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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第二章 『悪の組織と宇宙からの来訪者、デブリヘイムとニューヒーロー』
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『マザー』攻略作戦前夜

遅く&普段より長くなりました。

ひとつにまとめようとしたせいで急ぎ気味で会話多めです。読みにくいかもしれませんが、ご勘弁を。

 ガンレンジャー達との入念な打ち合わせを済ませた帰り道。支部へと戻り変身を解除したツカサ達は、今度は支部内の喫茶店でのんびりとコーヒーを楽しんでいた。変身している間は口元が兜面で覆われるために飲めないので、せっかく美味しいと評判の喫茶店に居ても何も頼めなかったのだ。

 普段は行列ができるほど混雑するような人気店に二度も来店して、何も味わえませんでしたでは物悲しい。

 何も今度はただの一般人として行こう、と心に誓いつつコーヒーを啜るツカサ。そしてその目の前に、ただただ無言で自身の筋肉を見つめる男が一人。

 男……カゲトラは、ただただじっと自身の育てた筋肉を凝視し続けている。ハッキリ言ってめちゃくちゃ怖い。


 「どうしたんだカゲトラ。新しいトレーニング方法か何かか?」

 「いや……」

 ツカサが茶化すように聞いても、一向に重苦しい表情のまま筋肉を見つめ続けるカゲトラ。これは深刻かもとツカサも態度を改めようかと思ったその時、カゲトラがゆっくりと顔を上げて口を開いた。

 「……実はな、さっき会ったガンレンジャー。あの人達と俺は、同じジムに通ってたんだ」

 「ん?……おう。……ん?」

 同じジムに通っているからなんなのだろう。

 「前々から素晴らしい筋肉と柔軟な身体能力、圧倒的なチームワークで人目を引いていた人達だったんだ。俺の憧れでもあった。……その人達が、ヒーローだったんだ……」


 何かを悔しがるかのような、無念の極みに至ったかのような、そんな形相で筋肉がはち切れんばかりに腕に力を込めているカゲトラ。しかしツカサには、憧れの相手がヒーローだったからと悔しがるその気持ちが分からない。ヒーローで何か問題でもあるのだろうか。

 「それの何が問題なんだ?」

 「分からん。それが分からないからこうしてもどかしくなっているんだ……」


 カゲトラは言う。

 自分が悪の組織の一員であるように、誰かしらがヒーローである事は当たり前の事だ。だけどそれが身近な人で、憧れの対象で、普段から何気なく接してきた人達だった時の心の置き所が分からないと。怒るでも笑うでも嘆くでも安心するでもない、この感情をどこに追いやればいいのかと。

 「相棒はそんな時、どうするんだ?」

 「特オタに聞いてどうするんだ。泣いて喜ぶだけだぞ?」

 ツカサ、これを相談する相手が間違っていると一蹴。


 「ヒーローの正体を知ったからなんだよ。その情報がアドバンテージだとか、それが今後の活動にどうだとか、次に会った時に気まずいだとか。そんなの、今考えたってしょうがないだろ?」

 「だが……むぐっ」

 何かを言いかけたカゲトラの口の中へ、まだ手をつけていなかったドーナツを突っ込む。

 「それと一緒に飲み込め。んで、また筋トレでもしてなよ。明日は明日の風が吹く。人間、一晩寝たら大抵の悩みは落ち着くところに落ち着くもんさ」

 「……そう、か。そうだよな。」

 ドーナツを食いながらまだ納得いかないような顔をしていたカゲトラも、筋トレと聞いてようやく表情が戻る。そして早速筋トレをしに行くと、お代とツカサを置いてさっさとトレーニングルームへと向かっていった。

