転勤 その2
「聞いているかは分からんが、ワシのいる支部は人手不足でのう。まぁわざわざ怪我をしそうな場所に自分から行きたいなんて言う人間は稀じゃろ?じゃから君の話を聞いた時、即引き抜かねばと思っての」
「は、はぁ……」
「人間の心は移ろいやすいからの。思い立っては吉日と、そう言うじゃろ?」
「いやあの、まず疑問点から聞いていいですか。どうして見た目幼女なのにその口調なのとか、どうして見た目幼女なのに博士なのとか、どうして見た目幼女なのに上司なのとか……」
「お主、やけに見た目幼女というフレーズに拘るのう……」
荷物の何一つもなくなった部屋で、ツカサとカシワギ博士と名乗る幼女は缶コーヒーを片手に話を始める。もっともツカサが質問責めをするだけなのだが。
「まず、ワシの名をどこかで聞いたことはないのか?怪人スーツやら防御力に優れた黒タイツとか作ったの、ワシなんじゃが」
では改めて名乗ろうか、と幼女は立ち上がる。そしてその場でくるりと回り、
「ダークエルダーの頭脳にして、全ての発明品の生みの親!社員コードネームカシワギ!人はワシの事を『ロリコンが行き過ぎて自ら幼女になった変態』、『男たちの夢の最先端』、『てかあのおっさん幼女たまにボケて全裸で徘徊すんのなんとかならね?』と呼ばれておる!」
そう言ってビシッとポーズを決めた。
「あ、確かに聞いたことがあるような……」
主に後半の言われようのせいで、ツカサの脳裏に引っかかっていた情報が出てくる。
曰く、自身の肉体を改造し幼女となった天才、怪人スーツや黒タイツと呼ばれる組織の主力兵器の生みの親、組織一の頭脳と肉体的若さを持つ変態など、至る所で噂のあがる人だったはずだ。
「でも、なんでそんなすごい人が直接私なんかを引き抜きに?」
部下に任せればいいのでは?というと、カシワギ博士は何故か肩を揺らして笑った。
「いやなに、土壇場で迷われても嫌なのでな。引越し作業までやったのを戻せとも言われても面倒じゃ。なのでな……」
博士はそう言うと、どこからともなくアタッシュケースを取り出した。どうツッコミを入れようか迷うツカサを尻目に、博士は手早くソレの鍵を開け、ツカサに見せるように開ける。
「実力行使で連れていこうと、そういう事でな」
「な、なな……!これはぁぁぁ!」
アタッシュケースの中には、1本のベルトが収まっていた。しかしソレはデザインが少々奇抜で、そうまるで……
「特撮でよく見る変身ベルトみたいな形をしてるじゃろう?」
瞳を輝かせるツカサの前で、博士はニヤリと口元を歪ませた。