飛竜VS半龍 その2
黒雷が防戦一方のまま既に10分が経過していた。
腐ってもという言い方はアレだが、闇堕ちしても聖剣。
手加減しているとはいえルミナスビームを軽く上回る火力を無尽蔵の如く撃たれては手も足も出ない。
……だってやり過ぎると半龍の中にいる斉藤くんを殺しちゃうかもしれないし。
ノアの解析を待つしかないのは分かっているものの、ヤキモキするものだ。
“解析率31%……。あと約40分ってところかしら”
「流石にそんなに長くは保たないかなぁ!?」
この10分間だってずっと綱渡りのような状況だったのだ。
半龍の動きだってただのアウル・ナイトであった時から格段に速く・強くなっている。
これがまだ完全に馴染んでいないという事だとすれば、時間を掛ければ掛けるだけ強くなるということ。
これ以上強くなるのだとしたら、黒雷だって本気を出すしかなくなる。
流石に横恋慕というか逆恨みみたいなもので殺されてやる事はできない。
“ほら、今度は十字の斬撃よ”
「保てよ俺の三半規管んんんんっ!!」
連続バレルロールを生身でやるのは辛いと学んだのにまたやる羽目になるとは……。
半龍の振るう聖剣の射程は長い。長いし伸びるしほぼ面制圧のような有様だ。
それで黒雷と同様に空を飛び回り、フェイントも織り交ぜながら振るってくるのだから嫌になるが……これ以上海洋に逃げ出すと『国護結界』という物に引っ掛かるらしく、さりとて陸地に近いと大きな被害が出るし、黒雷一点狙いだから逃げても無駄というのが今の状況だ。
ボス戦からは逃げられない宿命らしい。
そう半ば絶望しかけていたその時だ。
「兄さん!」
「待たせたな相棒!!」
ブレイヴ・シルフィと雷瞳ミカヅチ。ダークエルダー内でも貴重な飛行能力持ちである二人が駆け付けてくれた。
「二人とも! ……悪い、助かる!!」
黒雷的にはミカヅチはいいとしても、シルフィ……カレンだけは巻き込みたくなかった。
しかしこのままでは手詰まりである事に違いはないし、彼女の能力は使い方次第であまりにも有用なので、ここまで来て手助けを断れるような状況ではない。
手持ちのありったけのドローン兵器とフラッシュバンを半龍へと投げ付け、オマケとばかりに轟雷の杭のみを槍投げの要領でぶん投げる。
これで多少なりとも時間は稼げるハズなので、黒雷は二人に集まれとジェスチャーをし、三人で円陣を組む。
「奴さんの狙いは基本的に私だけだ。二人はなるべく標的にならないよう、大外から遠距離攻撃に従事して欲しい。できるか?」
黒雷の言葉に二人は頷いて(ミカヅチはサムズアップ付きだった)それぞれの得物を取り出す。
ミカヅチは電撃銃とロケットランチャー、シルフィは双銃とベーゴマだ。
どちらも長・中距離を想定した武装をしてくれるのは話が早い。
「あの聖剣の射程は大体50mから長い時で200m。多分もっと伸びる。ビームのように飛んでくるけど斬撃で、聖光を目視できる間はずっと当たり判定があるからなるべく大回りで避けること。無理に近接を仕掛けると連携が取りにくくなるので遠距離攻撃主体で頼む。ノアが攻略法を考えてるから二人は俺の援護に徹してくれ」
ここまで話した時点で半龍が聖剣の切っ先を向けてきたので慌てて散開。
標的が三人に増えてもなお黒雷一点狙いなのは変わらないようなので、今まで以上に動き回りながら牽制の雷撃を撃ち続ける。
「三対一だが、悪く思うなよ……!」
もはや言葉も通じない相手に言っても無駄だとは思うが、それでも中にいる斉藤くんに聴こえているかもという僅かな可能性に賭けたい。
──未だ解決の糸口すらない戦場は、聖光がただ乱舞する。
◇
夢を見ている。
これは夢だろう。
僕はきっと夢を見ているのだ。
僕はこの剣があれば強くなれると信じていた。
人の想いをチカラにし、邪を断つ聖心の写し鏡。
写った光を何倍にも増幅して、全てを断ち切るツルギ。
この剣を持てば、きっと水鏡さんの助けになれる。
仲間を助けられる。
人を、この手で守ることができる。
そう信じていた。
↑↓
現実を見ている。
これが現実だ。
お前は間違いなく現実を見ているのだ。
お前はこの剣を憎しみに染めた。
人の憎悪を糧にし、全てを壊ス龍の写し身。
邪なる想いを何万倍にも増幅させ、世界を壊ス依代。
写した憎悪は全てを焼き、壊シ、微塵に潰す。
仲間なんて存在しない。
人は須く滅ぼさなければならない。
そう呪われているのだ。
◇
「くっ! このー!!」
ブレイヴ・シルフィは聖光の舞い踊る空の下、必死になって爆弾ベーゴマを飛ばしては半龍の注意を引こうとしていた。
