決戦!『マザー』を討伐せよ! その3
遅くなりました。
書き溜めというものをしてたんですが、せっかくの決戦なので溜めてる分全部上げます。
こちらが一本目。全部で四本あります。
強敵感のあるカブトムシとクワガタを、黒雷とライフルレッドの二人に任せ。デブリヘイムの親玉たる『マザー』を倒すべく、アベルとブレイヴ・エレメンツの二人は暗い森の中を全速で駆けていた。
「前方約150メートル先、『マザー』の反応あり!覚悟しろよ二人とも!」
アベルはそういってレーダーをしまい、自身の得物である片手剣と拳銃を取り出す。
アベルの鎧と同じ素材で出来たそれらは、トウマがアベルと成った後、デブリヘイムから回収した鉱石を鎧が吸収して生成した物だ。
数々の戦いを共にくぐり抜けてきた武器だが、取り回し重視の為に『マザー』相手には少し心もとない感じもする。それでも、今から慣れない武器を生成するよりは戦力となるだろう。
火力を女の子に頼るのは一端の男子として抵抗はあるが、もはや四の五の言っていられる時間はない。
「森を抜けて広場になるぞ。奇襲に注意!」
成り行きというか、宿敵を相手にするのだからと無理矢理リーダーのポジションにつけられたが、少しは板に着いてきた気がする。
とはいえ元々はソロで活動してきた復讐者みたいなものだ。自分だけではこれ程の協力者を集める事なんてできなかったし、『マザー』の住処を探るのももっと時間が掛かっただろう。まぁ後者の方は謎の占い師のおかげでもあるのだが。
「作戦通り、広場に出たらすぐに散開し注意を引いてくれ。俺はその間に『マザー』の体内に人間の生命反応がないかを探る」
「……なぁアベルさんよ。注意を引くのはいいが、別にあれを倒してしまっても構わんのだろう?」
「いや構うわ!取り込まれた人がいるかもって話をしただろう!?」
「冗談だよ冗談」
ケラケラとサラマンダーは笑う。緊張をほぐそうとしてくれたのだろうが、今のは冗談に聞こえなかったのでやめて欲しい。ウンディーネも呆れた顔で並走するサラマンダーを小突いている。
それを見て初めて、自分の身体が強ばっているのを実感した。
大きく息を吐いて、改めて武器を握り直す。
もう広場は目前、ここまで来たら、後は野となれ山となれだ。
「二人とも、ありがとう。……行くぞ!」
「応!」「ええ!」
二人の返事を心強く感じながら、アベルは全速のまま森を抜ける。
そしてその広場の中央に、ヤツはいた。
それは、とても奇妙な造形をしていた。
まず、蜘蛛の腹が有った。その腹に8本の脚が付いていて、それのどれもが毛深くも頑強そうな黒光りを放っていた。
その蜘蛛の腹に、ムカデの胴とカマキリの両腕が付いていた。死神の鎌を思い浮かべるほど鋭く研がれたその両腕は、待ちわびた餌をどう料理しようかと光沢を纏っていた。
背には蜂の羽を付け、頭部となる部分はカブトムシに酷似していた。
それが目測で高さ約15メートル。
“ぼくのかんがえた最強の昆虫”でも体現したかのようなコラージュモンスター、それが『マザー』の正体であった。
「うげぇ、正気度減りそう……」
「物理法則もあったもんじゃないわね……」
ブレイヴ・エレメンツの二人はそうボヤきつつも、作戦通りに散開し注意を引くべく遠距離攻撃を放つ。
しかしそれも、牽制程度の威力とはいえ『マザー』の身体にはちっともダメージが通らないようで。お返しとばかりに振られた鎌は、サラマンダーの避けた後の地面をバターのように斬り裂いた。
「アベルすまん!これ長くもたないかも!」
「分かってる!集中するから引き続き頼む!」
舐めてかかったつもりはなかったが、アベルと成った日に相対した『マザー』とは全くの別物と思えるほど強くなっていた。
見た目がどうであれ虫をモチーフとしているのならば、当時のアレは幼虫だったのだろう。それが今は蛹を経たのか、成虫となって暴威を振るうようになったとなれば合点がいく。
「消化されてたりしないでくれよ……」
口の中で連れ去られた幼馴染の名を口にしながら、アベルは『マザー』の中の生命反応を探るため、全神経を集中させた。