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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第九章 『悪の組織と冬の寒さと』
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とある冬の日 その3

 ツカサの自家用車で走ることしばらく。

 到着したのはこの辺りでは一番大きいショッピングモールだ。

 数多のテナントや映画館まで併設されたこの施設は、端から端まで迷わず歩いても10分以上かかる程度には広大である。言ってしまえば縦長なのだが、その分多くの店舗が入っておりメンズの服を取り扱っている店舗もそれなりにある。

 まぁツカサは今までそのお店には入った事はないのだが。

 「今までどこで服を買っていたんですか」

 「いやだって、着られたら何でもいいし……」

 ツカサは去年の今頃に比べて筋肉質になっている為、ワンサイズ上を買うことを余儀なくされた。その時でも近場で売ってる安物で済ませていたのだが、まさかオシャレ着が必要になるとは思ってもいなかったのだ。


 「ボクは暇してたしいいんだけど、男物の服の善し悪しはちょっと自信ないよ?」

 「いいんですよ、兄さんに丸投げするよりだいぶマシですから」

 暗にセンスが悪いと言われているようだが、事実なので何も言えない。

 そんなこんなで一件目。

 「……これは流石に堅苦し過ぎない?」

 最初に着せられたのはワイシャツにお硬そうなジャケット、テーパードパンツに革靴と、ビジネス街を歩くような一式であった。

 なんというかもう、ツカサ自身から見てもカタギに見えない格好である。


 「どうですか楓、ムラッときます?」


 「いやいや、その表現はおかしいでしょ。あっちょっと待って鼻血でそう」


 「うーんでは85点。でもやっぱり学生と歩くような服ではないですね」


 カレンには高評価らしいが、ツカサからすれば肩肘が張るというか、どうにも身体を動かし難いという評価だ。

 腕の可動域が狭いというか、咄嗟の時に動いたら至る所で服が破ける気がしてしまう。

 これで女の子の隣とか歩いたら組長の一人娘と護衛にしか見えないんじゃないかな。

 「まぁいつか大人デートが必要な時に買っておきましょう。幸い兄さんのクローゼットはスカスカですし、一着くらいこういうのがあってもいいと思いますよ?」

 そうカレンに言われたのでとりあえず購入。ヴォルト・ギアに入れてしまえば持ち運びの手間が無くて有難い。


 そして二件目。

 ここは先ほどよりもカジュアル寄りな店舗だが、それでも高級品寄りであるのは間違いない。

 服で五桁とか普段のツカサなら絶対に見向きもしないだろう。

 しかし今回はそういう服も必要になるかと、値段に対して拒絶反応を起こしそうになりながら眺めていると……。

 「おっ、超人(スーパーマン)じゃないか。久しぶりだな」

 なんて、男の声が響いた。

 どこかで聞き覚えのある声に振り向いたツカサの前に居たのは、かつてワイバーンの卵争奪戦や銀行強盗の一件で居合わせた人物。

 国防警察の一員、青羽 (あきら)だった。


 「……おー、久しぶり。そういやコンフェスの時には顔合わせてないもんな、元気そうじゃないか」

 コンサート・フェスティバルの一件では彼ら国防警察も出動していたそうだが、最後までツカサとは配置が合わなかった。

 連絡先を交換したような仲でもないので、こうして街中で出会うのは奇跡に近い偶然とも言えるだろう。

 「アンタも服を買いに来たのか?」

 そう言ってツカサの隣に並んだ翔は、適当な服を選ぶと値札を確認して露骨に顔を顰めた。

 そりゃブランド品とかに興味のない男はそうもなる。


 「……まぁな。冬物でイイ感じのを持ってないから探しにきたんだ」

 翔が話しかけてきた時点でカレン達は距離を取ったので、わざわざ本当の事を言う必要はないだろう。

