とある冬の日 その5
アクセサリーショップへとやってきたツカサ達。
そこでカレンと土浦 楓は散々悩み、互いに互いの似合うと思う物を選ぼうという結論に落ち着いた。
カレンから土浦へはロケットペンダントを、土浦からカレンへは耳飾りが選ばれたらしい。
そして何故かツカサには、あまり飾り気のない細身のシルバーブレスレットが選ばれた。
「……ん? なんで俺用のも選んでるの?」
「だってせっかく来たんですから、兄さんもひとつくらい普段使いのアクセサリーを付けましょうよ」
そう言うカレンは、周囲の客に見えないように自身の袖を捲り、腕に付けたブレスレットを見せ付ける。
それはブレイヴ・エレメンツの変身アイテムらしく、カレンや楓はもちろん、日向や水鏡達も身に付けているものだ。
それを踏まえて先程のブレスレットを見れば、少しだけ造形が似ているようにも見える。
「これでお揃い……とはちょっと言い難いですけど。ボク達も色んな戦場で一緒に戦った仲なワケですし……どうですか?」
土浦は自信の無さそうに言うが、ツカサとしては上目遣いに見られる今の状況の方が落ち着かない。
ただでさえ土浦は美人なのだ、そんな強請るような目で見られてツカサが拒否できるはずもない。
「わ、分かったよ……」
「「やった」」
小さくハイタッチする二人。喜んでくれるのはいいが、支払いはもちろんツカサだし変身アイテムは日向や水鏡も付けているので、局所的に流行った小物みたいな扱いになりそうだが……まぁとやかくは言うまい。
とにかくその三点を会計して外に出る。
時刻はそろそろ五時。冬なのでもう日が沈もうとしている頃合だが、まだもう少し連れ回す先がある。
「お待ちしておりました、大杉様方。お嬢様がお待ちしております」
退店した直後、ツカサ達を待ち構えていたかのように声が掛かる。
そちらを見やれば、そこには立派なリムジンと執事らしき人物がひとり、こちらを出迎えるような姿勢で待機していた。
「……え、何、何事ですか?」
完全に困惑してツカサの後ろへと隠れてしまったカレンと土浦に苦笑しながら、ツカサは臆することなく執事らしき人物へと歩み寄る。
「久しぶり……と言うほどでもないか。マーテルレッド」
執事……マーテルレッドはその呼び掛けに顔を上げたが、困惑している様子。
「あー……」
そりゃ素顔を見せていないのだから困惑するのも当たり前かと、ツカサはヴォルト・ギアから黒雷ベルトを取り出して見せ付ける。
未来の機械人形は記憶力もいいのか、それだけでツカサが何者かを理解したようだった。
「……なんだ、キャロル嬢の賓客と聞いて何者かと思っていたが。確かに納得できるな」
マーテルレッドはシニカルに笑うと、「話は移動しながらにしよう」とツカサ達にリムジンに乗るように促す。
カレン達は警戒しているのか、未だに距離を置いているのだが、
「大丈夫、コイツは今キャロル専属の護衛になってるんだそうだ。今からキャロルに会いにいくって話になってるから、迎えにきてくれたんだよ」
その言葉にようやく警戒を解いたのか、ブレスレットから手を離した。
機械人形とはつい先日相対したばかりだ、警戒するもの無理はないだろう。
説明しなかったツカサも悪いが、ツカサだってマーテルレッドがこの時代に残って執事をやっているという話は先程聞いたのだ。
恨みがましい目で見られても困る。
とにかく、カレン達がリムジンへと乗り込んでいる間にツカサは自家用車をヴォルト・ギアを通じて格納庫へと収納。
この自動車サイズすら自由に出し入れ可能という専売特許があるからこそ自家用車を買ったとも言える。
いずれは専用のガレージと特撮のモデルとなったバイクを数台揃えて、その日の気分で乗り換えながらツーリングを楽しむのが密かな夢である。
閑話休題。
二人が乗り込んだのを確認した後、ツカサは彼女らと対面になるよう座るつもりだったのだが……。
「司さんっ! こっち座ってください!」
「いえ司様! そちらに三人で座るよりもこちらの方が広いですわ! さぁ、さぁ!」
今しがた乗り込んだ土浦と、何故か中に居たキャロルに腕を引かれる形となったツカサは思わず“気功”を使って抗ってしまった。
「な、なんだどうした!? なんでキャロルまで乗ってるんだ!?」
本来ならばこのアクセサリーショップでピックアップされ、大使館でキャロルと会う予定だったはずだ。
思えばツカサ達のような一般人を迎えに来るのにリムジンというのも何か変だなとは思ったが、まさか親善大使本人が乗っていようとは。
「そりゃあもうっ! 司様に一秒でも早くお会いするためですもの! さぁさ、早く私の隣に!!」
「お姫様の隣とか司さんが緊張しちゃうでしょー!? ボクの隣で何か悪いことでもあるの!?」
