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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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キャロルのたのみごと その3

 「キャルロッツェ・エヴィン・グラハムイェーガーとしてのお願いです。司様、どうか“ワタクシのものになって”頂けませんか?」


 「やだ☆」


 一瞬の逡巡すらない拒絶の意志。

 あまりにもあっさりと断られたからなのか、キャロルが一瞬ではあるが呆然としたような表情を晒していた。

 「……えっとぉ……あの、司様……? どうして……?」

 恐る恐る、といった具合にキャロルがツカサへと手を伸ばす。

 普段のツカサならばここで一歩引いて追い討ちでもかけたかもしれないが、今のツカサは半神として気分が高揚しているので、伸ばされた手を両手で優しく包む事ができた。

 「最後の最後で欲が出たね、キャロル」

 ツカサは笑い、未だに理解ができぬという顔をするキャロルへと優しく諭すような声を出す。


 「キミの能力である<魅了(チャーム)>は確かに強力なのかもしれない。ついでに<行動の強制(ギアス)>みたいな能力もあったのかな? 後者の方を乱用しないのは色々と制限があったのかもしれないけれど……」

 ツカサが魅了について知っているのは分かっていたらしいキャロルだが、後者の能力を言い当てられたのは予想外だったらしく、慌てて距離を離そうとしたが……ツカサは掴んだその手を離そうとはしない。

 先に手を伸ばしたのはキャロルの方なのだ。淑女の手を掴んだからといって文句を言われる筋合いもないだろう。


 「……くっ! ならどうして司様には効いていないのですか!? 私の能力は無差別に相手を籠絡する魔女の如き呪い、それから逃れられるハズが……」

 開き直ったらしいキャロルは矢継ぎ早に捲し立ててくれているが、その瞳の奥底には未だに理性の光がある。

 おそらくはもう一度ギアスを掛けるつもりなのだろう。

 「またかけ直そうとしても無駄だよ。俺にはもう、キャロルの魅了は効かないからね」

 どうして無理なのかを言葉で説明するのは難しいと判断したツカサは、目視圏内に人が居ない事を確認した後に腹の底へとチカラを込める。


 一秒、二秒、三秒と過ぎて、キャロルが疑問符を浮かべた頃にそれは出現した。

 ツカサの背面、少し離れた位置に緑光が発生し、左右にぐるりと伸びて輪を描く。

 安直に『半神モード』と名付けたその状態では、どうやら後輪同様に髪と瞳孔が黄緑がかって光を放つらしく、夜間では蓄光塗料を塗ったオブジェのような様相となる。

 今はあまり目立ちたくない為に光量は抑え気味だが、光ろうと思えばフラッシュバンを凌ぐ光量まで出せるのは休憩時間に実証済だ。妹からは迷惑だと怒られたが。


 「さっきの戦闘中にこうなってね。神様のチカラを取り込んだらしくて、チカラを込めるとぼんやりと光るんだ。漫画みたいだろ?」

 ツカサはそう言って笑みを零しながら、状況が呑み込めず固まってしまったキャロルに「失礼するよ」と声を掛けてからお姫様抱っこをする。

 「えっ!? ちょっ……!?」

 「しっかり捕まっててね」

 なんだか大胆な事をしている気がするが、『半神モード』中は気が大きくなるのか自覚するまでは意識がいかない。

 ツカサはそのまま軽い調子で宙へと浮くと、公園と隣接している海面へと進路を向けそのまま滑るようにして海原へと飛び出した。


 「な、何何何なんですの!? 浮いてる!? 滑ってる!? 海面を滑っておりますの!?」

 キャロルは驚きのあまりツカサの首に抱き着いてしまっているが、少しずつ慣れてきたのか周囲にも目を向けるようになり、そして「わぁ……!」という感嘆の声を洩らした。

 元々水の広場公園はデートスポットとしても有名な場所。それは観覧車や夢の大橋などの夜景に映える名所が望める場所だからであり、それを水上から眺められる機会はそう多くはない。

