神様対談
水の広場公園での一件をなぁなぁで終わらせたツカサは、キャロルを無事にホテルへと送り届けた後に寄り道もせずに帰宅した。
どうやらキャロルは今まで人間関係で拗れたことが無い(能力の仕様上向き合った人全員がキャロルを好きになる為)ので、ツカサのような『思うようにいかない人』を攻略したくなってしまったらしい。
お転婆お姫様とあれ以上一緒に居たら何をされるか分かったもんじゃないので、忍者二人に援護を頼んで無事に事なきを得たのである。
「怒涛の一日だった……」
先に帰宅しているカレンはもう就寝したらしく、ノアとラミィ・エーミルはこれから夜遊びに出掛けると言ってさっさと出ていってしまった。
まぁツカサとしても今日だけは何も考えず布団に潜りたかったので問題はない。
「コンサート・フェスティバルの成功に、キャロルの正体に、ロボットタイムトラベラーに、ウンディーネの告白に、半龍に、半神化に、キャロルのあれこれ……」
たった一日にあまりにも情報量を詰め込み過ぎて、ツカサの脳みそはパンク寸前である。
一刻も早く寝てしまって脳をリフレッシュしてしまいたい。
ツカサはさっさと身支度を済ませ、布団へと潜る。
後は何も考えずに寝付ければいいのだが……。
その時ツカサのスマホから通知音が響き、ショートメッセージの受信を知らせた。
億劫ながらもメッセージを開けば、差出人はカシワギ博士。
『分かっておるとは思うが明日は朝九時から病院で検査を受けるように。その後にまとまった休みを取らせるので、後日出社するまでに報告書の為のメモ書きくらいは用意しておくこと』
さすがのカシワギ博士も『今すぐ』とは言わない辺り、配慮はしてくれているのだろう。それはもうツカサの状態が手遅れだとも取れるのだが……まぁ今はいいか。
「おやすみ……」
誰もいないのを承知で一声掛けて、ツカサはすぐに眠りに落ちた。
◇
そして目覚めると、そこは白い空間だった。
「……あー、既視感しかないなぁ………」
ぐるりと視線を回すと、案の定というかツカサの背後にはちゃぶ台の傍に神様(?)が座って手招きしている。
「お久しぶりです」
ツカサはそう声を掛けながら、向かい側に用意された座布団へと座る。
なんとなくだが呼び出される気はしていたのだ。こんなにすぐにとは思わなかったけれど。
「うむ、うむ。壮健なようで何よりじゃな」
神様(?)は笑いながら茶を啜る。ツカサも勧められるままに啜れば、実家で飲んだ番茶の味がした。
「……して、何か私に用事でしょうか?」
神様(?)にこうして呼び出されたという事は、またして欲しい事があるのか話があるかのどちらかであろう。
また邪神戦線のような大事にならなければよいが……とツカサが戦々恐々としていても、神様(?)は顔色ひとつ変えはしない。
「そう畏まらんでもよい。ワシだって成り立ちはキミとそう変わらんのじゃし、今回はただの挨拶じゃよ。これから同門となるキミへ、な」
そう言って神様(?)は居住まいを正す。
「今まで名乗りもせずにおったな。ワシは皇天馬命。ワシより更に偉い神様達の小間使いであり、キミの死後は同期となる可能性のある者じゃ。よろしくな、ツカサくん」
神様(?)改め皇天馬命は、満面の笑みを浮かべて右手を差し出してきた。
握手を求めているようだ。
「はぁ……よろしくお願いいたします………」
ツカサはよく分からずに握手を返したが、つまりこれはノアの言っていた死後も労働する事への説明会ということだろうか。
ツカサがそうなのかと率直に聞いてみると、皇天馬命は「当たらずも遠からずじゃな」と煎餅を食む。
「キミの場合は、ワシのように小間使いとなるか大精霊ノアと共に現世を見守り続けるかの二択を選べるんじゃ」
「なんですと」
それからはしばらく説明が続いた。
神様の小間使いとして雑用を頑張れば出世できるかもしれないが、ノアと共に在る事を選べば彼女と地上で永く共に居られるが、出世の道は遠のくという話や、ルミナスエネルギーを取り込んだ者ができるようになることと苦手なこと。
天界での勢力図や、別世界の星の管理者やこの星の未来について。
その他、様々な話を聞かせてもらったのだが、どれも現実味のない話ばかりでツカサは頷くばかりしかできなかった。
興味深かった話としては、ルミナスエネルギーの根源である緑光輪の女神ルミナスティアー様が別の世界線を買い取ってそちらの管理に付きっきりだという話くらいだろうか。
他はもう実感の湧かないものばかりで、ファンタジーの物語設定を聞いているような気分になってしまった。
「今はそんなもんでよいよ。今日はキミが半神化したばかりで、一番干渉しやすいタイミングじゃったから大急ぎで夢に現れただけじゃからのう」
皇天馬命は呵呵と笑い、そしてちゃぶ台の下から引っ張り出した物をツカサへと差し出した。
「なんですかそれ……メダル?」
ツカサの前に置かれたのは手の平くらいの大きさのメダルだった。
「ワシからのプレゼントじゃ」
「??? ……ありがとう、ございます……?」
とりあえず受け取ってはみたものの、印象としては変な刻印が裏表に刻まれている銀メダルだ。
当然ツカサには刻印の意味が分からないし、このメダルがどんな意味を持つのかすら理解できない。
「そのメダルは“奇跡を呼び込むメダル”と呼ばれていてな。人類最大のピンチの時、キミ達だけのチカラではどうしようもなくなった時に砕くとよい」
「ええっ!? 砕いちゃっていいんですか!?」
「むしろ砕く事を前提とした使い捨てアイテムじゃからな。いくら神とて奇跡を安売りはせんよ。……キミは現代を生きる半神として、人類の命運を託すに値すると判断してのプレゼントじゃ。決して無駄遣いはせんように」
「……は、はい………」
人類の命運とは、また大きな話になってきた。
これからも邪神戦線以上の災害が起こる可能性があると示唆されてしまった形になる。
「まぁ、あれだけヒーローがいるんじゃ。ワシの言うピンチというのも大した被害もなく終わる可能性はあるがの」
皇天馬命がそう笑うと同時にツカサの意識は少しずつだが遠のいていく。
「そろそろ目覚めの時間のようじゃな。今日は久しぶりに人と話せて楽しかったぞツカサくん。大精霊ノアと瀧宮 帝と『白鶴八相』によろしく伝えておいてくれい」
その言葉を最後に、ツカサの意識は後方へと投げ出されるように遠のき、そして……。
「あだっ!?」
ベッドの縁から落下し思いっきり頭を打ったことで、ツカサの意識は完全に覚醒した。
「つぅ~~~……」
半神となっても痛いものは痛いのだと再確認できた……とはいえ、寝起きの不意打ちダメージは堪える。
のそのそと起き上がってベッドを見れば、そこにはベッドの中央を独占するようにノア(人間体)とラミィ・エーミルが眠っているし、枕の横には夢で見たメダルが無造作に置かれている。
「……なんだかもうよく分からねぇな………」
状況を呑み込むことを放棄したツカサは、とりあえず顔を洗うために寝間着から着替えて自室を出るのであった。