ベーゴマとはいえ火薬満載の凶器。火と風でその威力を高め、並の怪人ならば脅威と断ずる物の筈だが、半龍は見向きもする事なく撃墜してしまうのだからタチが悪い。
「……この、またっ!?」
聖光を浴びて誘爆するベーゴマの爆風を浴びながら、シルフィはとにかく思考を回す。
黒雷と戦闘していた時は割と単純な動きしかしなかった(らしい)半龍だが、シルフィとミカヅチが参戦した辺りで半龍の行動パターンに変化が生じた。
今までは黒雷を狙って斬撃を飛ばすかビーム状にして撃つかの二択……つまり“線”と“点”の攻撃ばかりだったのだが、シルフィがベーゴマを飛ばすようになってから“面”での攻撃が増え始めたのだ。
攻撃モーション自体は単純で、聖剣を寝かせてラケットか団扇のように振るうだけなのだが……これが聖光を発して空間を薙ぎ払ってくるのだからタチが悪い。
どれだけベーゴマを送り込んでも雑に処理されてしまうのだから、このベーゴマを主力として扱っているシルフィには天敵も同然だろう。
だけど……大量のベーゴマを犠牲にして半龍を観察し続けた結果、ひとつだけ糸口が見えてきた。
「風の精霊、風で二人にこう伝えてください。『これから隙を作ります。一度だけしか通じないと思うので、その間に全力を叩き込んでください』と」
その言葉をそのまま風に乗せたのか、両者はシルフィを見てサムズアップをしてから半龍を挟むように旋回を開始する。
信じて任せてくれるらしい。
(『オイラのチカラじゃ作戦の後の拘束はできないよ。そこは考えてる?』)
(大丈夫、任せてください)
半龍を観察していて分かったこと。
それは翼を使って空を飛んでいるということ。
何を当たり前のことを、とも思うかもしれないが、これが今回は大事なのだ。
空を飛ぶには幾つかの方法がある。
例えばシルフィは自身の操る風を纏って空を舞うし、黒雷やワイバーン等は翼を広げて鳥と同じような飛行手段を取る。稀に概念に干渉して『頭を向けている方向に落ちる』という猛者もいるらしいが……そちらは今はどうでもいい。
大事なのは、半龍は翼を使った飛び方だということ。
「羽ばたくということは、空気を叩くこと」
ファンタジー生物みたいなナリをしているが、飛行手段は物理演算に則っているということ。つまり、
「羽ばたく瞬間に『翼の周りが真空になった』ら、どうなると思います?」
答えは目の前だ。
【ルォ……!?】
風を掴むべく動かした翼が文字通り空を切る。
唐突な環境の変化は半龍にも対処できなかったらしい。
流石に圧力差で破裂する事はしなかったが、それでも体勢は崩せた。
「そしてぇ……!」
聖剣を使われる前に、ダークエルダーのお家芸である薄いシールドを発生させる。
しかしそれは盾として使うわけではない。
「腕を振るう起点を潰せば!」
聖剣の石突や肩・肘の関節。攻撃する為に動かす箇所を全て座標出現させたシールドで身動きを止める。
そうなれば後は磔にされた半龍の出来上がりだ。
流石に一秒程度しか留められないだろうが、それで十分。
「後は頼みます!」
シルフィの声に呼応し、黒雷とミカヅチが翔ぶ。
両者共に帯電させた右拳を引き絞り、半龍を挟み込む形で迫り、
「「雷迅拳……!」」
【グァガッ!!】
流石の半龍とも言うべきか、単純な膂力のみでシールドを破壊するが……迎撃にも回避にも、もう遅い。
「「双牙ァ!!」」
放たれたのは獲物を食い千切る稲妻のアギト。
土手っ腹と背中をほぼ同時に打ち抜いたその拳は、纏わせていた雷撃を余すことなく半龍へと流し込む。
【ガガガガガガガガ……ッ!!?】
雷撃による硬直。その隙を逃す理由は無いとばかりに、黒雷とミカヅチはその場で身体を一回転させ、
「「粉砕ォ!!」」
強烈なかかと落としを半龍へとお見舞いした。
高速で海面へと叩き込まれた半龍は、水面が落ち着くまで待っても浮かんでくる気配がない。
案外呆気なく倒せたかなとも思ったけれど……。
「やったか?」
そうミカヅチが呟いたので、シルフィと黒雷は大きく嘆息して蹴落とした地点から距離を取る。
直後に全くダメージを感じさせない動きで半龍が浮上してきたのを「やっぱりな……」という顔で見つめる事となった。
本作とは関係ありませんが、いつか書くかもしれない長編の設定出しとして『電脳機兵アストレイ・ギア ~バリニーズ・ビギニング~』という短編を同時刻に投稿予定です。
本作の次に上記の作品の長編版を書くかハイファンタジーを書こうかどうしようかと迷っているところですので、もしよければ読んでいただき、感想等々を書いて頂けたら幸いです。
……ハイファンタジーといいつつ、今書き溜めしているのは微エロ系のトラップダンジョンものなんですけどネ……。