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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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祭りの終わり その1

 「皆様、お待ちしておりましたわっ!」

 カレン達を出迎えたキャロルは、既にドレスを脱いで非常にラフな格好で寛いでいた。

 ……いや、ラフなのは別に構わないのだけれども、一国のお姫様が『ネコは必ず舞い降りる』と書かれたTシャツにハーフパンツという格好で菓子袋片手なのはちょっと考え直した方がいいと思う。

 「べ、別に構わないではないですか……っ! 私だって大仕事を終えた後ですし、司様も来てはいませんでしょうし。……来てませんわよね?」

 確かに来ないとは伝えていたが、そんなに警戒するならばもっとちゃんとした服で待っててもよかったのではないか。

 ……なんだか肩肘張っていたのが馬鹿らしくなってきた。


 「兄はまだ外におりますので、しばらくは戻ってきませんよ。水鏡先輩も用事が出来たとかで先程帰られました」

 嘘は言っていない。兄は黒雷として今は会議の場に出席しているらしいし、水鏡先輩は外に出てしまったので完全に戦闘が終了するまでは中に戻ってくることはできないだろう。

 「そうですか……。お二人には随分と助けられましたから、コンサートが終わったらお礼を言う時間を作ってもらえると助かりますわ」

 「そう伝えておきます」

 お姫様が直接お礼をなんて、夢みたいな話だ。それでも目の前にいるのは正真正銘のお姫様だし、カレン達は知らずのまま(カレン的には半信半疑)に彼女と一週間近くを共に過ごしたのだ。

 あまりにも現実味がない。


 「かーれーんー♪」

 私が少しだけ感慨に耽っていると、いつの間にかキャロルが目の前に迫っており、勢い付けて私を抱き締めてきた。

 「ちょっ……キャロルさん!?」

 マシュマロのように柔らかいものがその薄いTシャツ越しに当たっているのですがこれはどうしたらいいのでしょうか揉んだら不敬罪でしょうかしかしそれも本望というものでは……。

 なんてカレンがフリーズしているのも構わず、キャロルは存分にカレンへと頬擦りをすると、視線だけを後ろにいる楓と日向先輩へ向けた。


 「私、アナタ達に出会えて良かったですわ! カレンがあの時にクラバットルに攫われていなかったら、私は司様に出会うこともなかったでしょう。楓と司様があの場に来なければ、きっと私は死んでいたでしょう。あの時に司様に出会えなかったら、あの不幸のどん底から心を持ち直すまで、どれほど掛かった事でしょう。あの公園に皆様がいなかったら、私は鉄格子の中か棺桶の中だったでしょう。……そしてこの縁が無かったら、今日(こんにち)の私はなかったでしょう!」


 カレンの事を抱き締めたまま、キャロルは歌うように言葉を紡ぐ。

 邪神戦線と今回の騒動でキャロルら二度も死を身近にしながらも、どちらも兄やヒーロー達の手によって退ける事ができた。

 もうこれで安全、とは言いきれないのだろうが、彼女には少なくともしばらくの平穏な日々が待っているだろう。


 「私、アナタ達との出会いを一生忘れませんわ! 落ち着いたら伝記として書き起こして二か国語で発売しますので、是非買ってくださいましね!」

 「うわ、王女様の半生を書いた本に載るの? 嬉しいような怖いような……」

 抱き着かれていて見えないが、おそらくはどう反応したものかと渋い顔をしているだろう楓と日向先輩。

 そりゃあブレイヴ・エレメンツは正体を隠す系のヒーローなので、伝記という形で残されてはどこかで正体に気付く人もいるかもしれない。不安にもなるのも当然だろう。

 本人はどうしてもやる気みたいなので、その辺の添削はダークエルダーの専門家に任せる他ないが。


 「……さて、立ち話もこれくらいにしましょうか。皆様お昼はまだですわよね? その予定でこちらも料理を取り寄せたので、ご一緒してもらわねば困りますが」

 キャロルがそう言って柏手を打つと、部屋の一部の壁が開いて自動配膳ロボットが複数機登場した。彼らは一目散に部屋の長テーブルへと向かい、自身に備え付けられた蓋を開いて次々と料理を置いていく。

