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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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キャロルのたのみごと その1

 黒雷が人間性を犠牲にした事で、無事に邪気に囚われていた斉藤くんを救助できた。

 これからの未来は不透明ではあるものの、半神化というものがデメリットばかりとも考えにくいし何とかなる事を祈るしかない。

 「……掃討作戦もどうやら終わったらしいな」

 無事に陸地へと戻った四人は、斉藤くんを救護班へと引渡し変身を解除する。

 結果だけ見れば圧勝ではあったものの、デブリヘイムの装甲すら物ともしない聖剣は本当に厄介であった。常に即死の危険性が伴う戦場は思っていたよりも体力を消耗するらしく、今は三人に割り当てられた休憩室にて椅子に腰掛けながらも全力で脱力してしまっている。


 「それより相棒……神様に成ったと聞いたが、どんな具合なんだ? 見たところ筋肉量は増えていないようだが」

 相変わらず筋肉で物を語るカゲトラの言葉に苦笑しながらも、ツカサは見せた方が手っ取り早いかと思って指先を空いている椅子に向ける。

 瞬間、ふわりと浮かんで高速回転を始める椅子。

 簡単な念動力だがウケはいいらしく、カゲトラもカレンも揃って「おー」なんて呟いていた。

 「ご覧の通り、昔から伝わる超能力の類は一通り使えるようになったみたいだな。あと生身でも空を飛べるし、異常なまでに五感が冴えてる。他にも把握していない能力とかあるらしいけど、チカラが馴染むまでは俺にも分からん」

 ルミナスエネルギーを魂にまで受け入れてしまったのだ。一応昔から存在はしていたらしいが、現代では既に失われていた物。それを取り込んだ人間がどうなるかなんて、前例である瀧宮 帝にしか分からないだろう。


 「俺は能力じゃなくて体調の話をしていたんだが……まぁ問題はなさそう、なのか?」

 「おっとそっちか。体調に関してはすこぶる調子がいいよ。正に“生まれ変わった”感じがする」

 人類のステージを一段上がったのだから正しく“生まれ変わった”のだろうが、外見に大きな変化はなく、背中の緑光輪も今は鳴りを潜めている。

 これから何度も精密検査を受けたりしなければならないというのが億劫だが、仕方あるまい。

 「……いやでも、兄さん。なんか見違えたというか……圧が変わったというか。……そう、イケメンという程でもないのにイケメンオーラが出てるみたいですよ」

 「その一旦下げたの必要だった?」

 勘違いしたら困るので、とカレンはべっと舌を出し、それから何を言うでもなくお茶を啜っている。


 オーラ……オーラか。

 そういえばツカサの放つ“気功”にも若干の変化があった。

 普段なら金色に近いオーラの色が、今は若干だが黄緑がかっているのだ。十中八九ルミナスエネルギーが混ざっているのだろうが、それに伴って出力もかなり上昇しているみたいなので今から試すのが怖い。

