妹、襲来す
カシワギ博士(見た目は幼女)が来ている状況で妹がやってきてしまった。繰り返す、幼女が来ている時に何も知らない妹がやってきてしまった!
「兄さん、兄さん。起きてるんですよね?誰かいるんですよね?入ってもいいですか?ねぇ兄さん?」
怖い、妹が怖い。普段はめちゃくちゃ冷たいのになんでこういう時だけ積極的に押してくるんだろう。
「ねぇツカサお兄ちゃん!どうしてお返事しないの?」
「博士、博士!悪ノリでそういうのやめてください!」
その瞬間、扉がバァーンと開かれた。
扉の前に立つは能面の如き無表情を貼り付けた妹。視線は極寒、怒気にて舞う髪を以て、姿はさながら幽鬼の如く。
「に い さ ん ?」
殺意マシマシ怒気マシマシ棺桶大盛りで。
「やあ、こんにちはカレンちゃん」
荒ぶる鬼神の前で、平然と片手を上げて挨拶をするカシワギ博士。ツカサは天運を祈るのみで動けそうにない。
「あ、なんだカシワギ博士でしたか。こんにちは」
「……え、カレンちゃんなに?ってカシワギ博士がわかる……?」
急激に怒りを収め、普通に挨拶する妹。
哀れツカサは状況についていけずオロオロするばかりである。
「なんじゃ、まだ伝えておらんかったのか?」
「面倒だったのでつい」
呆れた様子で首を振る博士と、『カレン』と、本名ではない名前で呼ばれる妹。
恐怖と疑問でオーバーヒート気味のツカサの脳内で、何がどうなっているのかと考えること数十秒。そして思いついた答えとは!
「……あっ!まさかお前!」
「ええ、その通りです兄さん」
ツカサが答えるよりも先に、カレンはピシッと敬礼のポーズをとる。
「今月よりアルバイトとして雇われました、ダークエルダー見習い隊員『大杉 カレン』です。どうかよろしくお願いします、ツカサ兄さん」
そう言って、ずっと仕込んでいたイタズラが成功したかのような、満面の笑みでカレンは微笑んだのであった。
◇
ゴタゴタいいつつもとりあえず落ち着いて。
カシワギ博士が基地へと戻り、病室ではツカサとカレンが二人きりとなった。
「で、アルバイトで見習い隊員ってのはどういう事だ。父さん達は知ってるのか?」
起きてから色々ありすぎて、痛めたかどうかも分からない胃を押えるツカサ。多分これはストレスが発端である。
対して妹……カレンは特に気にした様子もなくお見舞いにと持ってきた林檎を剥いている。
「ちゃんと伝えてあります。というかダークエルダーって、両親の了承をちゃんと得ないと雇ってくれないですよ。知らなかったのは兄さんだけです」
できましたレッサーパンダです、と出来上がった林檎を皿に乗せて差し出してくれるカレン。
自分だけハブられていた事に悲しめばいいのか、林檎を丸ごと一個を使って仕上げられた見事なレッサーパンダの像に驚けばいいのか。削った身と本体は後でツカサが美味しくいただきました。
「とにかく私は、見習いとはいえダークエルダーのメンバーとなりました。基本は学校での情報収集やダークエルダー直営店の店員となりますが、同じ志を持つ仲間です。……今度は置いていかせませんからね?」
カレンはそう言うと軽く微笑んで、そっと席を立ち外へと向かう。
「もう帰るのか?」
「ええ、兄さんの顔を見れましたから」
肩あたりまで伸ばした長い黒髪を振り、ツカサに向き直ってから小さく手を振ってくれる。
「退院したら、今度はどこかでご飯でも食べましょう。兄さんの奢りでね」
「退院祝いじゃないのか……」
「私に心配をかけさせたお詫びだと思ってください」
それではまた、とカレンは出ていく。久々の再会だというのに割と忙しなかった気もするが、色々忙しくて疲れていたのも確かだ。
ツカサが布団に潜り込むと、すぐに眠気がやってきた。
デートの途中で散々な目に会い、お見舞いも爆弾やら何やらを投下されただけで全く心が休まらなかったワケだが。それでも言葉では言い表しにくいような安心感を感じながら、深い眠りへと落ちていった。
遅くなりました。もっと展開を早くしたいとは思っているのですが、思いついた事を書いているとどうしても間延びしてしまいますね。
きっとプロットを書かないのが原因だと思います。これからも多分書きませんが。