 今の状況は正しく絶景というやつだろうか。


 それでもまだ満足できないツカサは、とある妙案を思いつく。

 ちょっと目立ってしまうかもしれないが、自身の光量をギリギリまで抑えれば周囲の人から認識される事はまずないだろう。

 それでも一応念の為に狐面を付け、

 「しっかり掴まっててねっ」

 「えっ、うわぁ……!」

 ツカサはキャロルを抱き抱えたまま、水上機が離水するような感覚で宙へと舞い上がった。

 キャロルが楽しめるような速度でゆっくりと上昇し、地上から照らされにくい場所を探して停滞する。


 「……素敵な町ですわね………」

 上空から眺める東京は、まるで大量に散りばめた宝石に光が反射しているような、とても幻想的な美しさを秘めていた。

 もはや眩しいとも思えるこの都市は、どれだけの怪人被害にあおうとも決して死なず、人々が活動を続ける限りいつまでも明かりを灯し続けるのだろう。

 「ね? 普通の人間なら、何の装備も無しにこうやって空を飛べたりはできないんだよ」

 これが超人となった特権かな、なんて笑えば、どうしてこんな上空へと連れてこられたのか理解出来ていなかったキャロルはハッとした表情でツカサの顔を見やる。


 「……超人になったから、私のモノにはなれないと?」


 「んー、ちょっと違うかなぁ。魅了が効かなくなっても、『対等な立場でのお付き合い』を望まれたら考えたんだけど……ね?」


 「私が能力でアナタを制御するつもりだったから見限ったと、そういう話ですのね……」


 「お友達でも恋人でもなく『所有物になれ』なんて言われたらねぇ。俺にも立場やら色々あるし、何より……」


 「何より?」


 「キミが俺を『異性』としてでなく『戦力』として見てる気がしたから」


 望まれ方の違いというか、『強いから手元に置きたい』と『好きだから傍にいて欲しい』では意味合いがまるっきり異なる。

 恋人として望まれたのならば悪い気はしないが、キャロルの場合は魅了による確保にしか思えなかったのだ。

 相手を服従させる手段があるからこその“欲張り”は、ツカサにとって好ましいものではない。

 「……なるほど。私の能力が効かない相手がいるとは思ってもいませんでしたから、そこが慢心に繋がったのかもししれませんわね」

 キャロルは己の強みを理解した上で、それを最大限に利用して生きてきたのだろう。

 おそらくだが、今の地上でキャロルの魅了に対抗できる者はそう多くはいないはず。だからこそ、他の王子達のようにキャロルの情報の一切を遮断するような行為もせずに魅了に耐えられる存在が居るなどとは考える余地もなかったのだ。