 メニューとしては洋風の肉料理がメインらしく、複数人で取り分けやすい料理を中心にパンやスープ等が並べられ、あっという間に長テーブルが埋まってしまった。


 「祖国の料理を取り寄せましたの。本来はあまり日本人が好む味付けではないのですが、今回はそこをアレンジしてもらいましたので食べやすいかと思いますわ♪」

 キャロルはカレンを抱いたまま、嬉しそうに笑う。

 「お世話になったアナタ達に郷土料理を振る舞える日を楽しみにしておりましたの。もちろん食べていってくれますよね?」

 長時間座っていてお腹の空いていたカレン達に拒否する理由はなく、王女様への謁見(?)はそのまま女子会へともつれ込んだ。



 ◇



 「さて、最初は……そうだな。どうしてキャロルを狙ったのか、その理由を聞こうか」

 会議の進行役らしきものを拝命してしまった以上、聞きたい事からまずは聞こうと黒雷が最初に思いついた質問がこれだ。

 両派閥が他国に向けて軍を動かした原点の理由。まずはこれを知らねば話にならない。

 「お答え願えますかギンガナム殿下、ムニエル殿下?」

 どちらも王子でグラハムイェーガー性なのでファーストネーム呼びになってしまうが、こればっかりは仕方ない。

 あくまでも勝利者は黒雷達なのだ、王子様護衛のSPから多少睨まれたところで怖気付くワケにもいくまいて。


 むしろ威圧し返してやろうかと、“気功”を殺気の圧へと変えて一番眼光の鋭い者へと目を向ける。

 相手を恋人と毎日イチャラブしているようなリア充だと思い込めば、この非モテオーラはどこまでも強く暗くおどろおどろしくなっていくはず……なんて考えながら殺気を放っていたら、目線を向けていた相手が泡を吹いて倒れてしまった。

 「黒雷殿、落ち着いて。……貴方は自身が思っているよりも脅威の対象なのです。強気の交渉をお願いしたとはいえ、あまり威圧し過ぎないでください。貴方の殺気をモロに浴びたら走馬灯が見えてしまいますよ」

 大隊長に諭されたのでとりあえず“気功”をしまったら、殿下達を含めその場にいた皆が一斉に少し安堵した表情をする。

 どうやらかなりビビらせてしまったらしい。


 (えっ、俺ってそんなに恐い?)

 “自覚がないようだから教えてあげるけど、さっきのは例えるなら『敵軍の戦闘ヘリが自身へ機銃を向けている』時くらいの恐怖を感じるハズよ。突然「はい、貴方はここで殺します。覚悟しろ」って言われたようなものね”

 脳内に響くノアの声に、黒雷は『やり過ぎたのだ』と実感した。

 ツキノワグマくらいのプレッシャーを与える事ができればくらいの気持ちでいたのだが、どうやら黒雷の殺気というものは高レベルまで進化してしまっていたらしい。


 「いや、失礼。そこまで畏怖させるつもりはなかったのだ。もちろんこれ以上敵対する気がないのであれば危害を加えるつもりはないので安心して欲しい」

 慌ててフォローをしようとするが、ギンガナム殿下は『何を白々しい』という態度を隠さないしムニエル殿下は完全にビビって床に突っ伏してしまっている。

 おかしいな、こんなハズでは……。

 「我が妹(キャルロッツェ)を狙った理由だったか」

 咳払いひとつ、ギンガナム殿下は腕を組んでこちらを見やる。

 あれだけ威圧したのに冷や汗ひとつで済ませているのは流石外交慣れしている王族だと言ったところか。


 「我ら穏健派の場合だが、マーテルレッドの目的に沿う形で事態を収拾したかった、というのが一点。そして……」

 ギンガナム殿下はそこまで話すと大きく溜息をついて目頭を揉んだ。

 心労でも溜まっているのだろうか?

 「キャルロッツェの厄介な能力、その被害を最小限に抑えたかったというのが一点。……ダークエルダーも把握しているのであろう?」

 『まさか知らずに事を成したのではあるまいな?』と問い掛けるような視線を感じつつ、黒雷は軽く頷いてから口を開く。


 「もちろん、全て承知の上で守り抜いたのだとも」


 一息。


 「洗脳に近い不特定多数に向けた制御不可能な『魅了』。それが彼女の能力だ」


 祭りの日ももう半ば。男達の密談の裏で、少女達は談笑する。

 散々引っ張ってきましたが、キャロルの能力の答えは『魅了』でごさいました。

 そんなの大したことないだろって思うじゃないですか。そこのところは来週に理由など書いてまいります。


───


 黒雷:(「・ω・)「 ガオー(精一杯の威嚇)(組織の恥にならなければよい)(威勢で負けてなるものか)(本気で威圧する気はない)


 黒服:ヒェッ(全身鳥肌)(走馬灯)(腹を空かせた虎と同じ檻に閉じ込められた気分)(覇〇色の〇気)(寿命が一瞬でかなり縮んだ)(一言でも喋ったら殺されそう)(指一本でも動かしたら殺されそう)(ァ、アイエェェェェ……)(機嫌損ねたら祖国を滅ぼされかねないんだけど怖すぎるッピ)


 大隊長:(これ止めなきゃ殺してたんじゃないの~?)

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