決戦!『マザー』を討伐せよ! その7
『マザー』の首が落とされ、アベルの幼馴染が救出された頃、黒雷とカシワギ博士は戦場となっている広場から上空約600m程の位置にいた。
ダークエルダー特製、完全ステルスヘリコプター。
光学迷彩、無音飛行、レーダー探知妨害機能などが取り付けられた、究極の兵器である。ただ燃料をバカ食いするので、未だ長距離飛行と継続飛行の面では難ありとはなっているのだが。
「あの~……博士?俺、ホントにここから飛び降りるんです?」
「君がそんな満身創痍でなければ、こんな強行手段を取らないで済んだのじゃがなぁ」
現在の黒雷はヴォルトの超加速により、体内のあらゆる神経や筋肉が悲鳴をあげている状況だ。
歩くのですらおぼつかないので、とてもじゃないが最終兵器を扱える状態ではないと訴えたところ、何故かヘリへと乗せられこの高度で身を乗り出している。
「大丈夫じゃ。その追加装甲には自動バランサーとワープ装置、後はまぁ色々便利なのが着いとる。失敗はせんよ」
作戦の成否の心配をしてるんじゃないんだけどなーっと黒雷は内心思うが、一番大事な役を背負っているのに無茶をやらかした自分が文句を言える立場じゃ無いことも分かってはいるのだ。
作戦は単純明快。黒雷がヘリよりスカイダイビングして『マザー』の頭部をパイルバンカーで撃ち貫き、追加装甲のワープ機能を使いヘリへと帰ってくるというもの。
パイルバンカーの使用者登録は黒雷となっていて、急に変更なんてできないと技術班から文句を言われた末のこの無茶振りである。
激痛で動けない?なら空から落とすから姿勢制御と照準を定めてトリガーを引く事だけはやってね!という事である。鬼か。悪魔か。悪の組織だわ。
なお、黒雷の鎧の上に取り付けられた追加装甲は、黒雷の特徴を完全に隠し別人にしか見えないよう作られている。カシワギ博士曰く「そんな超火力兵器をダークエルダー所属の君が使ったら色々角がたつから、正体不明の誰かって事にして事後処理を楽にする為じゃ」と宣った。
「これ、姿勢制御とかワープ機能とか付いてて、流石に用意周到過ぎません?」
「勘のいい若者は損をするぞ」
始めからスカイダイビングも視野に入っていたらしい。できれば事前に説明しておいてくれればまだ覚悟する暇もあったのに。
「さぁ案の定『マザー』が再生したぞ。鳥になって来い!」
黒雷は問答無用とばかりに幼女に蹴り落とされ、人生初の空を舞った。
◇
「あー……空って気持ちいいんだなぁ……」
日本に住みオタク文化に身を染めていた黒雷には、わざわざスカイダイビングやバンジージャンプをしに遠出をするという考えはなかった。楽しそうだなと思いはすれども、自分で実際にやってみようとは思えなかったのである。
つまりは完全なる初心者。普通パラシュートもなしにヘリから落とされたら、一般人なら恐怖で気絶するところであろうが。
黒雷は事前にカシワギ博士から謎の薬を数錠手渡され、無理やりそれを飲まされている。ただの鎮痛剤か何かかと思って素直に飲み込んだが、その瞬間から妙に思考が冴え渡り、感情の起伏やら全身の痛みやらが緩和されているのだ。
ワシの特製じゃから後遺症は一切ないわい、と不穏な事も言っていたが、まぁお察しの通りだろう。
そんなこんなで現在は『マザー』の頭部より約300mといったところ。追加装甲が勝手にブーストを起動し、地面へ向けてえぐい加速の仕方をしているので、ものの数秒もあれば黒雷は『マザー』か地面のどちらかと激突し、ほぼ間違いなく即死するだろう。
そんな死に方だけはしたくないので、黒雷は鈍い痛みの走る右腕を眼前へとまっすぐに構える。
その手には、鍵となる取手のような物を握り。
「システムコード:轟雷、セットアップ」
【認証確認。轟雷、組立開始】
突如空中に、大小様々なパーツと思しき物が転送されてきた。
【轟雷の組立に使用するパーツを転送しました。2秒後に合着を開始します】
耳元に聞き慣れない機械アナウンスが響き、それが終わる頃には既に、取手を中心に筒状の骨組みが出来上がっている。
その骨組みに集まるように内蔵部品と外装が取り付き、最後に巨大な杭が装填されて完成。
ダークエルダー特製の最終兵器、轟雷。
パイルバンカーとして、どこまでの境地へと到れるか。開発部が勝手にそんなテーマで組み上げたソレは、文字通りのロマン砲としてその姿を確立した。
【──合着成功。システムオールクリア。射撃待機状態へと移行します】
それは長大な、遠目から見れば東洋竜にも見える独特の形状をした砲である。
竜のアギトを模した砲口は、すぐにでも獲物を噛み砕かんと大きく開き。その身に宿した破壊の権化たる大杭は、一切の慈悲を掛けまいと解放の時を待つ。
仮名として轟雷と名付けられたソレは、今こそ天罰の時だと言わんばかりに天より舞い降りて。
「シュート」
【解放】
竜のアギトが『マザー』の頭部へと触れるか否かの刹那、放たれた大杭が『マザー』を地面へと縫い付け、直後に大爆発を起こしその全てを灰燼へと呑み込んだのであった。