 公衆の面前で他人を超人呼ばわりする変人とは関わりたくない気持ちは分かるよ。

 「そういうアンタも買い物かい?」

 「そ。まぁ俺はこのモッ〇パーカに合わせるって目的があるからまだ分かりやすいけどな」

 そう言って翔が示すのは、自身が羽織っている深緑っぽいコートだ。


 「……なんか、どっかで見覚えがあるなそれ」


 「おっ、やっぱり同世代は分かるか? 実はこれ、『踊り狂う大大大捜査線』で主人公の青畑が着てたやつのレプリカ品」


 「あっ! あー既視感それか!」


 一昔前に話題となった刑事ドラマで、劇場版三作が大ヒットしたおかげでスピンオフも大量に作られた作品だ。

 その作品の主人公である青畑警部補が愛用していたコートと瓜二つだったので見覚えがあったのだ。

 「俺はドラマ時代からのファンでな。警察官になってから特注で作ってもらったんだ。冬にはコレに合わせる服を買うって決めてるんだよ」

 なるほど、お気に入りのコートを先に決めてそれに合わせる服を探す、という方法もあるのか。

 だがそれは何かしらに愛着がないと難しいものなので、ツカサには取れない手段だが……参考にはなる。


 「服選びって奥深いんだなぁ」

 サイズが合って着れたらいいくらいにしか考えてこなかったツカサからすれば、服とはとにかく体の動きを邪魔しなければいいくらいの物であったが。そこに“オシャレ”という概念を加えるとまた別の考え方が必要になる。

 そんな当たり前の事を改めて思い知ったのだった。

 「ありがとう、俺も何だかイイ感じの服を見繕える気がしてきたわ」

 「おう。何だか知らんが頑張れよ」

 そう言って互いに軽く手を振って解散……かと思いきや、翔はキョロキョロと周囲を見回すとツカサの肩と触れるくらいまで近くに寄ってきた。


 なんだなんだと思っていたが、翔は小声で、

 「一応アンタも幹部だったよな。だったらひとつ、報告しておく」

 なんて宣った。

 幹部の話をするとはつまりダークエルダー関連の話になるということ。

 休日のショッピングモールで行う話ではないが、ここで会ったのも何かの縁だと思ったのだろう。

 なのでツカサも小声で「聞こうか」と返す。


 「あくまでも噂程度で、情報の精査はまだなんだが。……最近ネット上で、夢見が悪いって話が多く出回るようになってな。高名な占い師や予知夢を売りにしてるインフルエンサー達が『夢で天使を見た』という話をよくしているらしい」


 「天使? 本当なのか?」


 「そうだ。こっちも気になって関東にいる複数の占い師に当たってみたが、結構な人数が同じ話をしている。中には連日、天使に襲われた夢を見ているって人もいたらしい」


 「……そう、か。もう時間が無いのかもな」


 「そっちの首尾はどうなんだ?」


 「準備はもうほぼ完了と言っていい。後は仕上げを待つのみって感じだな」


 「間に合うのか?」


 「間に合わせるのさ、でないと俺達のやってきた事が無駄になる」


 「そうか、ならいい。この話は精査のあと改めて組織にも回すけど、アンタからも一応話しておいてくれ」


 「ああ。教えてくれて助かった」


 「良いってことよ。今はまだ、平和を楽しむんだな、怪人さんよ」


 「言ってくれるぜ警察官。悪の組織とズブズブなクセに」


 「ハハッ、違いねえ。……そんじゃ、またな」


 「おう」


 小声での会話が終わり、翔はサッと身を翻して店を去っていく。きっと別の店に服を見に行ったのだろう。

 「さて、俺はまず今日と明日をどうにかする所から始めますか」

 きな臭い話も多いが、まずは目先のピンチをどうにかせねばなるまい。そう考えてツカサは、まずは気に入るコートがないかとアウターのコーナーへと移ったのだった。

 別名『青〇コート』と呼ばれるあのコート、2万円程で買えるみたいですよ。

 私はThe movie三部作しか観てないですけど。

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