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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第二章 『悪の組織と宇宙からの来訪者、デブリヘイムとニューヒーロー』
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黒雷、復帰後のお仕事 その2

 黒雷達はブレイヴ・エレメンツの二人を引き連れ、近くの喫茶店へとやってきていた。もちろんダークエルダーの協力者達が経営している店である。防音設備も完璧で店員の気配りもできており、なおかつマスターのいれた珈琲が美味いため重宝されている場所である。

 「二人とも好きな席に座りたまえ。今日は貸切にさせてもらっているからな」

 「……貸切といいつつアベルがいるんだが、あれは関係者でいいのか?」

 「もちろん。むしろ彼が『マザー』について話を我々に持ってきてくれたのだ。居てくれねば困る」

 「そういう事。みんなよろしく」

 片手を上げつつ挨拶をするアベル。当人はこの中で唯一変身していない生身で、それをいい事に到着するまで存分にコーヒーを楽しんでいたらしい。ケーキやサンドウィッチを食べていた跡も見える。


 「残念ながら我々は口元が開かないデザインでね、君達は好きに飲んでくれたまえ。会計は経費でおとすので問題はない」

 実際ダークエルダーの面々は一切食事に手を出さないワケだが、今日のところはダークエルダーとして貸し切っているので仕方がない。便利な会議室の代わりみたいなものだ。

 「ウンディーネ、信用できると思うか?」

 「少なくともここは割と前から美味しいって評判の喫茶店だったから、わざわざ私達の為に用意した罠って事はないと思いたいけれど……」

 まぁ当然、ブレイヴ・エレメンツの二人は警戒するだろう。無論予想していたし、だからわざわざ人通りの多い場所の人気店を抑えたわけだが。

 「安心しろ、とは言えた口ではないが。我々は毒や人質等よる不意打ちは好まん組織だからな。悪の組織なりの美学というやつだ。だからアベルを見習って存分に飲み食いしてもらって構わない」

 黒雷としてはこのくらいしか言うことができない。でもそこのアベル、お前には言ってないから追加でパフェを頼むなよちょっとは遠慮しろ。協力関係だと言うのがバレるワケにはいかないため、面と向かって言えはしないのが口惜しい。


 そんなこんな言いつつブレイヴ・エレメンツの二人も注文を行い、それが届いた辺りで真面目な雰囲気に移る。

 「では流星装甲(メテオナイト)アベルよ、君が我々に持ちかけた『マザー討伐作戦』の説明をしてもらおうか」

 黒雷達は先に説明を受けてはいるが、ブレイヴ・エレメンツの前ゆえ初めて聞く体で受け身の側に回る。表向きはヒーローと悪の組織である以上仕方のない事とはいえ、若干面倒に感じる部分もある。

 「アンタはダークエルダーの……黒雷っていったか。ブレイヴ・エレメンツに匹敵する戦闘力と組織の規模からして勧誘させてはもらったが、あくまでも我々はヒーローと悪の組織という関係だ。指図したりされたりする立場ではない事をご理解いただきたい」

 強めの口調で言い放つアベルに対し、黒雷は黙って顎をしゃくり先を促すのみ。これも事前に打ち合わせており、アベルがブレイヴ・エレメンツの信用を勝ち取る為の必要な行為でもある。

 「さて、ではまず“デブリヘイムとは何か”の説明から入ろうか」


 そこからの説明は長いため要約すると。

 数年前に宇宙から突然飛来した隕石が、ある山の奥地へと着弾した。偶然にもアベルと幼馴染はその近くで登山をしていた真っ最中であり、興味本位で隕石へと近付いてしまった。

 落下地点には現在『マザー』と呼称されている大型のデブリヘイムが居り、そいつの放った触手によりアベルを庇った幼馴染が捕えられ、『マザー』へと取り込まれてしまう。

 アベル自身も逃げ切れず、捕まえられそうになったその時。偶然近くにあった流星装甲と共鳴し、アベルとして覚醒したのだという。

 その場でアベルはマザーに対して戦闘をしかけ、深手を負わせるも幼馴染を救出できずに取り逃した。その数日後からマザーとは別の個体、今のデブリヘイムと呼ばれる怪物達が暴れるようになり、アベルとして戦闘を繰り返す内に現在所属している組織と協力するようになった。

 デブリヘイムを倒した時に落とす隕石の欠片のような物を使いレーダーを作成。現在は擬態を解いた後の個体しか探知できないが、欠片が集まり解析が進めば、いずれは探索範囲を広げる事ができ、なおかつ『マザー』を見つける事も可能になりそうだという。

 その為にはまず、小型のデブリヘイムを片っ端から倒し、大量の欠片を回収する必要がある。

 そこで技術力と組織力としては最高峰であるダークエルダーと、現在『マザー』が侵攻地点として定めているであろうこの町を守るヒーロー、ブレイヴ・エレメンツに協力を要請したい、との事だった。


 「俺がアンタ達に頼みたいのは、こちらで用意した探知機を使い小型のデブリヘイム捜索と発見次第の掃討、隕石の欠片の回収。それに『マザー』の探索だ。生憎と『マザー』の方は地中に潜って数年間見つかっていないから、どこかで息を潜めている可能性が高い」

 「何故数年たった今、我らに協力を持ち掛けたのか聞いてもいいか?」

 「ああ、それは最近になってデブリヘイム共の活動が活発になってきているのと、活動範囲が徐々にズレてきている事から、何かしら状況に変化が生じたのではないかと予想されたためだ。最初に現れた街では俺が片っ端から倒したからな。単純に逃げただけの可能性もある」

 話始めれば案外マトモというか、出会った当初からデブリヘイムへの恨みのみで動いていた節のあったアベル。幼馴染云々というのは初耳だったが、ツカサとして入院していた間に話してはあったのだろう。『マザー』の討伐が果たして仇討ちとなるか救出となるかはまだ分からないが、この話を聞いて黙っていられる者は、少なくともこの中にはいないようだった。


 「分かった。正直ダークエルダーと協力するってのは癪だけど、オレ達だけじゃ手が足りないのも確かだ。同じヒーローの手助けをする分には構わないよ」

 「我々ダークエルダーも、人間を餌としかみないデブリヘイム共は目の上のタンコブ同然であった。しばらくはこの作戦に集中させてもらおう」

 サラマンダー達が了承さえすれば、ダークエルダーとしては何も問題はない。ブレイヴ・エレメンツに協力させる為の茶番に等しい招集だったが、どうやらその甲斐はあったようだ。

 「両者とも敵同士なのに、本当にありがとう。……ではこれが俺の組織で用意した探知機と、プリペイド携帯電話だ。登録されている番号へ掛ければそれぞれで連絡が取り合える。気の長い作戦になるかもしれないが、よろしく頼む」


 そういってアベルが締めくくり、本日の会合は解散となった。

 宇宙から飛来したという地球外生命体デブリヘイム。和睦を考えられない明確な『人類の天敵』への包囲網は、今ここから広がる事となったのだ。

アベル「なぁツカサさん達。この携帯にGPS機能でも付けておけばブレイヴ・エレメンツの正体が分かるんじゃないか?」

カシワギ博士「それは」

カゲトラ「我々の」

ツカサ「美学に反する」

アベル「あ、ああそう……。難儀だなアンタ達も」

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