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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第二章 『悪の組織と宇宙からの来訪者、デブリヘイムとニューヒーロー』
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ツカサの退院とヴォルト・ギアの新機能 その1

 数日後、ツカサは無事に退院する事ができた。

 検査やら何やらで時間はかかったが、肩の怪我も腹部へのダメージもきちんと完治し、後遺症の心配もないとの事なので大手を振って帰路へと着いた。

 入院中も色んな人が入れ代わり立ち代わりで見舞いに来てくれたので退屈はしなかったが、報告書をまとめている間中ずっとすぐそばで筋トレをやられたり、見舞いといいつつ一緒にニチアサを見ることになったり、怪しい幼女が親切な看護婦さんに連行されたりと正直休んでいる感じはしなかった。


 それとそう、ツカサは入院中に録り溜めたアニメの消化をしていたのでマトモにニュース等は見てなかったわけたが、後からトウマにデブリヘイムについての公式発表があったと知らされた。

 まぁ公開できる情報も少なく、ダークエルダーに所属している人間は皆知っているような情報ばかりだったようだが。ただ、今回の一件でこの街でもようやくデブリヘイムへの危機感が増し、トウマ達が所属していた機関が表立って調査と駆除を行う運びとなったらしい。

 今までは裏方として噂程度しか語られなかったアベルが、ついに本物のヒーローとして扱われる事になるのだ。もっとも本人はそんな事より一刻も早くデブリヘイムの撲滅を、と絶えず口にしているので、名誉とかどうでもよさそうではあるのだが。


 そんなこんなで無事に退院したツカサ。久々の帰路だとのんびりバスを待っている中、ふと妙な違和感を覚えて周囲を見渡した。誰も彼もが足早に道を歩いていて、他人には見向きもしない。それどころか人とすれ違う度に警戒しているようにも見える。

 なんだか町中が何かに怯えるようにソワソワしているように感じて、ツカサにはどうにもその空気が酷く不快であった。



 ◇



 「なんでダークエルダーが侵略しようとしていた時はあんなに呑気にしてたのに、デブリヘイムに対しては怯えているんだ!」

 「え、怒るところそこなの?」

 ツカサ、久々の出勤。

 日々の業務の進捗具合は毎日連絡を受けているので問題はないが、大変なのは数日のベッド生活で訛ってしまった身体の方である。

 戦闘員として恥じぬよう毎日積んできたトレーニングを数日休んだだけで、既にかなり体力が落ちている。幹部候補としてすぐに前線へと戻らなければならない身としては、すぐにでも本調子へと戻さなければまた怪我をしかねない、と今はカゲトラと並び腕立て伏せの真っ最中であった。


 「確かに人に化けて社会に紛れ込み、隙を見ては人を食らう化物は怖いだろうさ。でもそれは、ダークエルダーだって悪の組織としての不透明感としては似たようなもんだろ?だから、納得いかない」

 「……まぁ、でも話の通じる人間と、通じない化物とじゃ、やっぱり後者の方が怖いと思うぞ?」

 「そりゃそうだろうけどさぁ……」

 ツカサだって、無闇に人々を不安がらせたいわけではない。だけど今の町の有様には、どうにも不快感が勝るのだ。

 「なら、やる事はひとつだろう?」

 カゲトラはいつの間にかスクワットへと移行し、ツカサも真似るように同じ姿勢をとる。

 「我々ダークエルダーが支配するべき町を、他の奴らに恐怖で支配させない。その為にやれること。

 「それは?」

 「分からないのか?」


 カゲトラに言われるまでもない。ツカサだってずっと考えてきたのだ。町を絶望から救う、特撮バカには簡単に出せる答え。

 「デブリヘイムを、全滅させる」

 そう、話の通じない外敵との共存など今は夢物語でしかない。食うか食われるかの弱肉強食の世界で、人類は一方的な強者から、油断していれば全滅させられてしまうような弱者へと堕ちたのだ。

 捕食者がいるならば、戦うか死ぬかしか道はない。


 「ただまぁ、正面から正々堂々と当たる必要もないってカシワギ博士も言ってたし、なんか考えがあるみたいだ」

 カゲトラは人の良さそうな笑みを浮かべ、息ひとつ乱さずに懸垂をこなしている。ツカサは不意に、その姿がとても眩しく見えて。

 「卑怯卑劣で挑もうぜ、悪の組織らしくさ」

 一瞬だけ、ほんの一瞬だが。この筋トレバカが凄くカッコイイ奴に見えてしまったのだった。

 「ああ、悪の組織らしくな」

 今カゲトラがカッコよく見えたって事は絶対本人には言わないでおこうと心の中で誓いながら、ツカサは表情を隠して筋トレを続ける。

 今度こそデブリヘイム相手に不覚は取らないと、そう心に決めて。カゲトラと戦場へと並び立つ日を想像しながら。

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