「こういう機会しか会うことのない私に譲ってくれてもいいではありませんか!?」
「ぐっ……!?」
謎の言い争いに決着が着いたようだけど、ツカサはツカサで助手席に座ろうかと考えていたのだが……。
「こっちはダメだぞ。暴漢迎撃用に武装を積んでるからな」
そうマーテルレッドに言われてしまった為、仕方なくキャロルの横へと座る羽目になったとさ。
いや、美人の隣とか勘弁して欲しいのでせめてカレンの隣ではダメだったんですかね、と思いつつも、腕に抱き着かれる分には悪い気はしない。
真正面に座る土浦が何とも言えない表情をしているのは少し気になるが。
「……ところで兄さん、どうしていきなりキャロルと会おうだなんて考えたんです? 楓とのデート、と言いましたよね?」
ジト目でツカサを見るカレン。下手な言い訳は通用しないぞ、と言わんばかりの眼光は普通に怖いのだが、これにはきちんとした理由がある。
「実は……」
「司様が一度実地でテーブルマナーを確認したいと仰っていたので、本日お声を掛けられた際に丁度いいと思ってレストランを予約しましたの。一般人に高級レストランは縁遠いから、おふたりも招待したいと言われたら断れませんわ!」
「……ということです、はい」
ツカサが説明しようとした事を全て言われてしまった。
元々は、ルミナストーンの持ち主としてとある業界で名を知られ始めたツカサが、万が一にでもお偉いさんとかに食事に誘われたりした場合にテーブルマナーを知らないと困るので学びたいとカシワギ博士に相談したのがきっかけだ。
それが何故か巡り巡ってキャロルの下まで情報が辿り着いたらしい。
デートとはいえコブ付き。本来ならば二人きりとかの方がいいのかもしれないが、その前提が最初から崩れているのならばせめて美味しい物を食べてもらおう、という思いつきによって現在に至る。
気遣いついでに仲の良かったキャロルとの再会もお膳立てできれば、と思ってセッティングしたのだが……やはり滑ったのだろうか?
「兄さん、とりあえず30点。でも色々と考えての行動だろうと仮定して一応+11点。コブ付きではない時はこんな事しないように」
「はい……」
合計41点。赤点ギリギリ回避。
「まぁ……ボクはキャロルの様子も知りたかったし、高級レストランってのも興味あるし。こんなサプライズみたいな形じゃなければ文句はないかな~」
「はい……」
やはりサプライズというのはあまりウケないらしい。
それが知れただけでも僥倖だろうか。
「着きましたわ」
キャロルのその声にツカサ達はスモークガラス越しに外を見る。
しかしそこに見えるのは到底レストランとは思えないような……はっきり言おう、洋服店である。
「疑問に思うのは当然だと思いますので説明しますわね。これから向かう予定の『ブルーアイ・レッドデーモン』にはドレスコードがありまして。今から皆様には礼装に着替えてもらいます」
また服、服である。
せっかく外行き用のかっこいい服を着こなせるよう努力していたというのに、今度は礼装ときた。
何もかも段取りの悪いツカサのせいではあるのだが、どうやら今日は一日中服について考えねばならないらしい。
せーの、
「もう服選びは懲り懲りだよ~……」
ここ、昔のアニメみたいに黒背景で閉じてください。
Q:どうしてマーテルレッドはこの時代に残ったの?
A:マーテルレッド「知りたいか? そうだな、まず君達の時代を正史とした場合、俺達の歴史は分史、又はパラレルワールドと呼ばれる存在になる。本来ならば別々の歴史を辿り、それぞれがそれぞれらしい終わりを迎えるまで続くわけなんだが……。今回は歴史に“神様”が介入したというのが問題なんだ。神様が介入したということは、この正史世界の影響力は強いということになる。万が一にも各パラレルワールドの歴史の中から一部を閉じなければならない、みたいな状況になった時に、君達は最優先で保護されるんだ。そうなると弱るのが我らの分史という事でね。何せ邪神が復活した/しないという大きな選択肢を違えているワケだから、正史から遠い存在とも言えるんだ。そうするといつ我らの歴史が消えてなくなるか分かったもんじゃなくてね。なので俺達がこちらの正史世界に残ることで、『我らの歴史は確かに存在した』という存在証明を残す事になったんだ。こうすれば正史世界と深い関わりを持つ我らの分史は生き残りやすくなる、というのが世界分史学者達の見解でね。おかげさまでキャロル嬢の能力が効かないという利点を活かして執事の仕事を仰せつかったワケだが……まぁ、楽しくやってくさ」
Q:簡単に言うと?
A:マーテルレッドがこの時代に残る限り、彼らの歩んだ未来は決して無かったことにはできない。
Q:この話いる?
A:本編にねじ込むと流石にくどいかなって思ったのでコチラに書いただけでぇーす!!