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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第二章 『悪の組織と宇宙からの来訪者、デブリヘイムとニューヒーロー』
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『マザー』攻略作戦 その2

 ──敵は秩父山中に在り。


 『マザー』の居所が判明し、それを公表したのだから誰かしら飛び出して先走るかとも思ったが、実際は誰もが落ち着いて話を聞いていた。一番飛び出して行きそうなアベルは震える手で珈琲を啜っているし、他にデブリヘイムに怨みを持つような人物がいないのだろうか。今一番困るのは、本隊到着前に馬鹿が先走って返り討ちに遭い、『マザー』の逃亡を許す事なのだから、冷静であるのはいい事ではあるのだが。

 「ふむ。全員冷静で何よりだ。先走って返り討ちに遭う馬鹿者はいないようだな」


 ブロッサム中佐も同じ考えだったのか、厳つい顔を歪めて微笑んでいる。もっとも、周囲から見ればそれは獲物を前にした獰猛な肉食獣のようにしか見えなかったのだが。

 「さて、では作戦の内容だが……」

 ここからの話は長いので要約すると、


 ・作戦日時はまだ未定。これは研究者がまだ鉱石の解析を進めているためである。準備が出来次第後日改めて通知する。

 ・移動手段はダークエルダーが用意する。救急輸送車等も全て一任できる財力や戦力が揃っていて、なおかつ今回の作戦に協力的な為。信用できない者は各自で最寄り駅まで移動してくれれば政府の車で拾うことも可能。

 ・目的地周辺へと到着後、ダークエルダーの黒タイツ部隊とヒーローを混合しチームとして複数に振り分け、『マザー』に対し六方向から接近する。

 ・接近中小型のデブリヘイムと交戦する可能性があるため、なるべく目立たないように仕留める事。

 ・まだ未確定だが、『マザー』に民間人が取り込まれている可能性があるため、留意する事。

 ・『マザー』の発見、戦闘開始等は常に無線で報告する事。

 ・ヒーローや一定の強さを持つ者は前線で戦い、それ以外の者達はサポートに徹する。

 ・なるべくなら周辺に被害を及ぼさないようにして欲しいが、取り逃がす位なら許可を求めた上で周囲ごと薙ぎ払うような超火力攻撃も可とする。

 ・任務完了の際には政府より多額の報奨金が用意されているので頑張って欲しい。


 とまぁ大体こんな感じである。細かい調整や戦力の振り分け等も行われたが、黒雷とアーミーΔとアベルとブレイヴ・エレメンツは当然のように同じチームへと振り分けられた。

 「では今回のミーティングは以上である。先程各自に渡した情報端末に此度の作戦内容等をまとめて通達しておくので、後で確認するように。……二度目となるが、皆の協力に感謝を。人類の天敵となる存在を打破する為に、全員の力を貸してくれ。では解散!」


 そうブロッサム中佐が締めて、各々が黒雷達を一瞥してから店外へと去っていく。何人かはヒーロー同士で意気投合でもしたのか、これから飯やらカラオケやら行こうかとか相談しているようだが、それも少し経てば同じように出ていって。

 残ったのは黒雷とアーミーΔ、それとアベルとブロッサム中佐と黒タイツ部隊のみであった。一緒に来たブレイヴ・エレメンツは、婚活中らしいお兄さんに執拗に話しかけられて鬱陶しそうにしながら逃げるように帰っていったので、店にはダークエルダーの関係者のみが残っている形である。


 「では、改めて自己紹介でもしようか。私は社員コードネーム:ブロッサム中佐。九州支部で若者の育成に務めていたが、ちょうど目処がついた時にこの作戦の作戦指揮をやってくれないかと打診を受けてな。幹部とは言っても偉ぶるつもりもないので、気安く話しかけてくれたまえ」

 「お初にお目にかかりますブロッサム中佐。私は……」

 三人の自己紹介は割愛するとして。なんでもこのブロッサム中佐、昔から魔女っ子やら美少女戦士やらが大好きなんだそうである。

 今回の集会にも女性はいたが、みんな戦隊ヒーローのイエローやピンク枠で、美少女によるユニット活動をしている者がいなくて内心は嘆いていたのだそう。

 「いやぁ、だから君達がブレイヴ・エレメンツを連れてきてくれた時には心の中で小躍りをしたものだ。本作戦が終了したらサインを貰おうかと思っていてね?」


 なんだか堅苦しそうなコードネームの割にはめちゃくちゃフレンドリーで話の面白いおじ様だったブロッサム中佐。相手の趣味にも一定の理解を示してくれるし、終始穏やかな声音で多彩な話術を使い場を冷めさせる事をしない。多少話しただけの黒雷達からしても、幹部として選ばれるだけの人望が集まるのも納得できるだけの何かがあるように思えた。

 「おっと、つい話し込んでしまったな。私もしばらくは同じ支部に所属するという挨拶をするつもりだったのだが、いやはやどうして、同士との会話は切り時が分からんので困ったものだ」

 「ふふふ、ブレイヴ・エレメンツの話題なら任せてください。何度もやり合ってますからね」

 「では今までの戦闘データと体験談等を支部で聞かせてもらおうか。流石にこれ以上この店を我々だけで独占するのは気が引けるのでね」


 そう言ってブロッサム中佐は店内に予め仕掛けていた隠しカメラを数台回収して(ヒーローの研究の為と言っていたが、多分それ以外にも理由がある気がする)徒歩で帰っていった。赴任したばかりなので、町の様子を見ておきたいとの事。

 黒雷達も特に居残る理由はないので、乗ってきたワゴン車に乗り込み支部へと帰る。途中で何件かデブリヘイムの反応があったが、町へと散ったヒーロー達の活躍もあり、現れてはすぐに鎮圧されたようだ。



 ◇



 「しっかし、最近ホントにデブリヘイムが増えてきたよな。ツカサが襲われる前までは週に一件あれば多い方だったそうだぞ」

 「その言い方、俺が原因ぽく聞こえるからやめてくれない?」

 支部へと着き、ようやく変身を解いて一息つけたのはいいが、このペースでデブリヘイムが現れている現状に焦りを感じてしまうのも事実。『マザー』に何かがあったのか、たまたまデブリヘイムにも食欲旺盛になる季節があるのかは不明だが、あまりモタモタはしていられなくなってきたのだろう。

 「早いとこ倒してしまわないとな」


 敵の規模も詳細も不明だが、倒さなければならないのならば挑むしかない。それが例えヒーローではない、悪の組織のヒラ怪人だとしても。自身の組織以外に平和を脅かされていては、悪の組織の名折れなのだ。

 「待ってろよ、………」

 アベルのその呟きは、きっと幼馴染の名を呼んだのだろう。生死不明ながらも、助けられるのであれば助けてあげたいと思う。アベルはその為にずっと戦ってきたのだ。そろそろ報われてもいい頃だろう。

 対『マザー』攻略作戦の前段階は、後はカシワギ博士の解析完了待ちである。そうすれば後は総力戦を挑むのみ。

 ツカサは、カシワギ博士ならすぐにでも解析を終わらせるだろうと、そんな確信を抱きながら。今はまだゆっくりしていようと、作戦内容のまとめに目を通すべく情報端末を操作するのであった。

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