 相手が悪かった、と言うしかあるまい。


 「まぁ俺なんかよりも良い人はたくさんいるからね。もっといい男を捕まえて、幸せな人生を送りなよ」

 今日のコンサートでキャロル自身の問題はその大多数が解決したはずだ。

 それでも高貴な身分とその稀有な能力によって要らぬトラブルを引き込む可能性はあるだろうが、これから先は全てキャロルの努力によって解決しなければならない。

 ツカサの護衛任務は今日この場で以て終了となるのだから。

 これ以上はツカサから関わる気はないので、預かり知らぬ所で親善大使として健やかに生きていてもらいたい所存である。


 話はもう終わりだろう。

 後はキャロルを送迎車まで送り、一応ホテルまで見守れば今日のツカサの仕事はお終いだ。

 キャロルをお姫様抱っこして空を飛ぶ、なんて余計な事をしてしまったが、いい思い出になれば幸いである。

 ツカサはキャロルを抱き抱えたまま元の公園まで戻り、ゆっくりと彼女を下ろす。

 周囲に人目がないかだけ確認し、『半神モード』を解除。

 狐面を外し、ふと視線をキャロルへと向けると……。


 「──」

 ツカサの唇に、何かが触れた感覚がした。

 いや、これは何かが、なんて誤魔化せるものではない。

 睫毛の本数まで数えられそうなくらいに接近したキャロルの顔。彼女の唇はツカサのモノと触れ合っているのだ。

 突然のことに身動きが取れないまま数秒。

 「……ふぅ………」

 ゆっくりと顔を離したキャロルは、若干頬を染めながらぎこちない笑みを浮かべる。


 「今回“は”フラれてしまいましたが……まだチャンスがありそうで安心しましたわ」

 何故だか楽しそうに()()()()ながら、キャロルはツカサの胸板を指先でつつく。

 その顔はどことなく挑戦的で、目の前にいる相手にフラれたばかりだとはとても思えない。

 「チャンスって……?」

 当然の疑問を投げかけるツカサに、キャロルは「もちろんアナタを手に入れるチャンスですの」と悪びれる様子もなく宣う。

 「私の能力が効かないだけで、私のことを嫌いになったワケではなさそうなので。五日間でオトせないのならば、今度は時間を掛けてゆっくり攻略するだけですわ!」


 どうやらキャロルは諦める気がないらしく、更にはもう一度キスをしようと顔を近付けてくる始末。

 「ちょっ……ちょちょちょ……! ダメだって!」

 慌てて肩を掴んで引き離せば、頬を膨らませつつもきちんと引き下がってくれた。

 「……脈はありそうですので、そういう方向で攻めるのもありですわね」

 何やら不穏な事を言っているが、ツカサ的には未だに疑問符で頭がいっぱいだ。


 「なっ、何を根拠に脈があるとかそういう話をしているんだっ!?」

 「あら、気付いておりませんの?」

 先程からテンパってばかりのツカサに、キャロルはいたずらっ子みたいな笑みを向け、

 「だって司様、ずぅっと顔が赤いですわよ?」

 確認したくもない事実を突きつけられ、ツカサは慌てて顔を背ける事しかできなかった。



 ◇



 「……いやー、青いっスねぇ~」

 「あんな女泣かせみたいなツラしといて、内面はウブなんだねぇ……」

 ツカサ達の押し問答を眺める影がふたつ。スズと枢 環。

 彼女達はキャロルの護衛として常に有視界距離に留まっており、互いに別の忍術でツカサ達の会話を全て立ち聞きしていた。

 さっさと帰ってくれないと自分達の帰りも遅くなる、という不満を抱えながらも、キャロルとツカサのアオハル事情には多少の興味が湧いたので急かさずにいるのである。


 「ツカサさんも、今フリーなら付き合うくらいしてやればいいのにねぇ」


 「あー、いない歴=年齢って言ってたっスね。大方キャロルが美人だから自分とは釣り合わない、とか思ってるんじゃないっスか?」


 「……顔はそこそこで組織の幹部でアホほど強い、オマケに金持ちで大精霊の契約者なんて、逆にどんな女なら釣り合うって言うんだい?」


 「スペックだけ見れば化け物みたいな優良物件なんスけどね。密かに狙ってる人もいるらしいっスけど、『自分の横にノア様やラミィさんが立つのが嫌すぎる』ってみんな断念するらしいっス」


 「あぁ~、あの衰えない美貌がずっと傍にいるとか、耐えられない人は絶対に無理さね」


 「加えて本人の本質はオタクなので、そちらも篩として機能してるっス」


 「……彼も苦労してるんだねぇ……」


 キャロルの護衛の片手間に、ふたりは珈琲を飲みながら雑談に花を咲かせる。

 祭りの余韻は既に消え去り、夜の街はまた東京としての本来の騒がしさを取り戻そうとしていた。


 長い長い一日が今、終わる。

 残念ながら、キャロルのヒロインルートは豊橋送り(ウラバナシifルート行き)です。

 早めに書けたらいいなー(まだ着手すらしていない)

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