作戦決行の前日 その1
カシワギ博士と話し合い、超火力兵器を作ると言ってから三日。その三日で、完成したものがコチラになります的な勢いで目の前に巨大な砲塔を持った杭打ち機が鎮座していた。ツカサもパトロールの合間に調整や試射に付き合わされたりしたが、こんなすぐに完成するとは思ってもみなかった。
「全ての支部の生産ラインで別々のパーツを作らせたんじゃ。試作品も含めて三機分。時間もないから実用に足るのは一機のみじゃが、今回は十分じゃろう」
とはカシワギ博士の談。
こちらが急かしたわけでもなく、設計図と資料をそれぞれに送ったら嬉々として仕上げて送り付けてきたらしい。また、そのどれもにメモが貼り付けてあり、その内容はほぼ全てが「ロマン砲は、いいぞ!」だったそうだ。話のわかる悪の組織である。
この三日間は、まるで時間の流れが早くなったかのように感じるほど忙しく、パイルバンカーのテストをしたり町に現れたデブリヘイムを退治したりとしていたら、正しくあっという間であった。
そういえばココ最近、あまりに忙しすぎてしばらく夕陽の公園には行けていないのだが、あの二人は元気だろうか。ダークエルダーが把握している死傷者の中には二人の名前はないため、無事ではあると信じたいところだが。
まぁ考えていても仕方がない。今は、『マザー』を討伐したら元通りの日常に戻れると信じて戦うのみ。
悪の組織に所属する怪人役は、今日も明日の平和を願って戦うのみである。悪の組織とは……?
◇
「諸君、長らく待たせたな。ようやく明日が作戦開始の時である。作戦内容は以前に説明した通り。人員の配置は……」
パイルバンカー完成の次の日。前回集まってもらったヒーロー達を再度同じ喫茶店へと集め、作戦前最後の集会が開かれた。
一応企業秘密との事で、パイルバンカーの事は一部の関係者しか知らない情報として扱われており、ヒーロー達にはようやく鉱石の解析の目処がついたのだと報告されている。
結局あの鉱石は、数の多い小型デブリヘイムを操作するための受信機のような存在だったそうだ。その他にも使い道はあるそうだが、実質的な脅威になるにはそれなりに手を加えなければならないため、今のように鉱石そのままを埋め込んでいるようなら、一応考えられる対策はするが、大した問題ではないとのこと。
『マザー』は未だに自称占い師の示した位置から動いていないが、周辺への一般人の立ち入りを禁じているため、現場の状況は誰も把握できていない。
斥候を送って偵察しようにも、それで感ずかれて逃げられたら本末転倒なのだ。山間の深い森の中なので長距離望遠レンズでもハッキリとは視認できず、衛星からの情報を頼りにせざるを得ない。危険ではあるが、状況に合わせて高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するしかないのである。……ようするに行き当たりばったりではないか。
「……以上で、最終ブリーフィングを終了する。みな、明日は生きて帰ろう。解散!」
そうブロッサム中佐が締めくくり、各々が、今度は緊張した面持ちで帰路へと着く。
それぞれが皆、ヒーローとして個人または数人で悪の組織や未知の怪物達と日々命懸けの戦いを繰り広げている事は誰しもが知っている。しかしだからといって、危険を前に臆さずにいられるかと言われればそれは否だろう。危険だと理解できるからこそ生き残れて、それを承知で飛び込めるからこそ彼らはヒーローなのだ。
未だ未知数の、これほどの数のヒーローで当たらなければならない相手を前に、逃げずに立ち向かえる勇気。それは誰からも賞賛されるべきものだろう。
「失礼、ダークエルダーの黒雷さんとアーミーΔさんかな?」
黒雷が物思いに耽っていると、テーブルを挟んで反対側に五人のガタイのいい男女が並んでいた。
誰もがタンクトップを着て、パンパンに張った筋肉を見せびらかすかのように浅黒く輝いている。黒雷は一瞬、カゲトラの知り合いなのかとも思ったが、カゲトラがスーツアクターであるアーミーΔは彼らを見てフリーズしたように固まっているため、渋々黒雷が対応する事にした。できれば筋肉は筋肉で対応して欲しかったのにと、そう思いつつ。
「確かに、我々はダークエルダーの者だが。失礼ながら私達は貴方達を知らなくてね。ヒーローなのだろうが、できれば自己紹介をお願いできるだろうか」
「おっと、失礼。自分達の知名度を過信し過ぎていたようだ。では、少々長くなるが自己紹介をさせて頂こう」
この時点で嫌な気はしていた。五人で男女の組で自己紹介なんて言われたら、最低でも三十秒は覚悟しなければならないだと。そう、それはいわゆる……
『レッツ・アクション!!』
五人が同時に叫び、彼らの腕に巻かれたガンチェンジャー淡く五色に輝く。
それぞれが得意の決めポーズをキメながら、ひとりひとり丁寧に変身行程を見せていき、最後に全員まとめて自己紹介するタイプのようだ。
いや自慢の筋肉だけが最後に残るのって不自然じゃね?しかも見るからに銃器がモチーフだよね?そこまで筋肉見せつける必要ある?素晴らしいもっとやれ。
なんて、声に出さずにツッコミを入れまくるような変身バンクではあったが、なんとか全員がスーツを着終わり名乗りへと移る。
「赤き銃口、ライフルレッド!」
「青き弾丸、カービンブルー!」
「黄色の銃身、ショットイエロー!」
「緑の迷彩、マシンガングリーン!」
「黒き弾倉、リボルバーブラック!」
『我ら、悪を撃ち抜く五つの閃光!』
口々にポーズを取り、モチーフである銃を構える彼ら。そして五人揃ってポーズを決めて、
『引金戦隊!ガンレンジャー!!』
とても教育上良くなさそうな名乗りを上げたのであった。