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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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飛竜VS半龍 その1

 最初の激突は、緑光と聖光だった。

 ルミナスビームと聖剣の放つ二条の光が両者の間で衝突・拮抗し、2秒程で聖光が競り勝った。

 慌てて回避をするも、翼の先が掠ったらしく『ジュッ……』という音と共に焦げ臭い匂いが鼻につく。

 「くそっ! 燃費のいい強攻撃を連射可能なんて卑怯過ぎるぞ……!」

 どれだけ文句を叫んだところで半龍人は聞く耳持たず。今の黒雷では聖光を避けながら飛び回る事しかできない。


 あのアウル・ナイトがただの怪人であったならば黒雷だって容赦しなかった。超加速で不意をつき、至近距離で必殺技でも叩き込めばほぼ勝てると言ってもいい。

 だが、彼は外見こそ半龍人にまで変化しているが中身は人間である。

 それも何度か世話になった相手だ。助け出してやらねば恩知らずとなってしまう。

 「ノア、解析の方はどのくらい進んでいる?」

 “進行度を聞きたいなら13%程度。せめて電撃の一発でも当ててくれれば早くなるけれど?”

 「無茶を言う!!」

 電撃さえ浴びせればそれをアンカーとして解析が進むらしいのだが、先程から何度雷撃を撃ち込んでみてもその全てを変態挙動で回避されているのだからどうしようもない。


 「くそっ! せめて意識が残っていればなぁ……!」

 半龍化したアウル・ナイトの攻略に関してはもうノアの解析頼りだ。

 相手が殺す気で向かってくるというのに、こちらは殺さずに無力化しなければならないのが辛いところだ。

 斉藤くんが完全に怪人化する可能性もあるので、できれば急ぎたいのだが……。

 “急かしたっていい事ないわよ。とにかくアンタは回避に専念してなさい”

 「了解!」

 と言った具合に、今は避けるので精一杯なのだった。



 ◇



 「黒雷さん……斉藤くん……」

 人のいない街に残された水鏡 美月は、ただポツンと立って黒雷達の飛んで行った方向を見つめていた。

 初めての恋心らしきものは宙ぶらりんのまま放置され、ウンディーネに……美月に惚れたと言った斉藤くんは怪人となってしまった。

 今日を逃してしまえばきっと、またしばらく黒雷と出会う事はできないだろう。かといっていま無理矢理追いかけて行こうにも、空中を主戦場とする彼等に対してブレイヴ・ウンディーネの打てる手は限りなく少ない。

 黒雷の言う通り、足でまといにしかならないだろう。


 「……悔しい、なぁ。いっつも私は、誰かの足でまといになってばかりで……」

 修行を怠ったつもりはない。

 戦士としての技量であれば、今なら貂蝉アンコウや呂布イカともそれなりに戦える自信はある。しかしそれはあくまでも地上での話だ。

 黒雷とアウル・ナイトは戦場を海上上空に定め、空中戦を主体とした。美月には彼らのように空を自由に飛び回る術などなく、戦場に並び立つ事すらできないのだ。

 これを適正の問題だと割り切れればいいのだろうが、美月はそこまで物分かりのいい方ではない。


 どうにか空を飛ぶ方法を身に付けようと心に誓い、今はとにかく黒雷の手助けをする方法を考える。

 「サラマンダーのチカラは長時間の飛行に向かない、ノームは私と同じで空ではお手上げ……。道場に集まっていたヒーローの中に空を飛べる人は……」

 誰かしら空中戦の可能なヒーローに声を掛けられれば戦力になってくれるはずだ。

 そう考えてしばらく。二、三人の候補が頭に浮かぶが、その誰も連絡先を交換していない事に気付く。

 (そういえば道場では正体を隠していたんでした……)


 ウンディーネとして顔見知りだとしても、候補のヒーローがこの戦場に出ているかも分からないしコンサート会場に戻る手段もない。探して回っている間にも黒雷達の戦いは続いているのだ。

 (一体どうすれば……)

