とある冬の日 その2
動きが少ないので地の文少なめ会話が多め。
地の文を挟む時は行間を空けないような書き方をしてるのですが、会話オンリーだと見づらいかなぁとも思っててぇ……正解が分からない。
「土浦さんと……デデデデ、デートォ!?」
カレンから告げられた買い物に付き合う条件とは、カレンの親友とも呼べる土浦 楓とデートせよというものだった。
「声でっか……。いいじゃないですか、明日には陽先輩とデートなんですから。前日に楓ともデートしてあげてくださいよ」
カレンはそう気軽に言ってくれるが、ツカサはこれまで彼女いない歴=年齢な身だ。
いくら顔見知り相手とはいえ、そして妹が一生に付いてくるとはいえ、だ。
「俺なんかと一緒に居ても面白くないでしょ」
それがツカサの正直な思いだ。
日向 陽とならば特撮という共通の趣味もあるし、大方ヒーローショーを観て感想会をして終わりになるだろう。
多少は寄り道もするかもしれないが、あくまでも主体は日向なのでツカサは付いていくだけでも問題ない、と思いたい。
しかし土浦さんととなると、正直妹の親友というくらいの情報しかなく、デートと意識しようにも『何をどうすればいいか』というレベルで分からない事だらけだ。
買い物に付き合わせたお礼にご飯でも奢ればいいのだろうか?
そのご飯ですら、選択肢を間違えば即座に嫌われるようなトラップだらけなのだ。
実際怖い。
「楽しいかどうかではなくて、楽しませるのが兄さんの役目です。社会人にまでなって、なんと情けない……」
「ぐっ……! そ、そうは言ってもだな? 俺はこの歳にもなって彼女もいた事ないんだから、多少は手心を……」
「言い訳しない! ウダウダ言ってるから彼女ができないんですよ!」
「うぐぐ……」
「あとご飯の好みくらい自分で聞いてくださいね? デートは兄さん主体で、せめて夕方までは一緒にいてください。その条件を飲めないのであれば、買い物にはついて行ってあげませんから」
「ぐぬぬ……」
完全に言い負かされたツカサはとりあえず倒れ伏した。
どうやらもうデートをするという事は確定事項のようで、逃れられぬ運命なのかもしれない。
「やだなー、嫌われたくないなー……。情けない奴ッて罵倒されたらしばらく飯が喉を通らなくなる気がするよ……」
そんな情けない姿を見せるツカサを、カレンは何を思ったかその背中を座椅子代わりに尻に敷いた。
ペシペシとツカサの尻を叩くカレン。どうやら退く気はないらしい。ツカサ的にはこれでも久しぶりのスキンシップなので喜ばしいことなのだが。
「あの子がそんな簡単に兄さんを嫌いになるわけないじゃないですか」
背中に乗られている為、ツカサからカレンの表情は見えないが。だけどなんとなく、その表情は柔らかいような気がした。
「……大体兄さんは、自己評価が低いんですよ」
「というと?」
「考えてもみてくださいよ。兄さんの容姿はそこそこですが、この御時世で生身でも強いのはアピールポイントです。そして既に億万長者で、いつダークエルダーを辞めても食べていけます。社会的地位は……分かりませんけど、それでも兄さんは既に高嶺の花側の人間なんですよ?」
「いやいやいやいや」
「今の自分の預金額、昔の自分が見たらどう思います?」
「…………どうしよう、確かに俺は今、付加価値があまりに高すぎるかもしれない」
この間渡された通帳には、今まで見たこともないような桁の数字が並んでいた。
それこそ宝くじの一等を当てたようなレベル。しかもそれは今後どんどん増えていく。
そんな大金を使う予定もないし、勝手に資金運用までしてくれるというのだから減る理由もない。
「分かりましたか? 兄さんにどれだけ自信が無かろうと、今までの成果はウソをつきません。むしろ悪い女に捕まらないよう慎重に行動して欲しいくらいです」
カレンはそう言うが、今の日本にダークエルダーの幹部以上に悪い女性はいるだろうか。
ダークエルダーには歴戦の法務部も存在するので、そこの弁護士に頼めば大抵の裁判なら勝てる気がするが。
「そういうワケで……正直なところ、楓なんてどうですか? 絶賛彼氏募集中ですよ?」
「おま、兄貴に親友を勧めるなよ……」
「もうぶっちゃけますけど、楓もそれなりに兄さんのコト気に入ってますからね? 兄さんの気持ちひとつで付き合えるかもしれませんよ?」
「だから親友をプッシュするなよ! 学生と付き合ったら俺が犯罪者になるだろうが!」
「では卒業したら付き合えるんですか?」
「えぇ……? そりゃあ、お互いの気持ちがそういう方向になったらなぁ……。いやいや、まず土浦さんが俺のことを好きになるわけないだろ?」
「あーはいはい、わかりました。それでいいのでとりあえず準備してきて下さい。楓が来ちゃいますよ」
「おっと、そうだった」
準備と言っても服を買いに行く服はギリギリあった(と言っても無難な柄のパーカーだが)のでそれに着替えるだけだが。
髪型とかはあまり気にしていないのでいつも通り。アクセサリー類も持っていないのでヴォルト・ギアくらいしか小物がない。オタクファッションなんてこんなものだ。
それでも一応、女装させられていた時に渡された香水だけは付けていく。付けすぎは良くないらしいので、手首に2、3回吹き掛けてそれを首周りに塗り広げれば終わりだ。
「……まぁ及第点にしておきましょう。これが普通のデートならばアウトですが」
カレンから小言も言われつつ、待つことしばらく。
時間通りにチャイムが鳴ったのでカレンと共に外へと出れば、そこには普段よりオシャレをしている気がする土浦の姿があった。
「こんにちは土浦さん、今日はよろしくお願いします」
「こっこちらこそ……よろしく、お願いします……」
視線が彷徨っていたり髪を指で巻いたりして忙しない様子だが、もしかして緊張しているのだろうか。
かく言うツカサもそれなりに緊張してはいるが、カッコ悪いところを見せられないからと無理していつも通りに振舞っている。
「はいはい、それじゃあ出発しましょうか。ショッピングモールにメンズの店が入ってたと思うので、そちらを目指しましょう」
カレンの号令の下、ツカサ達はショッピングモールへと移動したのだった。
※1 ツカサが準備に入るまで電話は繋ぎっぱなしでした。もちろん兄妹の会話は聴こえてます。
※2 移動はツカサの自家用車です。幹部になった辺りで今人気の車種を一括払いで買いました。