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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』
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悪の組織に暇はない その2

 白狐モチーフの鎧姿をした剣士、ハク。

 刀身から柄まで純白の直剣を持ち、表情の見えぬ白狐の仮面にて敵対するおっさんズを見廻す。

 それはデブリヘイム事変にて棚上げされていた、ダークヒーロープロジェクトの第一弾。

 ツカサの欲しがっていた、正義にも悪にも属さない、自由気ままな戦士の姿である。


 「どうした、拳銃もナイフも玩具ではないんだろう? 試しに使ってみたらいいじゃないか」

 初変身で性能を試したいハクはわざと挑発するが、おっさんズはジリジリと後ずさりするばかりで仕掛けてはこない。血の気の多そうな若手は先程斬り伏せてしまったので、残ったのはみんな、人を傷付けるのは平気だが傷付けられる事は遠慮したいタイプの人間ばかりなのだろう。

 「仕方ないなぁ」

 言うないなや、ハクは一番手近なおっさんに切りかかる。

 身体強化の乗った斬撃だ。生身の人間に避けられる一撃ではない。

 「ぎゃあああああああ!」

 案の定、防ぐ事すら出来ずにあっさりと火花を散らし倒れる。

 しかし相手の身体に切傷はない。火花による火傷ならあるが、斬られるよりはマシだろう。


 ──白狐剣。この剣は、人を斬る剣に非ず。

 特撮よろしく、斬った瞬間に火花を派手に撒き散らして相手を気絶させるだけの剣なのだ。

 火花が散るだけの、派手な直剣型スタンロッドと言った方がわかり易いだろうか。

 「ッ……ヤロォ!」

 逆上したおっさんの一人がハクに拳銃を向け数発撃ち込むが、ダークエルダー特製のヒーロースーツにそんな片手で撃てるような銃弾なぞ効きはしない。

 実験段階では至近距離のマグナム弾ですら耐えた装甲である。運良く関節部に当たったとしても、痛痒い程度で済んでしまう。ダークエルダー脅威のテクノロジーの産物である。


 「クソッタレが!効きやしねぇ!」

 「逃げるか!?」

 「アホ言え!たった一人に負けて逃げてきたなんて言ったら若頭にブッ殺されっちまう!」

  慌てふためくおっさんズ。ハクは別に絡まれたくて絡まれたわけではないので、ただ静観するのみ。

 逃げてくれるなら回収作業も楽になるなーとか、そんな楽観的な事を考えてもいたのだが。


 「……しゃあねぇ。()()を使うぞ」

 「い、いいんですかぃ?アレはなるべく顔が割れないように使えって……」

 「アホ。コイツシバいて海に沈めりゃ誰も見てねぇのと一緒だ」

 「おぉ、流石アニキ!」

 静観している内におっさんズの中で滅茶苦茶不穏な空気が漂い始めてきた。

 さすがにまずいかな逃げようかな、なんてハクが考えている間に、おっさんズは全員が不敵な笑みを浮かべて再度ハクを囲い込む。


 「ははは……後悔しろキツネ野郎!」

 アニキと呼ばれていた男が吠えると同時に、おっさんズ全員が自身の身に付けていたベルトへと手を伸ばす。

 唐突に全裸になってマイムマイムを踊りだすとか、そんな悪夢めいた事ではない。

 一見市販のベルトと同じように見えていたそれは、バックルの部分が特殊な機構を組み込んでいるようだ。

 そしてその機構を起動すれば、おっさんズは一瞬の内に黒々とした布のような物に覆われ、次の瞬間にはその姿を替えていた。


 全 身 黒 タ イ ツ へ と。


 「……なるほど。妙な自信はそれのおかげか」

 それはダークエルダーの統一規格とは若干模様の異なる、正規採用されなかった試作品。云わば横流しされた品であった。

 ダークエルダーの黒タイツは日々研究と実験を繰り返し、カシワギ博士のおメガネに適った黒タイツのみが量産化され全国の構成員に配られるのだが、中には試作品を数着作っただけでそのまま廃棄となる物も存在する。

 彼らが今タイツの中でドヤ顔しながら着込んでいるであろうそれも、きっとその廃棄品をどういうルートでか入手して着用しているのだろう。


 腐っても防御力を追求した全身黒タイツ。戦闘において着るのと着ないのでは大きな差が出るだろう。

 また、若干の模様違いなんて着ている本人達にしか自覚できない程度の差異のため、一般人から見れば彼らも立派なダークエルダーの構成員である。

 つまり、ダークエルダーの名を語り暗躍し放題。着ていれば大抵の事では怪我をしないし、夏でも冬でも体温を一定で管理してくれる優れ物。

 確かにこれは活用法の多い手札であっただろう。


 だけどもそれは、正規のダークエルダー構成員であるツカサに見られなければ、の話。

 「はーいではちょっとチクッとしますよー」

 呑気に気軽にノーテンキに、ハクがそう言って剣を掲げれば、その剣先から何条もの雷が発生し黒タイツおっさんズを打ちのめす。

 散々耐久テストとして試作品相手に電撃を放ち、実験を繰り返してきたツカサとヴォルトのペアである。

 いくら防御力が高いとはいえ、脆い箇所も中身を気絶させるに留める威力も何もかも把握済みだ。正規採用されなかった品なんぞ相手にもならない。


 「ぐ、が……ぎっ……!」

 プスプスと焦げた臭いと煙を漂わせ、全てのおっさんズが地に伏せる。

 構図としては完全にダークエルダーの黒タイツ部隊を一人で殲滅したヒーロー。幸いな事に人気のない通りでの犯行であった為に目撃者はいないが、もしも発見されればダークエルダーの評価が下がってしまいかねない現場である。

 「あー……報告書書くのめんどくさいなぁ……」

 本来は偵察だけで終わるはずの任務だったのだ。それが横流し品の発見とダークヒーロープロジェクトの試運転まで兼ねてしまったら、それぞれ別の案件として報告しなければならない。


 「自業自得ってやつね。病み上がりで運気も向いてないようだし、さっさと帰ったら?」

 ヴォルト・ギアからちょっとだけ顔を出したヴォルトにもそう言われる始末。

 結果は上々なのに何故か気分は落ち込んだまま、黒タイツおっさんズをワープゲートへと押し込んで、ツカサはさっさと変身を解いて支部への帰還を急ぐのだった。

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