悲鳴が続く。

 その目も当てられぬ凄惨な光景にツカサは恐怖し、カシワギ博士は研究意欲が唆られたという。

 屈強な男性同士(少なくとも見た目は)のくんずほぐれつの様はこれ以上描写はすまい……南無三。



 ◇



 「……さて、と。気が済むまで若いカラダを弄んだ事だし、アタシの出番はしゅーりょーっと。じゃあ後はシェフ、まっかせたわよー♡」

 シオンがそう言って退室すると、入れ替わるようにコック姿の女性が、大きなクロッシュ(洋食でよくみる銀の蓋)を乗せたカートを押して入室する。

 「……どうも。シェフのミオン、です……」

 ミオンは言葉少なに男の目の前へとカートを持ってくると、ぐったりとした男がカートに視線を向けるのを確認してからそのクロッシュを開ける。


 そこに乗せられていたのは、見るも鮮やかな肉料理。見た目の美しさもさる事ながら、育ち盛りの男の子ですら満足するであろうその量と、マジックミラー越しですら嗅ぎ取れそうな程の濃厚な香りを前に、男は身構える隙すらなく晒される事になる。

 「ぅぁ……あ……!」

 男は気付いてはいないが、シオンのマッサージには食欲増進の効果もあった。それは三日三晩飲まず食わずで過ごした後のような飢餓状態を思わせる程の強力なものだ。

 そんな状態の前に、豪勢な肉料理が置かれたら……。


 「たったのむ!それを食わせてくれ!何でも言うこと聞くから!」

 「ん?」

 「こらツカサくん。それはイカン」

 ツカサがカシワギ博士に窘められている間にも、男は拘束された手足を煩わしそうに暴れさせつつ、自身が涎を溢れさせていることも意に介さずに料理へと向けて首を伸ばそうと必死になっている。

 「ふふ、ふふふふ……どうしよう、かなぁ……」

 ミオンは、頬を高揚に染めながら男の荒ぶるサマを眺めている。

 その様相はさながら犬に待てを教えるご主人様。相手を教え育む事に悦びを見出す、プロの表情であったという。


 「こ、これが矯正施設の尋問官……」

 「正しく飴と鞭。しかも鞭には身体にとっての飴が仕組まれ、飴には精神的な鞭が備わっている、と。……恐ろしい場所じゃな……」

 その後、男は従順になり何でも言うことを聞くようになったし、他のおっさんズ達も同様の仕打ちを受け、陥落したという。


 ──ダークエルダー専用矯正施設。

 そこは、悪の組織ダークエルダーに歯向かう者が送り込まれる日本の闇。

 多種多様な、あらゆる手段で相手を“矯正”する恐ろしい場所なのだと、この日ツカサは心底理解させられたのであった……。

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