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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第二章 『悪の組織と宇宙からの来訪者、デブリヘイムとニューヒーロー』
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対デブリヘイム包囲作戦 その4

 ヴォルトが鉱石を取込み、人の言葉を話せるようになったその日の午後。ツカサはカゲトラやヴォルトと共に町内の見回りへと出ていた。

 ヴォルトはカシワギ博士の手伝いについて行っていたはずだが、本精霊曰く『必要な情報はもう共有したもの。それに今の契約者はアナタ。アナタが外に出るなら、私もついて行くのが当然でしょう?』との事。


 そういう訳で現在ワゴン車には、黒タイツ運転手と同じく黒タイツ姿のツカサとカゲトラ、そして精霊ヴォルトが乗っているという、事情を知らない人からしたら恐怖を覚えるような空間が仕上がっているのである。

 最も、普段の見回りですらこの状態ではあるのだが。

 「で、サンプルとして鉱石ってのはあとどれ位必要なんだ?」

 「そんなの知らないわよ。私はあくまでも取り込んだ時の所見を述べただけ。研究所は進むでしょうけど、『マザー』探知機?を作るにはどれだけいるかなんて想像もつかないわ」

 「結局は地道にやれって事だよ相棒」


 普段はヴォルト・ギアに入ったまま呼ばなきゃ出てこないヴォルトだが、今は人と話せるのが楽しいのかずっと外に出ている。精霊とはいえフォルム的には完全にSANチェックものなので、一般市民に見られないように配慮して欲しいところだが、まぁ本人もその辺は分かっているようで、車外に出ない事は約束してくれた。

 「おっと、レーダーに感あり。……だが遠いな、間に合わんかもしれない」

 「それでも行くんだよ」


 カゲトラの持つレーダーに映った反応は本当に探知範囲の枠ギリギリで、ヴァージョンアップを数度繰り返したレーダーの索敵範囲は半径5kmにも及ぶ。それでも未だにデブリヘイムが擬態を解くまで反応しないため、使い勝手がいいのか悪いのか分からなくなりそうなところだが。

 「くっそぅ、こんな時、空を飛べたらなぁ……!」

 「無いものを強請ってどうするの。今ある手札で最善の行為を選択しなさい」

 「ヴォルトさん喋れるようになってから割とキツめね!?」

 そうこう喋っていても車の速度は変わらず。一般市民が襲われていたとしたら、デブリヘイム相手では一分ともたないだろう。最悪は黒雷へと変身し、屋根伝いにまっすぐ走ってやろうかと考えていると、不意に空を二条の流星が翔けた。


 それは赤と青の光を纏い、まっすぐこちらの目的地へと突っ込んでいく。そして着弾したかと思えば、レーダーに映っていた反応は間もなく消失した。

 「へぇ……ブレイヴ・エレメンツって飛べたんだなぁ」

 恐らくは炎と水をそれぞれ噴射し、推進力へと変えているのだろう。その行為をする為にどれ程の力が必要になるかは分からないが、正義の味方ってのは生命を救うために時として平気で無茶をするものだ。そもそも本人達は無茶とも思ってないかもしれない。


 「どうする?カタもついたようだが現場に行くか?」

 「そりゃ行くさ。アベルを介さずに直接話す機会なんてそうそう無いんだから」

 「ガッテンだ」

 ワゴン車は行く道を変えず、現場へと安全運転で急ぐ。その間にツカサとカゲトラは車内で変身する事も忘れない。

 そうして到着してみれば、現場には鉱石を片手に被害者と思わしき人物と話す赤と青の人影がある。

 「礼を言っておくぞブレイヴ・エレメンツ。我々ではギリギリ間に合わなかったからな」

 ワゴン車から降り、余裕を持った歩幅を心掛けつつ二人に近づく黒雷。悪役はなるべく余裕を見せるように、と何かのアニメで見た気がするので、それを律儀に守っているのだ。


 一方ブレイヴ・エレメンツの二人は、黒雷達の登場に露骨な嫌な顔をしつつも、被害者を逃がして黒雷達に対面するように並び立つ。一応今は休戦協定中なので襲って来ることはないだろうが、黒雷達としてはヒヤヒヤものである。

 「随分と遅れてやってきたようだが、お前ら本当にやる気があるのか?」

 「手厳しいなサラマンダー。残念ながら、我々はまだ個人を安全に飛行させる手段が無いものでね。これでも精一杯なんだ」

 一応カシワギ博士の中では飛行ユニットのイメージはあるそうなのだが、今は鉱石の分析にダークヒーロープロジェクトにと大忙しでしばらくは着手できないそうだ。無論、そんな情報まで敵であるブレイヴ・エレメンツに渡す気は無いのだが。


 「そうかよ。まぁオレ達からしたらダークエルダーに邪魔されないだけ楽ができるからいいんだけどな」

 あくまで戦力としてではなく、邪魔が入らないのが一番有難いのだと、ダークエルダーを邪魔者としか見ていないと言い放つサラマンダー。

 確かに、黒雷としてブレイヴ・エレメンツと戦闘をしても、毎回のように手傷も負わせずに撤退しているのでその評価は正しいのかもしれないが。若干傲慢が混じって聞こえるその言い回しは、いつか手痛いしっぺ返しを喰らわしてやろうと、そう心の中で誓う程度にはイラッとるものであった。


 プルルルルルル。プルルルルルル。

 そんな思考を割くように鳴る、アベルから連絡を受ける為に持たされているプリペイド携帯電話。

 それはどうやら車内に置きっぱなしにしていたツカサの物からの様なので、周囲の人物に確認をとってから電話を受ける。

 「もしもし、黒雷か?」

 電話の相手は案の定アベルで、緊急の連絡があったから電話を掛けたとの事。デブリヘイム絡みなのは間違いないので、本人に断ってからスピーカーモードに切り替え、その場の全員に聞こえるようにする。


 「ブレイヴ・エレメンツもそこにいるんだな?なら話は早い。全員落ち着いて聞いてくれ」

 一息。

 「『マザー』の居所が分かった」

 「おいおい、早いな」

 確かにカシワギ博士は昼の内にヴォルトと共に研究室に篭っていたようだが、そんなすぐに解析が進んでレーダーの性能を上げられるのかとツッコミたくもなる。が、今はそんなことを言っている場合じゃない。

 「それでだ、また俺達で会議を開きたい。今すぐ指定の場所へ全員集合してくれ」

 指定の場所といっても前に集まった喫茶店だが、と言って、アベルはすぐに電話を切ってしまう。気持ちが逸るのは分かるが、焦りすぎではなかろうか。

 「……と言うわけだ。乗ってくかい?」

 黒雷は親指でワゴン車を指す。目的地は同じだからと気軽に言ってしまったのだが、その後の変身を解くこともできない無言の車内の中で、たっぷりと後悔する事になるのであった。

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