転勤 その3
「どうじゃ、この変身ベルト。モチーフは平成初期の物だが、それなりにかっこいいじゃろう?欲しいじゃろう?」
博士の言葉にツカサは頷く。そりゃもう何度も。全力で。
「そう、それなんじゃ。そういう反応をしてくれる人間が欲しかったんじゃ!ワシがせっかく全精力を費やして作った自信作じゃぞ!?誰もコレを見ても『まーたこの爺さんの変な趣味が始まったよ』みたいな目でしか見られないこの寂しさ!」
「分かります!分かりますよ博士!みんな変身ベルトの持つロマンと素晴らしさを理解してくれない!その寂しさ!私にはよーく分かりますぅ!」
「おおやはり、やはり君は分かってくれるのか!」
ツカサと博士はその場で熱い握手を交わす。若いとはいえ二十歳を越えた青年と、中身がおっさんとはいえ見た目幼女が目を輝かせて何度も握手した腕を振るその光景は何とも奇妙な光景だが、この場にそれを突っ込める人間はいない。
博士はアタッシュケースからベルトを出すと、まるで宝物でも眺めるように見回してからツカサへと手渡す。ツカサも汚さぬようにと手を拭ってから受け取って二転三転。
「実際に変身機能まで付けることは出来たのじゃが、装着者候補がいなくてなぁ。君みたいに特撮魂に溢れる人間に出会えたのは幸運じゃった!」
じゃがの、と博士は続ける。
「このベルトを君に渡すのはもう少し先になる。まずは我らの部署にきて、実際に奴らと戦ってみんとな。ベルトを使って初戦敗退なぞ、したくなかろう?」
確かに他とは違う装いでカッコつけたのに、結果が一方的な惨敗であったなら宝の持ち腐れどころではなくなる。せっかくベルト所持者になるのなら、せめてライバルと呼ばれるようにはなりたいものだ。
そんなツカサの考えを読み取ったのか、博士はまたニンマリと笑ってベルトをアタッシュケースへと戻す。
「やる気に満ち溢れているようでなりじゃ。これから君の引っ越し先を案内するから、今日明日は片付けと今の部署への挨拶に使いなさい。明後日には、我々の研究所へと案内しよう。」
◇
それからは忙しかった。荷物の運搬等は黒タイツを着た筋骨隆々のお兄さん方がすべて片付けておいてくれていたけど、翌日には今の所属部署の上司への報告やら(やっぱりあの人無茶したな…って感じで簡単に納得してくれた。前科があるようだ)、今後の通勤ルートの把握、住所変更の手続き等々……。引越しのような一大イベントを心構えなしでやろうとするのはかなり大変ではあったが、それも今後を考えれば必要な労力だ。
そしてツカサはついに――
「おはようございます!本日よりこちらに転勤となりました、社員コードネーム、ツカサです!どうかよろしくお願いします!」
念願のヒーローと対峙する舞台へと立つこととなった。