『マザー』攻略作戦 その4
「この大型レールガンなんてどうじゃ?いっそヴォルトの電力をフルに活かさないと起動しないレベルの、超大型キャノン砲とかでもいいのう。それともここはシンプルに、サンダーブ〇ークみたいにするか?さぁさぁ、どれがいい、どれがいい?」
「いやロマン砲考えるのが楽しいのは分かりますが落ち着いてください博士!それ俺の一言ですぐに作る気満々でしょ!頼もしいを通り越して怖いですよ博士!」
とても綺麗に整えられたビルのロビーで繰り広げられてはならない物騒な会話。
ツカサが所持するというか、正確にはヴォルトの力を借りてようやく扱えるような、そんなロマン砲を作りたいという願望が丸見えなカシワギ博士であるが。
「必要な物だと言ったじゃろ?『マザー』を跡形もなく消し炭にせねば、また同じ惨劇が繰り返される可能性もあるじゃろうが」
「だからってなんで個人に持たせようとするんですか。ダークエルダーの技術力ならそれくらいの超兵器はいくらでも作れるし既に持ってたりもするんでしょう?」
少なくとも三ヶ月前の一般的な兵器では、ダークエルダーの軍勢を押し留める事すらできなかったのだ。当時は先んじて国の中枢や政治方面から掌握していたため、大規模な戦闘は起きなかったようだが。それでも避けられなかった戦闘では、ヒーロー相手以外では全戦全勝だったはず。
「あんなもんは“対人兵器”で十分。今の黒タイツでも機関銃くらいなら青アザ程度で済むんじゃ。しかし『マザー』に対しては、ピンポイントに対象のみを粉砕する、防御力なぞ無意味なほどの超火力が必要とされる。そんなロマン砲なぞ作り置きしてあるわけなかろうて」
言われてみれば確かに、そんなものを抱えていても城塞を吹き飛ばすような案件なんてそうあるわけが無いし、持ち腐れになってしまうのだろう。
「今回のはダークエルダーの技術の粋をもって、『外敵に対しどこまでの威力を出せるのか』を検証する実験も含めておる。君の座標目掛けてパーツ毎にワープさせ、現場にて即時組立・展開。君が主役なのは、ヴォルト程の動力炉を作るには時間が足りんというだけじゃ。砲台の基礎兼動力炉兼反動にも耐えられる装甲と言えば、君しかいないでなぁ」
「パーツだ!パーツ扱いだ!」
と、騒いではいるが、実際ツカサとしてもロマン砲には大変興味がある。そしてそれが『マザー』討伐に必要だとするならば……
「まぁ、断る事はできないんでしょうね……」
「当然よ。ここで協力すれば、デブリヘイムの鉱石を大量に貰える約束だもの。断られては困るわ」
渋々を装い承諾したツカサの横で、ヴォルトが受けて当然とばかりにふよふよと浮かんでいる。そういう約束を事前にしていたから、博士がヴォルトを動力炉扱いしても怒ったりしなかったんだな、と後から気付いた。
「いよーし、承諾したな?もう取り消せんからな?ワシらの野望の為に大人しく礎になってくれ!」
「わーセリフがとっても悪役っぽーい」
とってもアットホームな悪の組織である。
「では、時間もないし今すぐに兵器の案を出してくれ。君が扱う兵器だ、君が決めるといい」
とても綺麗に整えられたビルのロビーで話すような内容の話ではないのだが。まぁビル丸ごとダークエルダーの支部ではあるし、ヴォルトも平然と浮かんでいるし、関係者以外は入ってこないため今更感はあるのだが。
「うーん……では、パイルバンカーで」
実は超火力兵器と聞いた時点でこれしか浮かばなかった。キャノン砲と見間違う程のビームサーベルだとか、ゴルディオンなバカでかいハンマーだとか、そういうのも思いついてはいたのだが、どうしても現実的ではない気がして結局はコレに落ち着いたのだ。
「ほほう、渋いところを突いてくるなぁ君も。まぁ、外しても被害は最小限で抑えられて、かつ距離の減衰も考える必要のない現実的な案だとワシは思うよ。君が必ず接近しないといけないこと以外は問題なしじゃ」
「あー……そうですね、パイルバンカーだとギリギリまで近くじゃないと使えませんね……」
杭打ち機なんていう物に射程を求めてはいけない。ロマン砲に犠牲は付き物である。
「当てる手段はワシらも考えるから、そう不安がる必要もない。頭を使う作業は得意な者に任せて、君達は決行日まで身体の調子をベストに保ってくれていればいいんじゃ。ではヴォルトを借りていくでな、しばらく休んでくれたまえ」
早速というか、落ち着いているようでめっちゃ目をキラキラさせながら博士が自分の研究室へと戻っていった。これからまた数日篭もりきりで兵器を作るつもりなんだろうか。いくら若い(というか幼女)身体だとはいえ、無理はしないで欲しいものである。
「……食堂でも行くか……」
デブリヘイムとの戦闘の後に、なんだか重大そうな決め事である。疲れるなという方が無理であろう。
『マザー』との決戦も間近。誰しもが日本の平和の為に忙しなく動き回る中で、ツカサは一人うどんを啜りに歩み始めるのであった。