 「ありがとう相棒。やっぱり相棒に相談してよかった」

 そう言い残して。



 ◇



 「で、次はトウマか……」

 「え?ツカサさん、何か言いました?」

 いや何も、とツカサは返し温くなったコーヒーを啜る。

 カゲトラがトレーニングルームへと筋トレしながら向かってすぐ、今度は流星装甲アベルことトウマがツカサの対面へと腰を掛けていた。

 なんでもツカサに相談したい事があるそうだが。

 「相談というか話を聞いてもらいたくて。明日の決戦の事なんですが……」

 そこから約三時間ほど、トウマは延々と話し続けた。ホントに幼馴染を救えるのか不安な事や、『マザー』との戦闘に関して助言が欲しいなど。

 数年間ヒーローとして(本人はそんなつもりは無かったが)活動してきて、ようやく宿敵の親玉との決戦なのだ。不安になるのも当然かもしれない。


 「そう心配しなくてもいいんじゃないか?」

 「そう……ですかね……」

 「そりゃあ、強敵相手に怖くなるのも当たり前。勝てるかどうか不安になるのも当たり前。ラスボス相手に笑って挑める主人公なんて、最近でもそうそう見ないぞ」

 ツカサの言うのはフィクションの話。強大な悪に立ち向かうヒーロー達は、いつも何かを背負って、その重みに耐えながらも前へと進み続ける。

 「君一人で何もかもを背負う必要はないんだ。君には支援してくれている味方がいて、共に戦場に立つヒーロー達もいる。だからさ」

 君はただ幼馴染を助ける事だけ考えればいい。そして助けた後に余裕があったら、また戦場に立って今度は我々を手伝ってくれたらいいと、ツカサは笑いながら話す。

 フィクションじゃあるまいし、たった一人のヒーローの肩に世界の命運がのしかかっているワケではないのだ。共に立つ仲間と、ただ自身のできる事を精一杯こなせば、自ずと結果は着いてくる。


 「手を抜くな。ただし適度に力を抜いて気を弛め、自分に今求められている役割を果たせ。……ってな」

 「難しい事を……誰の言葉です?」

 「さてな。何かのアニメか特撮だった気もするけど、忘れた」

 「そうですか」

 小さく苦笑いするトウマの表情には、相談する前にあった固さはない。

 「我々が全力で君をサポートする。だから君も、全力で戦え。それさえできれば明日は問題ないさ」

 「……ありがとうございます。なんだか、少し気が休まりました」

 トウマは席を立って一礼し、装備の点検をすると言って去っていく。月並みのセリフしか言えなかったと思うが、それでも人と話すだけで楽になる事もある。そういえば自分は何も緊張していないな、とツカサは一人で苦笑いをしながら。だいぶ前に飲み干してしまったコーヒーのおかわりを注文し、今しばらく喫茶店に居座るのだった。



 ◇



 ツカサが支部内の喫茶店を離れ帰路についてからしばらくして。普段は滅多にならない私用のスマホに着信が入る。不思議に思いながら画面を見れば、これまた珍しいというか、連絡先を交換してから一度も掛けてきたことの無い相手であった。

 「もしもし。どうしたんだい日向さん?」

 『あ、もしもし司さん?』

 そう、相手はツカサのお見舞いに来て以来さっぱり話さなくなった(そもそも夕陽の公園しか接点がないため、そこで会えなければ会話の機会すらない)日向 陽(ひむかい ひなた)であった。

 『いやぁ、なんというか……声が聞きたくなったというか?』

 「ははっ、面白い冗談だ。君さては童貞殺しだな?」

 童貞のツカサには刺激の強い台詞だ。思わず勘違いしてしまいそうになる。


 『童貞殺しってなんだよ、もう。……声を聞きたくなったってのは本当だぜ?実は明日、大事な用事があってさ』

 いつも一緒にいる水鏡 美月(みかがみ みずき)と共に、絶対にやり遂げなければならない大事な用事があるのだが、そんな彼女も緊張しているだろうし迷惑もかけたくなかったからと、話し相手探しに電話帳を眺めていたら、たまたま目に入ったツカサの名前を見て声を聞きたくなったのだそうな。

 「そっか。まぁその用事が何なのかは聞かないよ。俺からしたら月並みに『頑張れ』としか言えないしね」

 最近の女子高生がどんな問題を抱えているのかは分からないが、関わりの薄い年上の男が勝手に踏み込むわけにもいかない。下手したらセクハラとも捉えられかねない。


 『ああ、助かるよ。……でも、そうやって変な気の使い方をしてると嫌われにくいかもしれないけど、女性にはモテないぜ?』

 「うっさい。俺の事なんてどうでもいいんだよ」

 モテないのなんて実証済みである。嗚呼悲しきかな彼女いない歴イコールさん。

 「君が何に挑むかは分からないけど、最近のデブリヘイム事件で怪我とかしてなくてよかったよ。……また、用事が終わって余裕ができたら。一緒に夕陽でも見よう」

 『ああ、“また三人で”な』

 変な含みのある言い方をしたようだが、そこにツッコミを入れられるツカサではない。そこからまた少しだけ雑談をして、すぐに通話は切られた。

 司さんと話せて少し楽になれたよと、まだ固さの残る声で言われて。



 たて続けに話した三人との会話で、どうすれば正解だったのかなんて、ツカサには何一つ分かりはしないが。

 それでも少しは役に立てたかと、気軽に捉えつつ、忙しなかった一日はこうして過ぎていき。

 ツカサは最終兵器を背負わされていながらも、それを気負いもせずにぐっすり眠る。


 寝て起きればすぐにでも『マザー』との決戦である。

 何気ない日常を取り戻すため、戦士達は束の間の平穏を過ごすのであった──

次からようやく『マザー』との決戦になります。書いてて長いなぁと感じながらも、書きたい事を書いていたらこうなりました。

人物等のまとめは決戦後までお待ちください。

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