 ここで右往左往していてもしょうがないのは分かっているが、かといって大人しく帰る気にもなれない。

 一縷の望みをかけて司さんにも電話を掛けてみたが、何度掛けても留守電モードのままで繋がらなかった。

 彼の人脈ならば或いは手助けしてくれるような人と連絡を取れるかもと思ったのだが……。


 「……いや、ひとり居た!」

 美月の脳内で繋がった情報。それはあくまでもバラバラのピースを集めて少しだけ全体像の輪郭が見えた程度の朧気なものであったが、今縋れるのはこれしかない。

 「まだギリギリ休憩時間のはず……お願い……」

 美月はついこの間連絡を取った()()の連絡先を出し、祈るような気持ちでコールを掛ける。

 一回、二回、三回……五度目のコール音の後に、彼女の声が聞こえた。


 「もしもし、不躾ですがお願いがあります歌恋さん……いえ、ブレイヴ・シルフィ」



 ◇



 「えっ、何を言ってるんですか?」

 突然美月先輩から通話が掛かってきたかと思ったら急にブレイヴ・シルフィと呼んでくるものだからカレンは大層困惑した。

 カレンがシルフィである事は楓かダークエルダーの関係者か三國先生位しか知らないハズなのだ。

 そりゃあ道場で過ごした五日間の中で、シルフィの能力を何度か使いはしたが……そこで正体が分かっていたなら、もっと早く言ってくるハズだ。

 あまりにも唐突過ぎる。


 『ああ、ごめんなさい。貴女がシルフィかも、と思っているのは私の推測に過ぎないの。誰かに言ったりしないから警戒しないで』

 「はぁ……」

 初手にぶっ込んでおいて警戒するなというのが無茶だと思うが、本題はどうやらそこではないらしい。

 『実は黒雷さん……ダークエルダーの幹部の人がね、ピンチなんです』

 美月の言葉に、カレンは慌てて組織用の端末を確認する。

 そこには確かに『黒雷とアウル・ナイトの変異体が交戦開始。海上に釣り出し周囲への被害は抑えるも防戦一方』との連絡が来ている。

 何がどうしてその状況になったのかは分からないが、黒雷として戦っているのに防戦一方というのは穏やかではない。


 『私では彼の足でまといにしかなれないから……。もしも貴女がブレイヴ・シルフィなんだとしたら、彼を助けてあげてほしいの』

 それが美月の想い。

 ヒーローだとか悪の組織だとか関係なく、個人として『黒雷』を助けたいと彼女は願ったのだ。

 面白い話だなと、カレンは思う。

 「……はぁ、事情はなんとなく察しました。シルフィ? という方は知りませんが、兄さんと兄の組織の人に連絡を取ってみます」

 あくまでも自分はシルフィではありませんよと、誤魔化せているかも分からないウソをつきつつカレンは端末でカゲトラさんの番号を探す。


 『ありがとう……。貴女は私が怪人を助けようとしているのに、何か言ったりしないのね……?』

 ちょっとは心の余裕ができたのか、今更そんな事が気になったらしい。

 適当に誤魔化してもいいのだが、ここはそう……。

 「私、実は黒雷さんの隠れファンなんです。内緒ですよ?」

 と、少しだけ寄り添っておいた。



 ◇



 「行くのかい?」

 「もちろんです」

 電磁式カタパルトの納まる格納庫にて、二人の少女が会話する。

 片方は黄緑色のフリルワンピースを着て滑空板へと乗り、緊張の面持ちで解放されるハッチを睨み。

 片方は普段着のまま、キャラメル味のポップコーンを片手にそれを見守る。

 ブレイヴ・シルフィと土浦 楓だ。

 美月からの電話の後、カレンはカシワギ博士へと事情を説明し自らが救援に向かう事を選んだ。

 それは兄が心配だからではなく、あくまでも美月にお願いされたからだ。

 兄ならばタイマン勝負で負ける事なんてそうそう無いとは思っているが、美月先輩に頼まれたのだから仕方ない。


 「ごめんね、ボクじゃあ空は飛べないからさ」

 ノームだって地上戦ならば喜んで参戦したかったのだろうが、現在の主戦場は海上上空。海と空しかない空間ではノームも本領発揮とはいかないだろう。

 「大丈夫ですよ。兄さんがそう簡単に負けるはずがありませんからね。この助太刀だって念の為ですから」

 逸る気持ちを抑えつつ、シルフィは未だに慣れぬスカートを摘む。

 空を飛び回る関係上、下にスパッツを履いているもののどことなく不安になるのは仕方のない事だろう。

 一度せめてズボンに出来なかったのかと不服を申し立ててみたものの、風の精霊シルフィ的には変えたくないの一点張りだったのでこのままである。

 宗教上の理由とかだろうか。


 『発射シークエンス完了。ユー ハブ コントロール』

 「アイ ハブ コントロール。……では楓、行ってきますね」

 バイザーを閉め、滑空板に掴まれば準備は万端だ。

 ハッチの向こうに見える蒼穹はどこまでも青く、澄んでいる。

 「はい、行ってらっしゃい。気を付けてね」

 親友の言葉に背中を押され、シルフィは“必須”と言われた言葉を紡ぐ。


 「ブレイヴ・シルフィ、発艦!!」


 猛烈なGと共に、シルフィは戦場へ向けて飛び立った。

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― 新着の感想 ―
無論防戦一方なのは助けようとしているから、なんだろうけども聖剣?の強化率ヤバイな、、、闇落ちしたときの方が数倍強くなってないかこれ。
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