 先程隠れて『目からビーム』とかやれるんじゃないかって試したら本当に焦点に向けてか細いレーザーが飛んで、標的の石ころが蒸発したので。

 これから自分は目からビームが出せるのだ、という自覚を持って生きなければならないという事実が発覚したのが何よりも辛い。

 ツカサはもう、対面に向き合った相手の顔を簡単に消し飛ばす事ができてしまうのだ。リア充爆発しろ、なんて唱えたら本当に爆破してしまう危険性が高い。


 自身が兵器として優秀過ぎる、と人知れずガクブルしていると、ツカサのスマホが着信を告げるアラームを鳴らした。

 液晶を見れば16:05という表示と『能美キャロライン』からの着信を示す文字列。

 ずっとドタバタとしていたから失念していたが、どうやらコンサート・フェスティバルの全日程は終了していたらしい。

 「ごめん、ちょっと電話に出てくる」

 ふたりにそう断りを入れ、ツカサはスマホを片手に休憩室を出る。

 休憩室とは言ってもコンサート会場から離れた資材置き場(ダークエルダー所有)に設置されたプレハブ小屋なので、人目を気にする必要はない。


 ツカサは少し歩いてブルーシートの掛かった鉄骨へと腰を掛けると、未だにコールの続いている着信の応答ボタンを押す。

 「はい、もしもし?」

 『あっ! ようやく出ましたわね!? 心配していましたのよ!?』

 キャロルの嬉しそうな、しかしどこか怒りを含んだ声がツカサの耳朶を叩く。声を聴く限り元気そうなので、特に問題もなくコンサートは終了したのだろう。

 ツカサも頑張った甲斐があったというものだ。

 そんなツカサの思いとは裏腹に、キャロルはツカサが電話に出なかった事に対して大層御立腹らしく、最初の5分位は話の節々にツカサに対する文句が続いた。


 やれ私の歌声はどうだったかとか、怪我はしていないかとか、戦闘の結果はどうなったのかとか……ツカサが答える前に次の質問を投げかけられ続けては答えられるものも答えられなくなる。

 ゆっくり電話越しで話を聞いてあげたいところだが、生憎とツカサ達も撤退の時間が近い。

 そもそも予定にない戦闘をして無理を言って休憩室を借りている身なのだ。さっさと帰ってカシワギ博士指定の病院にも行かなければならない為、あまり長話をする余裕はない。

 『…………そう、ですか。それであれば仕方ありませんわね』

 上記の旨を伝えると、ヤケにあっさりとキャロルは納得してくれた。

 これにて護衛の任務が完了となる為、これが最後の会話になる可能性もあるが……まぁ納得してくれたなら


 『ツカサさん、コンサートが終わったら話があるって、私言いましたよね?』


 「……あー……はい、覚えておりますとも……」

 そういえばそんな話もあったなと、ツカサは己の記憶を辿る。

 昨日話した内容の筈だが、今日は色々な事が有りすぎてすっかり忘れていたのだ。

 もちろん覚えていた事にするけれど。

 『では……そうですね、今から“水の広場公園”まで来ていただけませんか? 大丈夫、そんなに時間はとらせませんよ』

 水の広場公園と言えば台場でもデートスポットとして有名な場所……だったはず。

 昼間は水遊びをしにくる家族連れで賑わうらしいが、夜間は穴場スポットらしい。

 何か人に聞かれたくない話をするのならばもってこいの場所なのだろう。


 「分かった。今から向かうから、キャロルはきちんと送迎車で向かってね」

 一応忍者達が付いているだろうが、親善大使殿を夜間に独りで歩かせるワケにはいくまい。

 一応自国の方々とはダークエルダーを仲介として和解したはずなのだが、万が一という事もある。

 『分かりました、それではまた後で。……逃げないでくださいね?』

 最後に念押しをされ、通話が切れた。

 逃げたら余計に拗れそうなので逃げられない。

 どうしてこうも面倒事ばかりなのだと、ツカサは溜息をついて重い腰を上げたのと、休憩室からカレンとカゲトラが出てくるのがほぼ同時だった。


 「ああ兄さん、電話は終わりましたか? 私達はこのまま現地解散ということで帰りますけど、兄さんはどうします?」

 「俺はちょっと野暮用があるから、それを済ませてから帰るよ。夕飯はノアと済ませて帰るから気にしないで」

 「はーい」

 てっきりそのまま離れていくものかと思っていたカレンは、何故かツカサの傍までやってきて耳を貸すようジャスチャーをしてくる。

 ツカサが指示通り屈むと、カレンはツカサの耳元へと口を寄せ、

 「キャロルとの一件、内容がどうであれ結果くらいは教えてくださいね?」

 と、それだけ言ってツカサの肩を叩くと、小さく手を振って去っていった。


 「んー、結果ねぇ……」

 ツカサだって一応呼び出された理由に見当は付いているのだ。だがそれも昨日と今日とではあまりに状況が違い過ぎている。

 キャロルは暗殺者から逃げるお姫様だったのが親善大使兼歌姫に。対するツカサはヒーローらしき活動も兼任する悪の組織の幹部であり、今日は半神として覚醒してしまった。

 あまりにも方向性の違う立場同士だ。

 もしも呼び出された理由がツカサの予想通りだとしたら……。

 「……ま、違う話かもしれないしなぁ」

 とりあえず話してみなければ分からないと、ツカサは公園の方向へと歩き出した。


 もう冬になろうとする空、夕陽はもう沈もうとしている。

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